鈴屋さんと白毛のアルフィーっ!〈1〉
題名変更しました。
ハチ子編が一段落し、すこし楽しげなお話をと思って書いてます。
それではホットドリンクを片手に、鈴屋さんと楽しい週末を。
「あー君、あー君」
いつもの呼び方で、俺を揺り起こしたのは鈴屋さんだ。
朝から綺麗な水色の髪を丁寧に結っていて、なんとも可愛らしい。
俺は寝ぼけていたせいか、思わず手を伸ばしその髪に触れる。
「ん~、なにぃ、どうしたのぅハニー。目覚めのちゅぅ?」
ゴスッと肘を水月に落とされる。
「オッゴッッふッぅぅ……」
「目が覚めた?」
体をくの字に曲げて悶絶する俺に対して、秒で見せる満点の笑顔である。
ちきしょう、朝からかわいいな!
「あー君、お客さんが来てるよ?」
「……客ぅ~? 俺に~?」
まだ頭が起きていないせいか、来客の予定を思い出せない。
「ハチ子さんは?」
「さっき声かけてきたら、いま身支度してるとこだって」
そう、いまハチ子は俺の隣の部屋で寝泊まりをしている。
二週間前のあの日、『碧の月亭』に帰ってきた俺とハチ子は、一旦休息をとり、その夜には鈴屋さんにすべてを話した。
もちろんあの死闘についてはソフトな内容に脚色し、ハチ子がなんだか甘えてきてたことは……いや、言えるわけなかろうよ。
晴れて自由の身となったハチ子は、これで気兼ねなく俺の部屋に住む……なんてことはなく、隣の部屋で長期宿泊の契約をしたのだ。
ちなみに、最近の鈴屋さんはハチ子と仲がいい。ちょっとしたシェアルームを楽しんでいるが如く、ハチ子の部屋に入り浸っている。
心なしか二人の女子力も上がっているようで、事実レーナでのモテっぷりはとどまるところを知らない。
なぜか俺も鼻が高い……とか言ったら、誰かにぶん殴られそうだ。
「アーク殿~1階にお客様が~」
ノックもせずに入ってきたのは、黒のワンピース姿をしたハチ子である。
ちょっとそれ、丈が短すぎません? と言いたいところだが、「どこ見てるの、あー君」という突っ込みが入りそうなのでここは華麗にスルーだ。
「うん、いま鈴屋さんに聞いたとこ。んで、誰なの?」
「“また”可愛らしい女の子だったよ、あー君」
……笑顔がコワかわいいです、鈴屋さん……
「たぶん……アレの中身は怖い人ですよ、アーク殿」
……なにそれ、やだ会いたくない……
「ハチ子さんの知ってる人なの?」
「たぶんアーク殿も知っているはずです……というか、顔だけは知っているってレベルですが……ただ、恩義がありまして」
……恩義?
「わかった、着替えたら行くよ」
俺はそう答え、しぶしぶと支度を整えることにした。
朝の『碧の月亭』は空席がかなり目立つ。
そのせいだろうか。
俺たちの指定席には「あぁこの人ちょっと変だ」と、一目でわかる女が座っていた。
「なるほど、あれか……」
我らが円卓には、所狭しと肉料理が並べられている。
そしてそれを猛烈な勢いで食べ続けているのが、真っ白でふわふわの髪をした女だった。
年齢は18〜22歳くらいで、大人の女一歩手前って感じだ。
ショートパンツに絶対領域気味なロングブーツを履いているのは、動きやすさを重視しているのだろう。
サーベルにスモールシールド、それからスケイルメイル。
装備のバランスもよく、いかにもオーソドックスな剣士スタイルだ。
……にしても顔は可愛らしいけども……
「もしかして、ずっとあの調子で孤独な大食い選手権をしてるの?」
鈴屋さんが、非常に困った顔で頷く。
「アーク殿……あの方。ほら、あの時にいた……」
あぁ……と、そこで俺もようやく思い出す。
たしか、ハチ子を救出する時にいたな。
正直関わり合いたくない雰囲気満載なのだが、半ばしかたなく声をかけることにする。
「えぇっと……あんた、窮鼠の傭兵団の人だよね。たしか……第三部隊長で、白毛のアルフィーさんだっけか?」
そこでやっと俺の存在に気づいた女剣士は、手羽先を握る手をいったん止めて、ちらりと俺に視線を移す。
……が、まるで興味がないのか、再び目の前の肉を小さな口に放り込み始めた。
「うぉぃ、食うのかよ!」
割といい突っ込みなのにそれすら無視し、次々と円卓の上の肉に手を出していく。
もはや、手品の領域だ。
その控え目の体の、どこに消えていくんだよ。
「あぁ~……えぇっと、アルフィーさんだよね?」
アルフィーはもう一度俺の方を見ると、ごくんと大きな音を立てて肉を飲み込み、さらにグラスに注がれた赤ワインを一気に喉へと流し込んだ。
そしてようやく話す気になったのか、口の中が空になったところで……
「おっちゃ~ん、鶏手羽あと5人前追加~!」
「うぉぃ!」
「あ、お代はこの片目のあんちゃんにね!」
「うえぇぇいと?」
そして、やはりまた俺を無視してワインを飲み始める。
「……あー君……ほら、話進めなきゃ」
いや、今の見たでしょ……これ無理じゃね? ……と、弱音を吐きたいところだが……まぁ俺の客で間違いないし……
「あのぅ、アルフィーさん?」
「やぁやぁ……えっと……あんちゃん、たしかアークくん……だったっけ?」
黙って頷くと、またワインを一気に喉へと注ぎ始める。
あれも、俺持ちなんだろぅなぁ。
「んじゃぁ、あーちゃんで……まぁ座んなよ」
若干鈴屋さんがむっとしているが、俺とハチ子は彼女に大きすぎる借りがあるので、ここは堪えてもらおう。
ちなみにアルフィーが座っているのは、チャレンジシートだ。
なのでその右隣に鈴屋さん、さらにその隣に俺、ハチ子と続いて座る。
「朝からよくそんな食えるな……」
「あぁ~、シェリーの姉御に、好きなだけ食わせてもらってこいって言われたからさぁ~あたしら傭兵家業は、食える時に溜め食いできなきゃダメなんよぅ」
……あのアフロめ……
ラット・シーの住人がこの調子でやってきたら、俺は秒で破産するぞ……
「んで……俺は、食事をおごればいいのか?」
「いやいやぁ〜〜んなわけないじゃん~?」
ナイフをくるくると回しながら見せる笑顔が、フェリシモを想起させて猛烈に嫌な予感がする。
……そっち系の住人かな……
そう言えば、さっきハチ子が“あれの中身は怖い人”って言ってたな……
「あーちゃんさぁ~、ちょぅぅっとお知恵を貸してほしいんよぅ?」
「……知恵? 俺、頭悪いんすけど……どちらかというと鈴屋さんのが頭いいし」
「あー君のお客さんでしょ?」
マグカップに口をつけて“私を巻き込まないで”と目で訴えながらも、隣に座って聞いてくれている君はいつも素敵です。
「……私は助けられた身ですから、もちろんお手伝いします」
「おっほぅ~あんた、あん時の娘なんねぇ~」
「はい、ハチ子と申します」
「ハチ子さんねぇ~。んじゃぁ、お願いしちゃうん~」
アルフィーが厨房から聞こえはじめた肉の焼ける音に、そわそわとしながら説明をしはじめる。
落ち着きのなさは、シメオネに似たものを感じる。
「あたしの第三部隊……あぁっと、その前にぃ、あたしの部隊って女ばっかなんよ~」
「ほほぅ、詳しく」
「あー君……」
いや、そんなアマゾネス部隊の中身ってどんなか気になるじゃんっていう、男のロマン的な好奇心なんだけど、鈴屋さんとハチ子は仲良く半目で呆れている。
「あぁ、それは~あたしが女でぇ部隊長になっちゃったから~、そのまま女の戦士が集められただけなんよ」
……うわ天国……なんて顔に出すこともなく静かに頷く。
「まぁそれはともかくさ~、ちょっと今暇なんよ〜。んでなぁ、あたしらでも出来るようないい仕事考えてほしいんよ~?」
「仕事? ……水着の時みたいな?」
「そうそう。あーちゃん、話わかるねぇ~」
うん、笑顔が冷ややかで怖いです。
しかし、シェリーさんに言われてきたのなら断るわけにはいかないか。
俺は小さめのため息をひとつすると、しぶしぶ頷いた。
「オーライ、引き受けるよ。まだ頭が寝てるけどな」
「いやぁ〜、よかったぁ〜。助かんよ〜」
アルフィーは嬉しそうに手を叩いて喜ぶと、おもむろに席を立ち俺の横まで近づいてくる。
そして身を乗り出すようにテーブルに手をついて、意味深な笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。
……あのぅ……近いですし、笑顔がまぢで怖いッス……
「眠いなんて言わんでさぁ〜、ちぃとばかし先に報酬あげるから、しっかり頼むん~」
「……あぁ? いや、報酬なんていいって。だいたい俺たちが助けられ……んぐっ……」
ちゅぅぅぅぅぅ……ぅぅぅぅ……ぅぅ…………
……ほへ?
俺はいま、初めての何かを奪われたような……
あと、なにこれ……すっごい肉の味……
しばしの沈黙のあと、ようやく開放される。
もちろん俺は放心状態だ。
「んふん~、あーちゃん目が覚めた?」
「なっ……なっ……アーク殿に……アーク殿に、なにしてるんですかっ!」
しかしアルフィーは気にもとめずに、ん〜〜っと片手を上げて伸びをしている。
「いやぁ〜〜男とディープなキスとかひっさびさぁ〜っ」
「……えぇっと……今なんとおっしゃいました?」
「あ……あ……あー君の……」
よし来い、むしろ来いっ!
「ばかーーーーっ!」
「はうわぁぁっ」
鈴屋さんの鋭い右ストレートが顎をかすったところで、俺の景色は一瞬で真っ白になったのだ。
気を失ってよかったと心のどこかで思えたのは、この場から逃げたかったからに他ならないだろう。




