表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒くさがり屋の異世界転生  作者: 自由人
第5章 交易都市ソレイユ
100/215

第98話 グリフォンとガルフとお金と

 2人が元気を取り戻したところで、ケンは再出発のために声を掛けた。


「それじゃあ、グリフォンでも狩りに行きますか」


「わかったわ。でも、話は変わるけど、ニーナは普通に喋れたのね」


「!!……何? 意味不明」


「今更取り繕っても遅いわよ? 貴女とケン君が言い合ってる時に、聞いていたんだし」


「うっ……」


「それで? 素の貴女は、さっきまでの喋り方なんでしょ?」


「はぁ……そうよ。人見知りが酷くて、上手く会話ができなかったから、あの喋り方になっちゃって、それが癖になったのよ」


「もう私たちは、人見知りをするような間柄でもないでしょ? そのままの喋り方で話しましょうよ」


「あぁあ、せっかくケン君と2人だけの秘密だったのになぁ」


「そんなのダメよ。3人だけの秘密にしましょ。それと、次のグリフォンはケン君にお願いしてもいい? 時間も結構経っちゃったし、私やティナがするとちょっと……ねぇ?」


「そうね……さっきの原因にもなったものね」


 ニーナとティナがそれぞれ言うと、ケンは快く承諾するのであった。


「わかりました。じゃあ、お2人は見学ですね」


「ケン君が本気出したら、どのくらい早く倒せるのかしら?」


「想像もつかない」


「ケン君、ちょっと次のグリフォンは、早めに倒してもらっていい?」


「別に構いませんよ。狩ることには変わりないし」


 ケンたちは、そのままグリフォンのところまでやって来ると、ケンが2人の要望を叶えるために、早めに倒してみることにした。


「それでは倒しますよ」


「こんな遠くからなの?」


「魔法でいきますので、近接はやらないんですよ」


「そういうことね」


「それでは、《酸素消失(オキシロスト)》」


 ケンが魔法を唱えると、グリフォンは急に藻掻き苦しみ出して、やがて、糸が切れたかのようにパタリと倒れた。


「終わりました」


「えっ……うそ……?」


「意味不明」


 ケンは、グリフォンの元へと歩み寄ると、こと切れているのを確認して2人を呼んだ。


「これ、死んでるの?」


「寝てるようにしか見えない」


「ちゃんと死んでますよ。ソロの時は、こうやって時間短縮で狩りをしていましたから。素材も傷まないし、結構いい額で買い取ってもらえるんですよ」


「どうやって殺したの? もしかして毒?」


「いえ、毒だと買い取って貰えないですよ。原理は難しいと思いますので省きますが、例えて言うなら、呼吸困難に陥ったってことです」


「息が出来なかったってことかしら?」


「はい。日常的な栄養は、食事や魔素の吸収でしょうが、それとは別で、人間と同じように呼吸をしている魔物もいますから」


「何で今まで使わなかったの?」


「これをすると狩りって雰囲気にならないでしょ? 淡々と作業を繰り返すだけなので。それに、最初の頃は、戦闘の感覚がまだ掴めてなかったから、安全面を考慮して遠くから倒すようにしていたんです。まぁ、見つかって、近接戦闘に持ち込まれたこともありましたが。当時は武器を持っていなかったので、苦労しましたよ」


「武器も持たずに、近接戦闘だなんて……」


 ティナが驚いているところ、新しい魔法を目にしたニーナは、瞳をキラキラさせながら、ケンにお願いごとをした。


「この魔法、私に教えて」


「それは無理ですね」


「どうして?」


「はっきり言って危険だからですね。あと、原理は難しいし、詠唱がありませんので、ニーナさんには無理です」


「そんなに危険なものかしら? これが使えたら魔術師の安全が、格段に上がるわよ?」


「それは、対象が魔物に拘らないからですよ。相手の呼吸を止めるのですから、基本は生きてる動物全ての天敵魔法ですよ。最悪、これさえ使えれば、一国を滅ぼすことだって可能なんですから。相手が生きてさえいれば、負けることはないですね。アンデッドとかには効かないでしょうけど」


「そんな危険な魔法を、ケン君はどうやって知ったのよ」


「作りました」


「「えっ!?」」


「記憶がなかったから、どんな魔法があるのかわからなくて、あとは、王都の解体場でライアットさんに、傷が少ない状態が1番素材価値があるって聞いたものですから、試しに作ったらできたんですよ」


「ケン君って、魔法が作れるの?」


「ありえない……一体何者?」


「何者かは記憶がないのでわかりませんが、少なくとも賢者とかではないですよ。ステータス欄には、その記述がありませんでしたので」


「ケン君、魔法の師匠になって。私に色々教えて」


「私もニーナほどじゃないけど、教えて欲しいかも」


 ケンは魔法の師匠になるほど、魔法を熟知しているわけではないので、断っていたのだが、2人があまりにもグイグイと迫ってくるため、仕方なく我流でいいのならと、条件付きで魔法を教えることにした。


 グリフォン戦は3人で話し合った結果、ケンがトドメを刺して倒す係になり、一匹目のように丸焼きになって、素材がダメになるようなことはなかった。


 それから、まだいるグリフォンを倒すために山脈を彷徨き、近づいたら倒すということを何度か繰り返して、ちょうどいい頃合いを見計らって、討伐をやめて街へ帰ることにした。


 帰りは、もちろんティナをお姫様抱っこしてあげて、行きとは異なりゆっくりとしたペースで街へと向かっていく。


 街に辿りつくとギルドへと赴いて、今日の依頼達成手続きをティナが済ませて、解体場では、グリフォンを数頭出して買い取ってもらった。


 魔石はその際に抜き出しており、これを持ってドワンの元へと向かい、武器の素材として渡したが、まさか1日で持ってくるとは思っていなかったようで、ドワンは呆れ返っていた。


 宿屋へ帰ると、ガルフたちが夕食のため食堂へとやって来ていたので、ケンたちも入浴を済ませると、夕食を摂りに食堂へと向かう。


「よぉ、お疲れさん。今日は何してたんだ?」


 ガルフが軽く聞いてくるので、ケンもそれに習い軽く返事を返す。


「お疲れさまです。今日は狩りですよ」


「へぇ、何を狩ってきたんだい?」


 ロイドの質問に答えたのは、ティナだった。


「聞いて驚きなさい。なんとグリフォンよ!」


 ティナは、胸を張って自慢げに答えると、ガルフが疑問を呈する。


「どうせ、ケン頼みだったんだろ?」


「違う」


「そうよ! 私たちだけでちゃんと狩れたんだから」


「本当かぁ?」


 ガルフが疑っていると、ケンが横合いから口を挟んだ。


「本当ですよ。紛れもなく2人で討伐しましたから。途中から話し合いで俺がトドメを担当しましたが、それまでは、2人がメインで危ない状況だけにしか、俺は手を出していませんでしたから」


 あえてケンは“2匹目から”とは言わずに、“途中から”という言葉を選んだ。さすがに、素材を取れないほどグリフォンを焼き尽くしたとは言えず、お茶を濁すのであった。


「ケンが言うなら、本当なんだろうね」


「しかし、後衛職2人で、Aランクのグリフォンを討伐ねぇ……ケンのサポートがあったとしても、俄には信じられねえな」


「まだ疑うっていうの?」


「現実を受け入れるべき」


「別にそこまでは疑っていねえが、何でAランクのクエストなんざ受けたんだ? Bランクでも良かっただろ?」


 ガルフの尤もな質問に、ケンが答える。


「ドワーフ職人の方に頼まれたんですよ。装備品を新調するのに、素材を持ってきたら割引するって。それで、グリフォンの魔石が必要だったんです」


「な、何っ!? お前たち……ドワーフ職人に、武器とか作ってもらえるのか!?」


「そうよ。羨ましいでしょ? ケン君がその職人さんに気に入られたのよ。それで、一緒にいた私たちの分も、ケン君が頼んでついでに作ってもらえるわけ」


「ふふん」


 ティナとニーナは、ドヤ顔でガルフを見返す。


「ケン、僕も装備を新調するのに、どれにするか悩んでたんだけど、良ければ紹介してもらえないかな?」


「いいですよ。とくに手間でもないですし。ドワンさんなら多分、作ってくれるんじゃないですかね。絶対とは言いきれませんが」


「なっ!? ロイド、お前ずるいぞ! 俺だって欲しいのに!」


「ガルフは、その前にお金を持っているのかい? ドワーフ職人に作ってもらうオーダーメイドは、他の鍛冶師に作ってもらうより、高くつくんだよ?」


 ロイドの言葉に、ケンが疑問に思い尋ねてみた。


「そんなに、違いが出るもんなんですか?」


「出るよ。ドワーフと他の種族じゃ全然質が変わってくるから、値段が高いんだよ。その中でも、さらにドワーフの腕の良さにピンキリがあるから、幅が広がって値段が余計に高くなったりもするよ」


「へぇ……勉強になりますね」


「それに、交易都市に店を構えているなら、かなりの腕前と見た方がいいね」


「でも、本人は路地裏でひっそりとやっていますよ。気に入った相手以外からは、仕事は受け付けないみたいなので、日頃は、包丁を商いにしているみたいです」


「それでもだよ。日頃から包丁しか扱っていないなら、その包丁がかなりの質ってことになるだろ? 包丁だけで交易都市を生き抜くなんて、かなりの腕前だと思うよ」


「そう言われれば、そうかもしれませんね。魔鋼とかも普通に扱えるみたいですし」


「で、結論から言うと、そんなドワーフ職人に、装備品を作ってもらうほど、ガルフは、お金を持っていないってことになるんだよ」


「ぐっ……」


「身から出た錆ね。お酒ばかりに、お金を使うからこうなるのよ」


「自業自得」


「俺だってここに来てからは、酒を控えるようになったんだぞ」


「それでも、“ここに来てから”でしょ?」


「今まで、貯めてこなかったガルフが悪いよ」


「よくそんな使い方で、将来結婚しようとか言えるわね」


「理解不能」


 三者三様に責め立てられガルフは、ぐうの音も出ないほどに憔悴してしまった。


「ケン君、間違ってもガルフのために、お金出そうとか考えちゃダメよ。これが、ダメな大人のいい見本なんだからね。お金なんてあげてしまったら、余った分はお酒に消えるんだから」


 ケンは、見事にやろうとしてたことを言い当てられて、ガルフの事に関しては、どうにもならないことを理解したのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ