第8話 2年後……
あれから2年の月日が経ち、俺は5歳になろうとしている。どうやら貴族の社交界では、お披露目会なるものがあるらしい。一般ピーポーであった俺には理解の外だ。
そんな俺も例に漏れず、お披露目会に参加せねばならないみたいだ。ぶっちゃけ面倒くさい。行きたくない。ゴロゴロしていたい。
『もう、諦めましょうよ、マスター』
『諦めきれるか! 何とか参加しないでいいような方法を、お前も考えろ』
『無理ですよぉ、【病気耐性】持っている以上、病欠は出来ないんですよ?』
『世の中にはな、“仮病”という病気があるのだよ。これは、どんな人間であろうと防ぐことの出来ない難病なんだよ』
『それは、限定的な人種のみが罹る病気でしょ。普通の人は罹りませんよ』
なんて使えないサポートナビだ。今サポートしないで、一体いつサポートする気なんだ。休めるような勝利の方程式まで俺をナビしろよ。
『そもそも俺はまだ5歳じゃないんだぞ。何で出席しなきゃいけないんだ!』
『それは、誕生日に合わせてたら何回もお披露目会を開かなきゃいけないからですよ。今年で5歳となる子供を一堂に会して、一回で済ませようとする大人の陰謀ってやつですよ。経費も少なくて済みますからね』
ここへきてまさかの大人の陰謀だと……何回もするのが嫌なら最初からするなよ。
『それに、国の行事として決まっていますから、無くすことも出来ないんですよ。毎年ある恒例行事ってやつです』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
数日後……色々と欠席するための手段を考えたが、何一つ上手くいかず結局参加するハメになってしまった。
朝方、憂鬱な気分で食事を摂っていると、母さんから話しかけられた。
「ケビン。今日は初めての王都だから楽しみでしょ?」
「(お披露目会さえなければ)楽しみです。どの様な街並みなのか早く見てみたいです」
「それに、アインたちにも久しぶりに会えるかもしれないものね」
それに関しては素直に同意したいが、シーラ姉さんに会うのは少し遠慮したい。もみくちゃにされそうだ。
「奥様、本日は何時頃出発なさいますか?」
カレンが話の途切れを見計らって尋ねてきた。
「そうね、折角だからお昼は王都で食べましょう。その為には、朝のうちに出発することになるわね。ケビンもそれでいいかしら?」
「はい。母さんに任せます」
ぶっちゃけお披露目会のせいで、気分が上がらない。何かを決める気力すらない。
『なぁ、サナよ。明日まで時間を飛ばす魔法とかないのか?』
『そんな都合のいい魔法なんか知らないですよ。知ってても教えませんけど』
『サポナビ失格だな』
『そんな事で失格になってなるもんですか。諦めてお披露目会に出席してください』
「ケビン? 何か考え事でもしているの?」
おっと、サナと会話していると、必然的に無口になるから気をつけないとな。
「えぇ、お披露目会とはどのようなものか、少し気になりまして」
「特に大したことはないわよ。同年代の顔合わせみたいなもので、ちょっと規模の大きい友達作りの場よ。大人たちにとっても新たなコネクションを作ったり、旧交を深めたりする顔繋ぎの場でもあるわね」
もう、それ大人たちだけで良くないか? 子供をダシに使うなよ。ますます行きたくないな。
そんな中、馬車の準備が出来たようで出発の時がやってきた。
「奥様、馬車の準備が整いました。何時でも出発可能です」
「分かったわ。ケビン、行きましょう」
玄関先に出ると皺ひとつない燕尾服を、見事に着こなしたアレスが待ち構えていた。今回もアレスが御者か。
「お待ちしておりました。今回は王都までの往復を務めさせて頂きます。なお、王都到着予定はお昼前になります」
王都まで近くて助かった。遠くの領地に住む貴族とかは何日も掛けて移動するんだろうな。
馬車へ乗り込むと母さんの隣へ座る。しかし、母さんがそれを許してはくれない。俺を抱きかかえると安定の膝上へと乗せる。人目がない時は大体こうなる。
母さん、俺はもう5歳なんだが……。
「では、出発します」
父さんは王都での仕事もあるから、領地の中でも王都寄りに街を作ってる。そのせいもあってか、王都までは馬車で行っても4時間弱で到着することになる。
それに、うちは男爵だから領地自体が狭いし、特段、街の位置も変になってないはずだ。
それに比べ上位の爵位持ちの人は領地が広い分、王都に来るのは大変だし、統治にも手間が掛かりそうだ。その分、税収は上がり贅沢な暮らしをしているのだろうが。
爵位の低い家が、何故王都近くの領地を与えられているのかは知らないが、普通は爵位の高い人が貰うべき場所なのではないのか? 辺境伯は別だろうが。
やはりと言ってはなんだが、朝早かったせいと馬車の揺れと母さんの温もりで、コクリコクリと船を漕ぎ始めた。
「ケビン、眠かったら寝てていいのよ。落ちないようにお母さんが抱いててあげるから」
そう言うと、しっかりと抱き直してくれて体が安定する。お言葉に甘えて俺は、母さんの温もりに包まれながら少し眠ることにした。
「……ン。……ビン。……ケビン」
誰かの呼ぶ声がする……俺は微睡みの中意識を覚醒させていった。
「う、……う~ん」
「ケビン、起きなさい。そろそろ着くわよ」
あぁ、そういえば王都に向かっていたんだった。なんだか熟睡してしまっていたな。
「すみません。完全に寝入ってしまいました」
「いいのよ。寝る子は育つんだから。寝心地は良かったかしら?」
「はい、母さんに抱かれてると不思議と安心感があって、熟睡してしまいました」
「それは良かったわ。王都に着いたらお昼にしましょうね」
馬車は衛兵の検問を通過するとそのまま王都へ入り、貴族街にある別宅へと向かう。暫くして別宅へ着くと使用人が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。奥様、ケビン様」
現れたのは別宅を管理している筆頭執事のマイケルだった。燕尾服をピシッと着こなして、行動に無駄がない洗練された動きだった。完璧超人ここに極まれりだな。
「マイケル、昼食にするわ。準備してくれるかしら」
「はっ。畏まりましてございます」
「ケビン、食堂へ向かうわよ」
スタスタと歩く母さんの後ろをついて行くと、一際大きい食堂へと到着する。別宅は初めて来たけど食堂ひとつとっても大きいな。
「ここはね、お客様とかも来られるから大きめの屋敷にしているのよ」
なぜ考えていることが分かったんだろうか? 母親のなせる技か?
「ふふっ。ケビンはね、顔に出るからわかりやすいのよ。別宅に着いてからは、キョロキョロとしてたでしょ? 初めて来たし珍しいのもあるけどね、食堂に入った途端、ポカンと口を開けてたわよ」
「それは、お見苦しい所をお見せしました。貴族にあるまじき行為でしたね」
「いいのよ。ケビンは可愛いんだから、何をしても許すわ。さぁ、席に着きましょ」
この母親の溺愛っぷりは何なのだろうか? やっぱり一番下の子には甘いっていう都市伝説の賜物か?
「そういえばお披露目会は夜からでしたね。何処で行われるのですか?」
「王宮よ。親子合わせて何十人と参加するから、大きなホールじゃないとみんな入れないのよ」
うへぇ~……人混みかよ、面倒くせぇ。行く気がどんどん無くなっていくな。何とかならないのか?
「そんなに心配しなくても、実際にそこまでの人数は来ないわ。貴族や名のある商人限定で、同じ年にそんなに子供は産まれないし、病欠したりする子もいたりするわ」
やはり、病気で欠席はありだったのか! 最終手段の仮病を使えばよかった……
「でも、欠席した場合は翌年に参加するのだけれど」
ダメか……何をやっても参加は確定事項なんだな。
「お披露目会なんだから気負う必要はないけれど、一応お父さんの迷惑にならないように気をつけましょうね」
「はい、分かりました」
(コンコン)
「お食事の準備が整いましたので、お持ち致しました」
「入って構わないわ」
扉を開けて入ってくるのは、マイケルとメイドさんだった。
うちの使用人たちはタイミングを見計るスキルでも持っているのか? 的確すぎるだろ。
それから二人で食事を摂り、食事が終わった後は使ってもいいと言われた王都用の自室へとやってきた。
夜までする事がないな……何して過ごそうか……魔力操作でもして遊ぶかな。
『マスター、未だレベルの低いスキルの訓練でもしたらどうですか? 【魔力操作】はこれ以上レベルが上がらないから、他のスキルで暇つぶしするべきです』
確かにレベルカンストしてるスキルを、更に鍛錬してもメリットは少ないしな。ステータスで確認してみるか。
『ステータス』
ケビン・カロトバウン
男性 4歳(今年で5歳) 種族:人間
職業:社交界デビューを控えた子供
状態:憂鬱
Lv.1
HP:39
MP:68
筋力:21
耐久:18
魔力:38
精神:30
敏捷:30
スキル
【言語理解】【創造】【センス】【隠蔽】【偽装】
【剣術適性】【魔法適性】
【剣術 Lv.3】
【身体強化 Lv.3】【属性強化 Lv.4】
【病気耐性 Lv.EX】【魔力操作 Lv.EX】
魔法系統
【火魔法 Lv.2】【水魔法 Lv.2】【雷魔法 Lv.2】
【土魔法 Lv.2】【風魔法 Lv.2】
加護
女神の寵愛
原初神の加護
称号
アキバの魔法使い
女神の伴侶
ゴロゴロの同志
職業ってリアルタイムか!? ここへ来て状況が変わったから更新されたのか? しかも、状態が憂鬱って……確かに憂鬱だけど、あえて文字にしなくても。
レベルが上がっていないのに、ステータス値が上がってるのは訓練の賜物だろうか? 今の強さは一般的にどのくらいなのだろう。
『サナ、一般的な5歳のステータス値を教えてくれ』
『それは、マスターの初期値とほぼ同じです。訓練するしないで若干の誤差はありますが』
『俺のステータス値は一般的に見てどうだ? 閲覧許可を出すから確認してみてくれ』
『んー……HP、筋力と耐久に関しては初等部中学年くらいのステータス値ですね。それ以外のステータス値は初等部卒業くらいですね』
これは偽装しとかないとやばいな。基本的にスキル関係は隠蔽するだけだから楽なんだけど。
『サナ、【創造】使うからサポートよろしく。今回は、偽装用のステータス表示を、データとして保存・読込み出来るようにしてくれ。毎回、偽装し直すのも面倒くさい』
『了解でぇす。サナちゃん頑張っちゃいますよぉ』
無駄にテンション高いな……元気づけられて助かる場合もあるんだが。
『ではでは、ちょちょいのちょいっと。終わりましたよ』
呆気ない……それじゃあ、偽装でもしとくか。
ケビン・カロトバウン
男性 5歳
種族:人間
職業:子供
状態:普通
Lv.1
HP:8
MP:4
筋力:10
耐久:7
魔力:8
精神:6
敏捷:5
スキル
【身体強化 Lv.1】【剣術 Lv.1】
こんなもんだろ。スキルが何もないのは怪しまれるかもしれないし、在り来りのやつで問題ないだろ。
『サナ、今の偽装中のステータスを、偽装1として保存しといてくれ』
『分かりました。偽装1《5歳児》としておきます』
『助かる。あとは、時間まで魔法で遊んでいよう』
『そうですね。魔力操作は完璧なので事故にはならないでしょうし』