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第4話 『わたしだけのヒーローですから』

4話目!ロイスが純粋かわいいです。

 大衆から逃れるようにして、僕とロイスは街の宿屋エリアまで走った。

 ……ロイスは走らされていたんだけども、僕に。

 

 呼吸を整える。このエリア、朝・夜は宿泊客で混むのだが、昼は閑散としている。ここを使う宿泊者は大半が、遠征してきた冒険者だからだ。彼らは早朝からギルドに赴き、夕方や晩までクエストから帰ってこないのだ。

 

 僕はロイスを連れて、ちょうど宿屋エリアに入ったところの喫茶店に入った。

 窓際、入り口から最奥の席に向かい合って座って、一秒――、だんっ! と机が叩かれた。


「ちょっと!! ……事情を説明してもらいましょうか?」

「は、はい……」


 身を乗り出して、今にもがるる……! と唸りそうな顔をしていた。

 再会した時の弾けるような表情はどうした。……うん、僕のせいだこれ。再開した直後に、ワケも分からず全力疾走を強いられたのだ。そりゃあ、怒っても致し方ない。

 

「あんなに人に囲まれていたのはなんでですか?」

「簡単な理由だよ。だけど……言ったらきっと、君を失望させてしまう」


 本当のことを打ち明けるのがつらくて、僕はうつむく。

 ロイスはさっき、冒険者になるべくこの街に来た、そして、『黄昏の夜明け団』に門前払いを食らったと言っていた。確かに『黄昏』はこの街では一番強いパーティだ。だけど、世界中を見てみれば『黄昏』より強いパーティなんていくらでもいる。


「一つだけ、確認しておきたいんだけど……ロイスにとって『黄昏』と僕は、どんな存在だった?」

「『黄昏』は憧れ。そして――ファウストさんはわたしの唯一のヒーローです」

「ははっ、だったらなおさら言いにくいな。余計失望させることになる」


 もう、『黄昏の夜明け団』のファウストはいないのだから。

 

「だけど、ファウストさんは、ファウストさんでしょう? 私を助けてくれたことに変わりは」


 ぐうきゅるる……、とここで腹の虫が鳴いた。目の前でロイスが、顔をどんどん赤くしていった。

 目じりに涙まで浮かべている。そんなに恥ずかしいのか?

 

「ちなみに、コーヒーは飲める?」

「……わ、わたしもコーヒーでお願いしますっ!」


 飲めなさそう。僕は確信した。しかし、彼女の尊厳を踏みにじることはしなかった。

 コーヒーを二つ、そしてロイスのために軽食を頼んだ。

 

「と、ともかく。ファウストさんがどんなにわたしを失望させようと、わたしの中でヒーローとしてあり続けるのは変わりないですよ?」

「そういってくれると、嬉しいよ。肩の荷が下りたようだ」


 きっと彼女が僕を慕ってくれる気持ちは、僕が団長を慕う気持ちと似たようなものだ。『黄昏』を辞めたとしても団長は僕のヒーローであり続けている。

 だから、きっとロイスも僕をヒーローとして慕い続けてくれるのだろう、多分。

 でもやはり、失望させるのは怖いけれど。

 よく、聞いてほしいんだ。僕が身を乗り出すと、彼女は耳をこちらに向けてきた。

 耳元で、ごまかすことなく、率直な事実を伝えた。

 

 僕はもう、『黄昏の夜明け団』のファウストではない。

 そして、魔術師としてロイスを救えたファウストでもない。

 ただの、ファウストだ、と。

 

「これくらいで、失望するわけないじゃないですか。……ばか」

「君と出会えてよかったって思うよ。君のヒーローになれて僕は幸せだ」

「まったくもう、調子に乗っちゃって。だけど、そういわれるとわたしも嬉しいです」

 

 すべて聞き終えたロイスの表情に曇りはなかった。むしろ、すがすがしい笑顔を向けてくる。たったそれだけで、彼女を失望させるかもしれない恐怖感から解放された気がした。

 この子を助けたのが、自分で本当に良かった。涙が出るのを抑えながら、僕も頬を緩ませた。




※  ※  ※  ※




「で、ファウストさんはこの後はどうするつもりですか?」

「まだ、決めかねているんだ。ちなみに、ギルドの方には名目上冒険者を引退するって伝えてある」


 あくまで名目上だけどね。と念押しに注釈を入れる。

 軽食を光の速さで平らげたロイスは満足げにコーヒーを口に含み、苦みに耐えているようだった。やっぱり飲めなかったんだ……。店員を呼んで、ミルクとシュガーを持ってきてもらった。彼女は頬を朱に染めて、恥じらうように小さな声で「……ありがとうございます」と礼を伝えてきた。小動物のような愛らしさを感じた。


「名目上、ってことはいつでも復帰できるんですよね?」

「引退自体が自己申告だし、書類手続きとかないからね。やめたければやめればいいし、やりたくなったらやればいい」


 復帰するにしても、長い間休息期間を設けていればそれだけ体力は落ちるわけだし復帰も難しい。

 だが、僕はまだ引退宣言をしてから数時間しか経っていない。むしろ早すぎる復帰に呆れられそう。


「ちなみにロイスは、この後どうするの?」

「本当は、『黄昏の夜明け団』に何回も突撃しようと考えていたんですが、たった今考えを改めました」

「へえ、機転が利くことだ。で、どうするの?」


 ファウストさんに一つ提案があります。

 ミルクと砂糖をかけすぎてもはやコーヒーとは言えなくなった甘ったるい何かを飲み干した後で、彼女は立ち上がった。そして、隣に座ってきて、僕の腕を掴み、胸にぎゅっと抱え込んだ。

 胸のわずかな膨らみと温かさと、ロイスの鼓動を肌に感じ、思わず顔が熱くなる。

 彼女は僕の方を見上げていた。迷いのない目が僕を射抜いていた。


「ファウストさん、わたしを最強の冒険者にしてくれませんか……?」


ロイスは黒髪ロング純粋っ娘です。よろしくお願いします。

次回はまたギルドに行きます

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