鈴屋さんと白毛のアルフィーっ!〈3〉
アルフィーさん第三話です。
アルフィーさんは、オーバーロードのクレマンティーヌとSAOのアルゴをごちゃ混ぜにした印象ですね。え、あれが混ざるのって感じですが…見た目も似てる…かな。
それでは、あたたかい飲み物ひとつ用意して、お楽しみください。
大きな岩に背中を預けて、赤いマフラーをくいっと鼻先まで上げる。
左に立つアルフィーに目をやると、サーベルの剣先を巨岩から少しだけ出して、向こう側の様子を窺っている。
……なるほど……特殊部隊ものの漫画で鏡を使っているのを見たことがあるけど、彼女は刀身を鏡の代わりに使っているのか……
“あーちゃん”
アルフィーが声を出さずに、口をパクパクとしてサーベルの刀身を俺に向ける。属性付与を促しているのだろう。
俺は打ち合わせ通りに、属性付与の術式を行う。
“不知火”
刀身を指で撫でると、ボッと炎の渦が生まれる。
アルフィーは大層ご満悦のようで、ニヤニヤしながら何度も頷いていた。
雷のほうが効果的だと思うのだが、炎のほうが派手でいいという彼女自身の選択だ。
“いくよ?”
俺が黙って頷くと、アルフィーがサーベルを持つ方の指を三本立ててこちらに向ける。
“……3……2……1”
指を折りながらカウントを取り、ゼロのタイミングでリザードマンがいる方角を指をさす。
それを合図に俺とアルフィーは左右に別れて転回し、巨岩の向こう側へと躍り出た。
猛烈な加速で歪んでいく景色の中に、背を向けたリザードマンの姿が飛び込んできた。
さらにその向こう側ではアルフィーが身を低くして、水辺に立つリザードマンへと距離を詰める姿を確認できる。
……速いな……ハチ子ほどじゃないけど……
俺はリザードマンの背中を捉えながら、ニンジャ刀を振りかぶる。
「……フッ……!」
小さく息を吐きながら斬りつけると、ニンジャ刀から確かな手応えが伝わり、同時にバチンっと稲妻が弾ける音が鳴り響いた。
リザードマンは、その場であっさりと崩れ落ちる。
……まずは一匹……
すぐさま、アルフィーの方へと視線を移す。
「ほいっと~♪」
彼女はちょうど、気の抜けるような掛け声とともに、水辺のリザードマンの首元を撫で斬っているところだった。
ジュゥと傷口が焼ける嫌な音を残しながら、リザードマンが川に向かって倒れる。
……さて、奇襲はここまでだろう……残りは5匹……
「シヤァァァァァッ!」
予想通り、奇襲に気づいたリザードマン達が一斉に威嚇の声を上げた。
問題はここからだ……って、おい!
「アルフィー!」
思わず、彼女の名前を叫んだ。
なんとリザードマンが、4匹同時にアルフィーの方へと向かっていったのだ。
1人残して時間を稼ぎ、残り4人で確実に仕留めに行く気だろう。
「くそっ!」
俺は立ちはだかる1匹を“数え五斬”で斬り崩し、テレポートダガーを抜いてアルフィーの加勢へ向かおうとする。
……が、彼女がそれを目で拒んだ。
まるで、邪魔をするなと言っているようだった。
「あーちゃんは、そこで見てていいかんね〜」
緊張感のない声で、明るい笑顔を見せる。
「おいおい、まじかよ……」
そう、彼女の強さは本物だった。
リザードマン達が彼女を囲むようにして次々と剣をふるうが、彼女はそれをものともしない。
迫りくる剣をスモールシールドで的確に受け流し、体勢を崩したリザードマンにだけサーベルを突き刺す。
そしてすぐに防御態勢を整え、またしても相手の攻撃を盾で弾くと、無防備になったその首元をサーベルで横に薙ぐ。
あとはそれの繰り返しだ。
徹底した後の先で、的確に攻撃を防ぎ、確実にカウンターを入れていく。
「強えぇな」
思わず感嘆のため息を、出してしまう。
技に派手さはない。
ただ基本に忠実に……冷静に……それだけだ。
これこそが、正統派の戦士の戦い方だと実感する。
「はぁ~い、終了なん~」
アルフィーが最期の一匹を屠ると、勝利ポーズのようにサーベルをくるくると回しながら周囲に視線を泳がせる。
「あっ、と……鈴屋さ~ん、ハチ子さ~ん、片付いたよ~」
俺がそう言うと、岩陰から2人が小走りで現れた。
「早いね、あー君!」
「いや、俺は二匹だけ。あとはアルフィーが……」
ハチ子が鋭い眼光を、アルフィーに向ける。
……いや、変な対抗心燃やすなよ……一応、命の恩人なんだし……
「あーちゃんさぁ~、これこのままにして少し離れて見張らん? たぶん仲間が、様子見に来ると思うんよ~」
なかなかに酷い話だが、作戦としては有効だ。
ちなみに鈴屋さんはドン引きである。いや、むしろそれでいい。
あの可愛らしい笑顔で「いい作戦だね、あー君!」とか言われたら俺も困るしな。
「そうだな。じゃあ、川を渡って向こうの茂みから見張ろうか」
「んん~いいんけど、さすがに見つかりそうじゃないん?」
アルフィーが、もう少し離れたほうがと付け加える。
確かにあの茂みだと普通に隠れていては見つかりそうだが、俺はこれでもニンジャなのだ。
「ちょっと便利なものがあるから、大丈夫だよ」
便利なもの? と、首をかしげるアルフィーに、俺は自分のバッグから大きめの布を取り出して見せた。
「俺が作ったハイドクロースっていう道具なんだけど、ある程度の不可視化ができるんだ」
ハイドクロースはニンジャの生産スキルで作れるチート級に便利な道具で、奇襲、遁走、休憩と色々な局面で役に立つ。セブンと初めて会った夜に使っていたものと同じだ。
ゲーム内では光学迷彩のように背景を映し溶け込んでいたが、ここでは半分光学迷彩といったクオリティだ。
近づいて見たらすぐに気づくだろうが、遠目ではまず判別できないだろう。
「あーちゃん……ほんとに何者なん?」
アルフィーは心底感心しながら、ハイドクロースをまじまじと見つめる。
「これさぁ、あたしも欲しいん〜」
その可愛い上目遣いやめてください。あと、勝手に腕を組んでこないでください。
なぜか、笑顔がそこはかとなく怖いんです。
「いやぁ、材料が今のところ見つからなくてね。見つけたらつくっておくよ。それより、さっさと隠れようぜ?」
どこか後ろの2人の視線が痛いので、俺は無理やりに話題を切って川を渡り始めた。
……うん、膝が浸かるほどの深さもないし流れも強くない。川幅も十メートルほどだ。
俺は先行してざぶざぶと渡り切ると、大丈夫そうだよと振り向く。
そこには、すでに水遊びを楽しみながら渡ってくるアルフィーがいた。
そしてその後方に、不満げな表情を浮かべる鈴屋さんが見える。
「あ……」
そうか、テレポートダガーで渡れば濡れずに済んだんだ。
「ごめ、いま行く」
慌ててダガーを抜くが、鈴屋さんは表情を変えないまま首を横に振った。
「ん~ん、いい」
小さな口を、とがらせて言う。
……あぁ……拗ねちゃいましたか……
がっくりと項垂れながらハチ子の方に目をやると、仕方がないですねと肩を竦めて苦笑していた。
その「仕方がないですね」は俺に向けてなのか、鈴屋さんに向けてなのかはわからないが……
俺は、ばつが悪そうに頭を掻きながら茂みまで行くと、ハイドクロースをそのまま茂みの奥に広げた。
ハイドクロースはすぐに同化していく。
「どういう仕組みなん、これ。すごいん~」
感心して眺めるアルフィーを尻目に、ロープを枝から張り、簡易的なテントのようにしてハイドクロースをかける。
いち早くアルフィーが中に入り、俺、鈴屋さんと続く。
「へぇ~これは快適に待ち伏せできるねぇ。なるほど、なるほどぅ~。シェリーの姉御の言う通りだねぇ、あーちゃんは~」
「言う通り?」
すすっと左腕に胸を押し当てるようにしながら、耳元に唇を寄せてくる。
「意外に頼れるって聞いてたんよ。んでもぅ、意外どころか、私の隣に欲しいくらいなん~」
「え……あ、そう?」
と、間抜けな返事をする俺の右側で、ピキッと空気が固まる音がしたのは気のせいではないようだった。
最近ネタの織り込みが少ないのですが、実は書き忘れも多いです。
読み返して気づいたときに追加していこうと思います。




