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第6話 『初めてのクエスト、初めての魔物』

6話です。よろしくお願いします。

 初級クエスト『ヒールの実の採集』

 探索場所:大森林入口

 クエスト内容:ヒールの実を二十個採集せよ。

 報酬:250Gゴルド

 制限時間:なし

 追記:駆け出し冒険者のためのクエストです。魔物の数は少なく、もし遭遇したとしても街の武器屋に売っている一番安い武器で余裕をもって倒せます。むしろ、このクエストを失敗したり、成功したとして大けがして帰ってくるようだったら、貴方は冒険者にならない方がいいかもしれません。

 

 仮パーティ(ファウスト・ロイス)が受注しました。

 現在クエスト遂行中です。

 


※  ※  ※  ※




 ヒールの実を集め終わるまでは、魔物が一切出てこなかった。

 だが、ひとたび集め終えてしまうと魔物の出現率が急上昇した。

 『大森林の入口』は、入口ではあるものの、どこもかしこも木々が生い茂った同じような光景が広がっていた。

 深い森の中で、長い年月をかけて空気中に漂う魔力が土に吸収され、その土から魔物は生み出される。生き返る亡者のように、地面から這い出てくるのだ。

 

「さあ、お手並み拝見と行こうか――ロイス」


 地面から這い出てきたのは、初級魔物『スライム』。

 緑色の液体のような形をもったそれには目も口も、むろん手足も存在しない。液状の身体で敵を包み込み、じっくりと捕食していくことで成長していく。しかし、このクエストで遭遇するのはあくまで、生まれたてのスライム。全然強くない。

 彼女は物おじせず、背中から両手剣を引き抜く。剣身を顔の前に近づけると、それに向かってブツブツと何かを唱えているようだった。

 と、次の瞬間――剣が青い炎に包まれる。

 

「最下級魔法『フレア』を剣に込めたのか……戦闘スタイルは、『魔法剣士』かな?」

「まだ魔法が未熟なんですけどねっ! それはおいおい鍛錬で引き延ばしていきます!」


 スライムが僕らを敵と認識して、跳ねるように襲い掛かってくる。

 炎を纏った剣を上段で構え、彼女は迫ってくる魔物に向けて剣を振り下ろした。

 魔物の正中線を描く軌跡。液体が弾ける音と、最下級魔法が魔物を蒸発させる音。

 スライムが形を失い地面へと溶け込んでいく。討伐完了だ。


「よし……、動きは悪くない。何より、魔物と遭遇した時の冷静さは評価できる」


 強い魔物であろうが、弱い魔物であろうが、冒険者と遭遇した瞬間、みんな敵になる。魔物を飼いならす『ビーストテイマー』や味方の魔物を召喚できる『サモナー』は例外中の例外。基本は敵対の姿勢を忘れてはならない。


「冒険者の世界は、弱肉強食だけど、油断していると下克上されることもある。ただ、戦力がモノを言うわけじゃない。――だから、いつ何時でも冷静さを欠かないことが大事だ」

「故郷にいる剣の師も、同じことを言っていました。だから、魔物に対しても同じスタンスを取れたんだと思います」


 剣を背の鞘にしまうロイス。その姿だけを見れば、剣士としては一応の独り立ちをしているように思えた。冒険していないときは年相応の少女の顔を見せてくれたが、冒険――敵に剣を向けるとなると、一変して凛々しい剣士の姿を見せる。

 僕は両手を挙げて降参のポーズをとった。

 

「……合格だよ。まだまだ勉強することはたくさんあるだろうけ「やったー!!!!」


 飛びついてきた。

 柔らかい苔の地面に転がる。ロイスは僕の胸に埋まって喜びを噛み締めている。

 魔物に対しての冷静な姿勢はどうした冒険中だよ。やはり合格にしたのは早急だったか。ロイスはまだまだ子供だった。だけど、魔物はこれ以上出現しないわけだし、しばらく喜びに浸らせるのもいいかもしれな――、


「ロイス」

「はえ……?」

「そのままじっとしていて」


 次の瞬間。僕の周りに無数の火の玉が現れる。

 最下級魔法『フレア』の多重発動。――そして、火の玉を一斉に射出する。

 あたりで、液体が蒸発する音が重なる。そう、重なった。

 

「おかしい……」

「な、何があったんですか、ファウストさ――」


 体を起こしたロイスは、言葉を言い終わるよりも前に周囲の状況に目を向けた。

 そして、僕の発動した魔法で焼け焦げていく総勢十体のスライムの姿に目を奪われる。


「完全に、気を抜いていましたね。はは、これじゃあ、不合格ですね」

「気を抜かないのは大事なことだから、後学のためにしっかり覚えときな」

「は、はい……」

「まあ、僕も油断しきっていたから人のことは言えないんだけどね」


 大丈夫さ。一度合格にしたからには、僕が責任をもって君を育てるから。

 ロイスの髪を撫でる。緊張から解放されたからか、彼女は再び、僕の胸に顔を埋めた。

 小柄な身体が震えている。胸にしみる熱い液体。


「……怖かった?」

「自分の未熟さ、を、痛感して、それが、許せなかった、です」

「最初は誰でもそうだよ。僕だってそうだったんだから」


 ロイスの頭をぐしぐし撫でる。君はいい子だ。だから、今はあまり泣かないでほしい、と思った。

 もっと泣きたいときに、思いっきり泣けなくなるかもしれないから。


「泣くな、ロイス。自己嫌悪している時間があったら、自分を律せばいい。僕が初めに教えられることはそれくらいかな」

「はっ、はい! 泣きませんっ!」


 目尻に溜まった涙をロイスは拭う。涙が消えた彼女の瞳には熱意がこもっていた。

 僕は彼女の髪を優しくなでてやった。

 

「よろしい、……なんて言っている場合じゃなさそうだ。立てるか、ロイス」

「はいっ!」


 立ち上がる。僕らを囲むスライムは、二十体を超えていた。

 

「落ち着きを失わないように。できる限り僕も援護するから。ロイスの戦い方をいっぱい見せて」

「わかり、ましたっ!!」


 互いに背を向けて構える。僕は腰から二本のダガーを引き抜いた。ロイスは、切っ先をスライムに突き付けた。瞬間、スライムの群れは僕らに襲い掛かってきた。




※  ※  ※  ※ 

 

 

 

「大森林の様子が変だ。敵の数がこの辺にしては多すぎる」


 この採集クエストは、実を集め終わると同時に魔物が出現するようになる。理由は分からないが、他のクエストでも、何かしらの条件を達成したら魔物が発生する、あるいは出現率が高くなっていた。

 しかし、普段、このクエストでは遭遇するのは一匹と相場が決まっている。ギルドに聞いてみたところ、この『ヒールの実の採集』では、二匹以上遭遇した例を見たことがないらしい。


 だから、僕も油断していたのだ。たった一匹のスライムとしか遭遇しないクエストだったから、最初の一匹を討伐しただけでもう満足していたのだ。

 たまたま『ヒールの実の採集』でだけ、『敵が一匹』という情報が流れていただけ。情報源なんて知らない、経験則と冒険者間での噂に翻弄されてしまったのはまだまだ未熟な証だ。


 しかし、それでも敵の数が多すぎる。だって、もう一時間近くスライムと戦い続けていたのだから。数にして百は越えた。どう考えても、普段『大森林の入口』で出現する量の、十数倍の遭遇確率だ。


「……これは、早めに退散した方がいいかもしれない。嫌な予感がする」

「ヒールの実はわたしのカバンに詰めてあるので、早く逃げましょうっ! これ以上は体力がもたないですっ!」


 ロイスの嘆願はもっともだ。駆け出しの冒険者が初めてのクエストで殺す魔物の量はとっくに超えていた。体力的な限界も当然頷ける。

 迷っている暇はなさそうだった。今にも土の中からスライムが這い出てきそうだ。


「ロイス、こっちにきて」

「えっ、なんですかファウストさっ、ひやぁっ!?!? な、何しているんですかっ!」


 僕はロイスを抱きかかえると、そのまま大森林の出口まで全速力で駆け抜けていく。足裏に込めた加速の魔法で馬車にも勝る勢いで木々の間を駆け抜けていく。

 体力を奪われ尽くしたロイスが途中で走れなくなることを危惧したからだ。

 魔法を駆使し、どうにか出口にたどり着く。抱えられたロイスは目を白黒させつつ、顔を赤くして、両手で口を覆っていた。きっと、隠していた疲れがどっと沸いてきたのだろう。

 魔法を解除して、ロイスを下ろす。顔を赤くしつつ、しばらくふらふらしていたが、人の気配を感じ取ったのか、僕の後ろに隠れてしまった。


 『大森林の入口』に向かってくる大人数の集団を目にしたからだろう。

 集団の先頭に立つ人物は、僕のことを捉えると目を丸くして驚いているようだった。


「ファウスト……、やはり、冒険者を辞めなかったのか」

「冒険しなきゃいけない理由ができたからね。これが僕の結論だよ――団長」


 総勢二十余名の大型パーティ。

 S級からF級まで7段階あるパーティレベルのなかで2番目に高いA級の称号を持つ。

 最近は、近いうちにS級に昇格するだろうと噂されているらしい。

 その噂がいつ現実になってもおかしくないくらいには強くて名が世界に知れている。

 

 僕の居場所だった、家族のような存在だった。

 ――『黄昏の夜明け団』

 その面々が僕の前に立ちはだかる。

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