鈴屋さんと取り立て代行っ!〈2〉
お待たせしました。
本来なら冬休み中に連続アップすべきなんですが、今回はゆっくりと過ごさせていただきました。
充電ばっちり、面白話ネタも少しづつためておりますので執筆大再開です。(笑)
まだギャグパートではないですが、今しばらく取り立て話をどうぞ。
「言っとくけど、俺が行っても危険だからな?」
先頭を歩きながら、心から嫌そうにぼやいてみせる。
「安心しろ……俺一人なら確実に殺される……だろう……」
そんなことに俺たちを巻き込むな、と小声で告げる。
昼下がりでもレーナの裏通りは薄暗い。
ガラの悪い連中も、ちらほらと現れてくる。
「あー君……なんか、ここ怖いんだけど……」
鈴屋さんが僅かに手を震わせて、キュウっと服の袖を掴んでくる。
……くぅぅぅ……川岸を砂浜に変えた決戦兵器とは思えぬ可愛さダナ……
「この辺はまだ大丈夫だよ、俺よく来るし」
「……よく来るの?」
「この通りには盗賊ギルドもあるしね、たまに顔出してるから。あとシメオネ師匠んとこも行くし」
「あ……たしか、黒猫の長靴亭?」
「そそ。んだから、まぁ安心して」
とは言ったものの、ここいらはすねに傷を持つ者の溜まり場でもある。
鈴屋さん一人で歩かせるなんてことは、できないだろう。
そうして、しばらく進むと『黒猫の長靴亭』が見えてきた。
毎朝のように通っている俺にとっては、すでになじみ深い酒場だ。
「ここに……あの女がいるのか?」
「ここでは、まだ会ったことはないけどな」
肩を竦めながら、酒場に入る。
中は相変わらず、亜種族だらけだ。
ここは彼らにとって、種族差別のない聖域みたいなものなのだろう。むしろ、人間族が入ってくることのほうが珍しいのだ。
そういえば今は人間族って、俺とハチ子だけなのか。
鈴屋さんはエルフだし、ゼクスはワー・パンサーだったな。
「あれ? アークさみゃ!」
カウンターに座っていたシメオネ師匠が、パッと笑顔を見せて元気に手を上げる。
その横には、すました顔をしたラスターも見える。
「どうしたんにゃ、アークさみゃ」
「いやぁ。ちょっと野暮用でね」
「……今日は随分な人数だね。見ない顔もいるようだけど?」
「あぁ……まぁ、こいつは……イーグルさんだ」
スカした暗殺者に対し、僅かにラスターの表情が険しくなる。
イーグルの意味を理解しているのだろう。
一方のシメオネは、何のことかわかっていないご様子だ。
「……どういうつもりなのか、聞きたいね。君の功績は、姉さんから聞いてはいるけどね」
「そのお姉さんが、返すものを返していないらしくて、私たちは仲介役できたんです」
「……ふむ……」
鈴屋さんの言葉に少しは状況を理解してくれたのだろうか、ラスターが静かに頷く。
「……姉さんなら二階にいるよ。ノックをして、話してみるといいよ」
「あなたは、来ないの?」
「俺は他のイーグルが来てないか、警戒させてもらうよ」
さすがはラスター、用心深い。
まぁ今さら、教団が総力戦を仕掛けてくるとは思えないけどな。
「シメオネは、ここで待ってるんだ。灰色のフード姿をした客が来たら、とりあえず殴れ」
「よくわかんないけど、了解にゃ、にいさま」
ビシッと親指を立てるシメオネに、なんて物騒な……と、呆れてしまう。
シメオネみたいな火力バカの不意打ち攻撃、まともにくらったら普通に死ねるぞ。
「アーク殿、アーク殿」
「んあ?」
「ハチ子が一緒にいると、話がややこしくなりそうなのですが……」
黒い瞳に、戸惑いの色が見える。
たしかにハチ子は、フェリシモを斬った過去もある。
「そうだな。ここで、シメオネと待機してくれるか?」
本心としては、ついてきたいのだろう。
複雑そうな表情を浮かべたまま、やがてゆっくりと頷く。
「お気をつけて、アーク殿……」
「ん……まぁ、大丈夫だろ。たぶん」
俺はそう言うと、最強の暗殺者のもとへと、重い足取りを進めるのだった。
「単刀直入に言うと、教団のコートと九龍牌を返してほしんだ」
薄暗い部屋の中で、口火を切ったのは俺だ。
俺の横には鈴屋さん、後方にゼクスがいる。
対してベッドの上で、あぐらをかいて座っているのがフェリシモだ。
ゆるめのノースリーブシャツとショートパンツ姿で、武装はしていない……ように見える。
腰まで伸びた黒い髪は、緩やかなウェーブを幾重にも描いており、その猫のように柔らかで艶めかしい体にはアサシンとしての高度な技術が、これでもかと詰まっているのだろう。
気の許せない相手……それだけは今も変わらない。
「なんだぃ〜いきなりやってきて、ずいぶんな申し出じゃないか〜しょうねぇん〜」
「自覚は、してなくもないけど……」
「それでぇ〜あんたたちは、仲介というわけかぁい〜?」
「はい、そんなところです」
鈴屋さんが毅然とした態度で言う。今日はなぜか頼もしい。
「その割にぃ、後ろのソレ〜物騒なオモチャに手をかけているようだけどぅ〜?」
「……当然だ……お前は油断ならない……」
一瞬にして、空気が凍りつく。
「ゼクスさん、武器から手をはなしてもらえますか?」
「なぜだ。その女は危険だ」
鈴屋さんが、大きめのため息をする。
「交渉の邪魔、かな。今それを握っているゼクスさんのほうが、よっぽど危険ですし……なんなら外で待っててくれますか?」
厳しい口調ながら、見事な笑顔である。
ゼクスは返す言葉が見つからず、すごすごと外に出ていってしまった。
「ふふぅん……キミも随分と、いいオンナになってきたじゃないかぁ〜」
鈴屋さんが、それはどうもありがとうございますと、つれない返事で返す。
一方の俺は「大丈夫ですか、鈴屋さん。この人、すごい怖いんですよ?」と、内心ではハラハラだ。
「それで、返してもらえますよね?」
「……あはぁん……?」
フェリシモが四つん這いになり、艶めかしい動きで興味深そうに身を乗り出してきた。
「キミぃ……前々から気になってはいたんだけどぅ~」
「……はい……?」
「ほんとに、女なのかぁい?」
……お……?
俺の聞き間違い……じゃないよな?
「何を言ってるんですか?」
「完璧すぎるのよねぇ~つくられているぅ~どこか嘘をついているぅ~ううん~~そんな匂いがするねぇ~」
フェリシモは、さも楽しそうに口をゆがめて笑ってみせた。
次回でたぶん、終わります。
そしてギャグパートへ…




