第3話 『魔術師、少女と再会する』
3話目です。ヒロイン登場!!
「ファウストが冒険者じゃなくなると、この街も少し寂しくなるねェ」
「悲しいこと言うなよおっさん。この街にはまだまだ『黄昏』は残っているし、新しい英雄も現れるだろうよ。少し早い世代交代とでも思って、僕の引退を受け入れてほしいな。」
「事実は呑み込めてないにせよ、オマエさんの決めたことだしな。受け入れるしかねェ」
「まあ、引退したからといって復帰できないわけでもないからね。気が向いたら、またここに来るかもしれない。しばらくは、預金を崩すために来るんだけど」
軽い冗談に豪勢に笑ってくれるのが、彼の尊敬すべきところだと思った。
ほら、冒険者として最後の盃を交わそうぜ。僕はそのまま、おっさんと酒を一杯だけ交わして、ギルドの受付に出向いた。受付嬢のお姉さんもいまだに僕の引退を飲み込めずにいたが、パーティの脱退手続きをしているうちに、落ち着きを取り戻したようだった。
お姉さんの緑色のショートヘアが忙しなく揺れている――彼女は、僕の引退にむせび泣いているようだった。そんな大袈裟な!
受付嬢のお姉さんは、涙を拭うと神妙そうな顔つきをする。
「本当は、何があったのか聞きたいところですが……、きっと団長さんも何かしらの事情があって貴方を解雇したのでしょうし、何の慰めにもなりませんが、ひとまず、お疲れ様、とだけ言わせていただきます」
「ははっ、そんな大したことじゃないですよ。僕も納得の上での解雇だったので。……むしろ円満退職に近いかもしれない。それに、復帰なんていつでもできますから」
また、お世話になることがあったら、クエスト、斡旋してくれると嬉しいです。
もちろんです。いつだって、貴方の帰りをお待ちしていますので!
緑のショートがぴょこぴょこと揺れた。復帰は大歓迎らしい。
僕は、銀行でお金をおろすと、受付嬢のお姉さんに見送られながらギルドを後にした。
あまりにも大仰にお姉さんが手を振ってくるんですが、残念ながら明日か明後日にはまたギルドに赴くんですよね……。だって、銀行にお金を預けているので。
あれ、なんだかとても気まずい雰囲気になりそうだぞ……。内心冷や汗が止まらないのだった。
遠くで、『黄昏の夜明け団』を噂する声がちらほらと聞こえた。街中に僕の引退が知らされるまで秒読みだ。だから、僕は外套を顔まですっぽり覆って、人の目線を逸らしながら、街の雑踏を歩いていく。
まず、今日泊まる宿を見つけることにしよう。僕は街の宿屋の集まるエリアに足を運ぼうとした。
そのとき、目の前から何かがぶつかってきた。
どすんっ。
胸に勢いよく何かが突進してきた。思わず、「ぐえ」と間抜けた声が漏れてしまい、僕はそのまま地面にしりもちをついた。反動で、外套のフードが脱げてしまう。
胸に柔らかい感触があった。視線の先にあったのは――少女の顔だった。
三秒間、見つめあう。互いに今起きていることを認識すると「うわわっ!」と驚きの声が漏れる。声が重なる。飛びのけて、僕と少女は互いに距離を取った。
小柄な少女だ。歳は十歳を超えているくらいか。黒髪のロングで、白い肌が輝いている。服装は、……冒険者然とした軽装。背負った鞘には彼女の丈には合わなさそうな両手剣が収められていた。
どこかで、見たことがある顔だった。遠い昔――きっと、冒険しているときに。
「え、あ、嘘!? まさか、あなたは……ファウストさんですか!?」
「え、ああ。いかにも。僕はファウストだ」
「あの、『黄昏の夜明け団』のファウストさんですよね!?!?」
「え、あーまあ、そうだっ」
声が遮られた。少女にいきなり抱き着かれたのだ。再び二人で地面に転がる。
「お久しぶりですっ! あ、憶えていますかわたしのこと……?」
「ヒントを一つお願い。あと少しで思い出せそう」
「えーと、そうですね……『大森林の』!」
「……ロイス。だろ?」
「大正解です! 五年ぶりです、ファウストさん!」
そう、思い出した。間違いない。
彼女は、僕が初めて助けた人間だ。
『大森林』のロイス。大森林をさまよい、猛獣と出くわしたところを僕が保護したんだ。猛獣を僕の魔術で撃退した後、彼女を家族の元に戻す間の数日間は、世話役をやっていた。そしたら異常に懐いてくれたんだった。
「大きくなったな……、何歳だっけ?」
「今年で十五ですっ! 両親から許可をもらって冒険者になろうとこの街に来たんですが……」
後半、声が暗い。次第に俯いていくロイス。
「黄昏の夜明け団に入ろうとしたんですが、門前払いを食らってしまって……」
「なるほど、……なっ!」
「えっ、ちょっ、うわっ!」
僕は、体を起こすと、バランスを崩して床に座り込んだロイスに手を差し伸べた。
ちなみにロイスに押し倒されて、しばらく話しているうちに周りに人の集まりができていた。どうして、ここに『黄昏』のファウストがいるんだ? という疑問が散見されている。まずいな、と瞬時に察すると起き上がりかけた、ロイスの手を引っ張って、人の波の間を潜り抜けていく。
「ゆっくり話をするのは後だっ! ちょっとワケがあってな! 今はひたすら走ってくれ!」
「えっ、ちょっと待ってっ、ワケって何ですかっ! って、腕痛いっ、待って、待ってぇ!」
後ろをつけてくるロイスの姿を確認すると、僕はそのまま街のはずれ――宿屋のあるエリアまで駆け抜けていった。ちなみに、いきなり走らせたことについては、彼女に夕食を奢るという条件で許してもらった。
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明日も書きます書きます(文章をひねり出す音)