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第9話 『大森林の異変は台本通りに』

団長視点です。

 時間をやや巻き戻る。

 

 大森林、最奥部に『黄昏の夜明け団』は到達した。

 団長こと、剣士ガーベの合図とともに各幹部が部下を率いた小隊を編成し、周辺の探索をする。

 しかし、魔物出現率を増長させるカギとなるようなものはなかった。


「そもそも魔物出現率が上がるっていう話自体を初めて聞いたから、原因もさっぱり掴めないんだよな」


 中一時間程探索させたが手掛かりは一向に見つかりそうになかった。小隊を結集させて、幹部に手掛かりの有無を尋ねたが、皆首を横に振った。


「団長。あたしら、手掛かりを探す余裕なんてなかったよ。魔物出現率が異常で、そいつらへの対処で精いっぱいだった」


 皆、アイレに賛同する。ガーベもまた、同じ意見を持っていた。

 『大森林最奥部』は中級クエストの宝庫とされ、中堅パーティの狩場としてそこそこ名が知れている。しかし、いくら魔物の強さが中級であろうと、魔物の出現率が跳ね上がっている現状では、きっと中級のパーティじゃ太刀打ちできない。


「いかんせん、二十倍だしねえ」


 ブロンテが嘆息を吐く。探索している場合じゃないのは明らかだった。

 やはり、日を改めてもう一度探索をするべきだろうか。今は瞬間的に出現率が急上昇しているだけで、何日か経てば治まるかもしれない。しかし、先ほど『大森林』の面積の拡張現象を目に焼き付けてしまった身としては、あまり長い時間を待つことも許されないのではないか。

 ――思案の末、ガーベの指示が下る。


「ひとまずは引き上げよう。三日後にもう一度、ここを探索する」


 パーティは、『最深部』に至るまでの戦闘で激しく疲弊していた。遭遇する魔物が中級までだったとしても、数が普段の二十倍だ。戦闘回数も当然魔物の数に比例する。

 ガーベは、三日後に長期戦を想定した用具の調達をして、再び最奥部に潜る旨を伝えると、パーティを率いて、帰路に就こうとした。

 そして彼はある異変を察知する。


「あたりが、妙に静かだ。……さっきまでの魔物出現率が嘘のように思えるな」


 大森林の一番奥が静けさに包まれる。

 外気が急速に冷えている。体感ではない。あたりに霧がかかり始めたのだ。


「皆、急ぐぞっ!! このままじゃ霧が濃くなる一方だっ!」


 ガーベが率先して、『大森林』の出口へと歩みを進めると後ろから隊列がついてくる。

 魔法で走りに加速をかける。パーティ一同が、大森林を脱出するために、大地を駆け抜ける。

 相変わらず、辺りからはぱったりと魔物の気配が消失していた。

 そして、霧は時間が経てば経つほどより一層濃くなっていく。

 周囲の木々の連なりはもはやどこをどう走っていようが、同じように見えてしまう。

 

「団長っ! 一旦止まってくれやしないか!?」


 前方に飛び出してきたアイレが団長に並ぶ。彼女は、腰に引っ掛けてあった羅針盤を手前に掲げて、驚愕の声を上げた。


「磁場が……狂っちまったよ! 霧も濃いしこれじゃあ、今どこにいるのかが皆目見当がつかないっ!」


 そんなまさか。『大森林』で磁場が狂ったことなんて今まで一度もなかったし、そんな噂も全く聞かない。それに、まれに霧がかかることは聞くが、それでも見渡す限りの視界が真っ白に染まったなんて話も聞いたことがない。

 三十余年の冒険者として生きてきた。

 だが、立て続けにこんな『想定外』が起こるなんて正直な話あり得ない。

 運がついていないとかそういうレベルの話じゃない。

 まるで、このクエスト自体に筋書きがあるかのような。

 熟練の剣士、ガーベはあくまで冷静だった。 



「ちっ――最初から、嵌められていたってことか」








 直後。

 『黄昏の夜明け団』の背後で、唸るような轟音が響き渡った。

 ガーベの額に、わずかな冷や汗が流れる。

 彼は振り返った。

 

「おいおい。……ここにきて、まさか災害級が出てくるなんてな」


 用意されたであろう筋書きの主役が、巨躯で霧を払う。

 もはや、ガーベは動じることがなかった。

 たとえ、目の前の怪物が災害級魔物だったとしても。

 たとえ、――その魔物がかつて『黄昏の夜明け団』で封印した化け物だったとしても。

 

『久しいな、剣士ガーベ』


 蜥蜴のような龍の口がまがまがしく笑っている。

 見下すようにあざ笑っている。


「まさか。いつか封じたはずの龍が蘇るなんてな。どういう風の吹きまわしだよまったく」


 対するガーベも物怖じは一切ない。しょせんはかつて自らが封印した魔物なのだから。


 ――――黒龍アポゴノス。災害級魔物。

 そして、『黄昏の夜明け団』が唯一封印したことがある化け物。

 

 何百年、何千年に一度しか現れない災害級魔物。

 人間の生涯において一回すら見ることができないような存在だ。

 だが、……『黄昏の夜明け団』はこれで二回も遭遇したことになってしまった。

 最初にこの化け物を封印した場所――中級魔物までしか現れないはずの『大森林の最奥部』で。


『偶然が、貴様と我を逢わせたのだろうな。ならば、我は貴様を殺すだけだ』

「俺はできれば遭いたくなかったがな……!」


 アポゴノスが大きな顎を開く。口の先端に魔力が結集していくと、霧が瞬時に晴れていく。

 霧は、空気中に溶けきれなかった魔力だったらしい。


「各、小隊――四つに分かれて行動を始めよ。俺がこいつの気を引くから。――急げっ!」


 幹部の四人が頷くと即座に小隊が分岐すると、ガーベは腰に携えた剣を引き抜いた。

 上段の構え。


『構えだけは、変わらぬのう。ただ、貴様はあくまで人間風情。衰えた身体で我に挑むなどなんとも軽薄な考えを持っているようだな』

「お前も封印されている間に身体が鈍っちまったんじゃねえか?」

『戯言を。なあに、戦ってみれば分かる。――どれ、我から先に仕掛けさせてもらおうか』


 龍の顎に結集した魔力の塊は、邪悪な黒を纏っている。

 剣を構えたガーベが地面を蹴る。瞬時に足元で発動される最下位魔法の多重詠唱――『風圧無効』で風の抵抗を一切受けない状態にし立て続けに発動される『加速』『加速』『加速』『加速』っ!!

 音速を超える弾丸と化したガーベは、『飛翔』『飛翔』『加速』……、と休む間もなく魔法で身体を強化する。

 一秒すら要らない。

 ガーベはアポゴノスの胴を垂直に駆け上がっていく。


「遅いぞ、黒龍っ!!」

『なんと生意気なっ! 魔力弾で返り討ちにしてくれるッッ!!』




 邪悪な黒の塊から分散するように、無差別な魔力弾が射出される。

 しかし、ガーベも自らに魔法をかけることで、弾丸を避けて避けて避けて避けて、

 魔力弾が切れるのを見計らって、魔法『飛翔』をかけて、アポゴノスの真上に飛び上がる。


「豪快にぶった斬れっ!!」

『させるものか――!』


 黒龍の顎が開かれ――急速な魔力の吸収。外気が五度以上上がる。

 ガーベの額に流れる汗はすぐさま蒸発する。

 ――そのとき、ガーベは黒龍アポゴノスと初めて遭遇したときのことを思い出していた。

 最初に目の前の龍に歯向かった日を。

 そして、歯向かった龍の死体から生まれた、ファウストという少年との出会いを。


 

 直後。

 アポゴノスが射出した熱線と度重なる加速で音速を超えたガーベの斬撃が衝突する。



 ズガァァァァァァッッッッ!!!! と。

 『大森林の最奥部』を揺るがす炸裂音が轟いた。

 


感想評価よろしくお願いします。

最新話、思いのほか長くなっているので今週の金曜くらいまでには投稿したいなと考えています。遅れてすいません…

P.S.「この野郎遅えじゃねえかはっ倒すぞ」と言われるくらいに作業時間が取れていないのでちまちまと土日で一話書き上げます…(テスト期間が終わったら通常の投稿に戻せるはずですそれまでしばしお待ちを)

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