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第5話 『きっと幸せにしてみせる』

たいとるそのまんまです。よろしくお願いします。

 引退宣言をしてから数時間後――、

 僕は再び、ギルドの門をくぐろうとしていた。

 しかし、今度は一人じゃない。ロイスもいる。


「仮のパーティを作ろう……、そして一回簡単なクエストを受けてみる。そこでお手並み拝見としよう。僕を本気にしてくれれば、君との正式なパーティ登録をする。……これでいい?」

「はいっ! わたし、こう見えても冒険者になるための鍛錬は毎日欠かさなかったので!」


 彼女の要望に応えるより前に実力を見ておきたいと考えたのは、果たして弱化した僕で教えられることはあるのか、と考えたからだ。

 彼女は、一流の冒険者にしてくれと願った。

 むろん、僕の現状でもある程度の冒険者に育てることはできる。

 魔術師であり、かつ冒険者であるからには、ただ魔術が打てるだけじゃ成り立たないから、ある程度、武器や道具を使いこなせねばならないのだ。

 特に、魔術師としての技能が衰えた今は、道具の用意を欠かすとクエスト中に死ぬことも考えられる。冒険はいつだって命と隣り合わせだ。

 ただし、僕の冒険者人生は、やはり最強の魔術ありきだったからか、最盛期よりは格段に戦力は劣っている。道具も魔術と併用することで多彩な戦術を生み出すが、単純な術しか発動できないとなれば、戦術のバリエーションも格段に少なくなる。


「言っておくが……、もしもロイスが僕をパーティに入れることができたとしても。僕が教えられることはそんなにないからな?」

「構いません! だって、ファウストさんと冒険できるだけでもう十分幸せですから」


 幸せ、か……。そういわれると悪い気分はしない。

 だが、どんなに幸せだろうと、技術がないと、力がないと冒険者として続けていくことはできない。

 君が考えている以上に残酷なんだ、冒険者の世界は。


「さあ、行きましょう? ファウストさん」


 僕はロイスに引っ張られるようにギルドの門をくぐった。

 ちなみに。僕を先ほど見送った受付嬢のお姉さんは、「感動を返してくださいっ」ってうなだれた。呆れた声色だった。無理もない。

 本当にご迷惑おかけしました。今後も何卒よろしくお願いします。

 それはともかく。

 

「ロイスは、冒険者登録はまだしたことがないよね?」

「もちろんですっ。実家の近くにギルドがなかったので、初登録、そして初パーティになります!」

「なら、サポートは私にお任せをっ!」


 ロイスのはきはきとした声に応えるように、受付嬢のお姉さんもやる気に満ち溢れているようだった。ギルドのカウンターはロイスにとっては高かったけれど、お姉さんが気を利かせて足場を設けてくれたおかげでひょっこり、とカウンターに顔を出していた。

 

 「ありがとうお姉さんっ!」と快活とした感謝の言葉を投げかけられたお姉さんは「えへへ……、よしよしいい子いい子~」とロイスの髪を撫でている。すっかりデレデレで受付嬢の面目が失われつつあるぞ……? このままじゃ、幼い女の子にデレデレする危ない女の人に

 

「ちなみに、ファウストさん。引退宣言をした直後に、どうしてこの子とパーティを組もうと思ったんですか?」

「ロイスから言ってきたから乗っただけだって。それにまだ正式にパーティ組むわけじゃない」

「ははーん。どうせ成り行きで正式パーティを組んじゃうんでしょうけど」

「それは僕の裁量次第かな。簡単なクエストに連れてってお手並み拝見をしてから決めるよ」

「でも……、さっきはたくさんのパーティの勧誘を断っていましたけど、どうして彼女だけは承諾したんですか?」

「顔見知りだったから。それに……」


 いつの間にかお姉さんの手をすり抜けたロイスが僕の肩に頬をすり寄せていた。

 

「なんかすごい懐かれてるので」

「……ファウストさんってあの、幼い女の子が好みなんですかね」


 断じて違うし、そもそもロイスは十五歳なんですよね。そして、周りの冒険者の方々、受付嬢さんの言葉を都合よく引用するな。「元・黄昏のファウストはロリコンだった……!?」なんて素で驚くな余計な噂を流すな。


「ファウストさんがロリコンかどうかはともかく、冒険者とかパーティとか説明しましょう」


 ここは、さすが受付嬢。やるべき仕事を優先するあたり、プロ意識が高い。カウンターにいくつかの紙を広げる。ロイスは受付嬢の指示を受けて冒険者登録の申込書に必要事項を記入する。記入し終わると、一連の必要事項を口頭で確認されて、最後にサインをする。

 たったこれだけで誰でも登録は可能だ。ただし、ギルドがない地域に住んでいると、ロイスのようにわざわざ遠出をしなければならなくなる。


「次にパーティ登録ですが、話を聞く限り、まだ正式にパーティを組むわけではありませんね。なら、こちらの書類に双方のサインを記入すれば仮のパーティ登録は完了です。正式にパーティを登録する際はパーティの名前も新たに作る必要があるので候補となるものを決めてきてください」


 まだ、正式に決まったわけじゃないのでパーティ名はおいおい考えるとしよう。仮パーティ登録まで終えると、簡単なギルドの施設説明があった。

 すべてのクエストの内容が張り出されている『掲示板』。

 お金を預けたり引き出したりする『銀行』。

 冒険に必要な道具を売る『雑貨屋』。

 そして、街にある『武器屋』や『飲食街』などの説明もあった。

 

「ロイスさんの場合は、相方がファウストさんなので分からないことがあったら彼から聞いた方が早いかもしれませんがっ! たまーにでもいいので私もお力になりますよ!」

「いつもお力にならないのは何で?」

「ロイスさんが可愛すぎて、毎日頼られてたらいつか一線を踏み外しそうなので……」


 僕よりもあなたの方が危険なんじゃないですか受付嬢のお姉さん。あんまり受付嬢のお姉さんに頼らないで済むように色々教えこもうか――と一人悩む中、そんな苦悩もつゆ知らず、「ありがとうございます、受付嬢さんっ!」なんて純粋な挨拶をするロイス。そして、悶える寸前の受付嬢さん。

 ギルドの説明も終わり、僕とロイスは簡単なクエストを斡旋してもらい、ギルドを後にしようとした。そのとき、ギルドの入り口から僕を呼ぶ声があった。

 

「おっ、早くも復帰かファウスト! やっぱりオマエは冒険中毒だったか」


 朝、カウンター前で最後の盃を交わしたばかりのおっさんだ。胸に抱えているのは蓋がしてある壺だった。どうやら、新しい酒を入荷してきたらしい。

 

「冒険中毒ってわけじゃないよ。ただ復帰する理由ができただけさ」

「なら復帰の盃をしようぜ、ファウスト」


 それもう、ただ単にあなたが酒飲みたいだけでしょおっさん……。

 カウンターにどすんっ、と酒の壺が置かれる。隣のロイスがびくって驚いて、僕の後ろに隠れる。


「飲みたい気持ちはやまやまだけど、今からクエストに行かなきゃいけないからまた今度にしてくれないかな?」

「おうおう、冒険するんだったらしょうがねえ。――で、復帰の理由ってのはなんだい?」

「僕の後ろに隠れているやつとパーティを組むから、だね。まだ、あくまで仮だけど」


 僕が呼ぶと隠れていたロイスが恐る恐る顔を見せる。だが、おっさんと目が合うとすぐに後ろに隠れてしまった。おっさんは「ほう」と意味ありげな溜息をつき、開口一番に。


「ファウスト――、オマエ、隠し子がいたんだな」

「えっ、ファウストさん……その子。隠し子だったんですか?」

「誤解が過ぎるっ! ただの仲の良い友達みたいなものだって」

「だったら、そこの嬢ちゃんに直接聞いてみればいい。なあ、嬢ちゃん……ファウストとはどういう関係だ?」


 おっさんに呼ばれてびくっ、と驚いた様子のロイス。無理もない、おっさんの外見はただの飲んだくれなんだから。だけど、彼女はすぐに、

 

「ふぁ、ファウストさんは……わたしのヒーローですっ! 昔々に助けられて、そのときからずっと」

「なるほどようわかった。オイ、ファウスト」

「今度は何ですか……」

「この子を幸せにしてやれ」

「まあ、……言われなくても。僕ができる限りは、そうするよきっと」


 ギルド中がいったん静まり返った後――大歓声に包まれる。横を見ると、ロイスが顔を手で覆っていた。ええと、なんかとんでもないこと言いましたっけ。

 

「よう言った、それでこそ男だファウスト」

「よく分からないけど、つ、つまりそういうわけでっ! 僕はロイスと冒険するよ」


 そういうわけ、がどういうわけかは何も考えていない。

 よろしく、それじゃあ! って言い残して僕はロイスの手を引っ張ってギルドを飛び出す。

 後ろで、彼女が「ファウストさんが、わたしを、しあわせに……えへへ……」とか嬉しそうに呟いているけど、なんか嬉しいことがあったのかな。

 僕は、ただ――彼女なりの幸せが成就するように願っただけなんだけど。

 冒険者は死が隣り合わせで、そんな過酷な世界で、ロイスが幸せになれるのか。

 答えは、ロイスにも分からないだろうし、もちろん僕にも分からないのだから。

次話でようやく冒険に行きます。ロイスのお手並み拝見です。

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