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アークとハチ子の物語っ!〈6〉

一周年企画として連続アップ中です。

11/3だけで「本編」と「ラジなに」の2本をアップしてます。

気づいていない場合、壮絶なネタバレ回になるので注意してください。

これは「アークとハチ子の物語っ!〈6〉」です。

もう一度、これは「アークとハチ子の物語っ!」の6話目です。(笑)


それではホットドリンクを片手に、二人の物語をお楽しみください。

 戦闘不能となったイーグルは、ゼクスを含めて20人ほどだ。

フェリシモは不確定要素が多すぎて、敵味方の判断がつけられない。

 ならば、味方として考えるべきではないだろう。


 ……残るイーグルは……どこかに隠れていたのか20人ほどに増えている……


 私はここにきて負傷した足が痛み、思うように動けなくなってしまった。

 一方、彼は私の腕の中で、強がって笑うことしかできないほどの深手を負っている。


「……これでは……鈴屋に合わせる顔がない……」

「カカ……大丈夫だって……」


 いったい何が、大丈夫だと言うのだろう。

 イーグルたちは、弓から近接武器に持ち替えている。確実に仕留めようとしているのだ。

 それなのに、なぜ彼は笑っていられるのだろう。


「惜しいのぅ……よいイーグルになれたじゃろうに……」

「うるせぇよ、カカシのじいさん。そんなもん、死んでもならねぇから」

「ほっ……若さとは、死に急ぐものなのかのぅ」


 スケアクロウの言う通りだ。

 少なくとも彼は粛清とは関係がない。ここで死ぬ必要がまったくないのだ。


「……アーク殿……」

「なんて目ぇをしてんだよ……まぁ、これで駄目なら来世で会おうぜ」


 ……これで……?

 しかしこの軽口は……やはりまだ策があるのだろうか……


「どれ、言い残すことは他にあるかの?」

「……んん~~……じゃぁ、俺の最後の切り札……聞いてくれっか?」

「切り札じゃと?」


 スケアクロウが顎に手を当てて、あからさまに訝しむ。


 ……この状況を覆す切り札……鈴屋を呼んだとしてもそれは難しいはず……

 なぜなら、彼女の魔法は強力すぎる。

 この屋敷ごと破壊することは出来ても、私たちだけ無事になんていう調節は出来ないだろう。


「カカカ……お前らさ、時間切れだよ。まわりを……いや、あの門の上をよく見てみやがれ」


 ザァッと、木々が騒めき強い風が抜ける。

 そのただならぬ気配に、イーグルたちが一斉に門の方へと振り向く。


 そこには真っ赤なアフロヘアーをした褐色の女戦士が、仁王立ちで見下ろしていた。


「いよぅ、ロメオ。あんた足が速すぎるぜ。ラット化しても追いつけねぇなんてよぅ」


 巨大なハサミを肩に乗せてギラギラとした目を向けるその女戦士は、その一種異様な風体から一目で歴戦の兵だと見て取れる。


「急いでいたからな……でもきっちりと時間は稼いだろ?」


 ……これが切り札……確かにあの女戦士、ワーラットの傭兵で相当な強さだったけど……


「ひょ? ……ひょっひょっひょ……よもや、これがお前さんの切り札かの?」


 スケアクロウが、馬鹿にするかのように笑う。


「あぁぁん? じいさん、たかだかアサシン風情が舐めた口きいてくれるじゃねぇか?」

「ならば、やってみるかの?」


 しかしシェリーは、まるで勝利が約束されているかの如く不敵に笑うのみだ。


「はっはっはぁ~~そっちこそ覚悟は、できてんだろうねぇ?」


 シェリーの挑発にイーグルたちが殺気立つ。


「お前ら、日陰でこそこそ生きてるくせによぅ、目ぇ悪すぎじゃないかい? よぅくまわりを見てごらん?」 


 ざわりと森がまた騒ぐ──


「点呼ぉぉぉぉォォォォッ!」


 シェリーが逞しい右腕を高らかと上げて、森中に轟かんばかりの声で叫んだ。

 すると屋敷を囲む森全体が一斉に揺れ始め、無数の影が次々と現れた。


「応っ! 我こそは窮鼠の傭兵団、第一部隊長、赤帯のドレイクなり! 我が精鋭80の兵とともに推参!」


 一際体の大きいフルプレートの男が低く威厳のある声で名乗り上げる。

 そして、その背後に無数のワーラットの戦士たちが現れた。

 しかし、驚くのはそこからだった。


「……窮鼠の傭兵団……第二部隊長……黒目のレディアン……70の配下を連れてきた……」


 細身の戦士が静かに言う。

 やはりその背後にはワーラットの戦士……いったい何人いるのだ。


「やぁやぁシェリーの姉御ぅ、窮鼠の傭兵団第三部隊長、白毛のアルフィーも50の兵を連れてきたんよぅ!」


 真っ白でふわふわの髪をした女剣士が名乗りをあげる。

 声は可愛らしいのだが、その口調に反し残忍そうな笑みを浮かべていて、彼女もまた歴戦の兵だと窺い知れる。


「窮鼠の傭兵団第四部隊長、灰色のジュリーと50の兵もここに……アークくん、待たせたね」


 細身の男の爽やかな笑顔に対し、彼がカカカと笑い返した。


「聞けよ、姑息なアサシンども!」


 シェリーが、巨大なハサミを振り下ろす。

 その剣圧が一陣の風を生み、戦場を駆け抜けた。


「我ら窮鼠の傭兵団は、ラット・シーの朋友アークに加勢する!」


 高らかな宣誓に傭兵団が続く。


『我ら窮鼠の傭兵団は決して家族を見捨てない!』


 地鳴りを起こすほどの声……250人もの戦士の声に体を震わされる。


「なっ……なんなんじゃ……おまえらは……」


 スケアクロウが狼狽していた。

 当然だ……蹂躙しようとしていた側が、今まさに蹂躙されようとしているのだ。


「さて、ご老人。あたしらは傭兵……言わば戦争屋だ。だからここに戦争を運んできてやったぜ?」


 たしかに、この数ではもはや戦闘とは呼べない。

 ……なるほど……レーナ領主が無償で居住区を提供した本当の理由はこれだったのね……戦争になれば彼らは巨大な戦力となるわけだ……


「そこのロメオは、あたしらラット・シーの家族だ。もちろんロメオに関係する者もすべて、あたしらの家族だ。脅し目的で少しでも手ぇだしてみろ。それはラット・シーのすべてを敵にまわすことになると思え!」


 ……これが……これが……アーク殿の切り札……この短時間で、私のためにこんな大勢を動かしたといのうの?


「ふむ……」


 スケアクロウが、言葉を探している。

 教団の面目を保つための考えを、まとめているのだろう。


「しかし、そこの女はわが教団の者じゃ。粛清はわが教団内の問題じゃよ。そこの男は見逃す……じゃが、その女は別じゃ」


 むぅっと、シェリーが口を噤む。


「これほど巨大な傭兵団ともなると、組織のしきたりを軽視はできんじゃろ?」


 さすがに弁が立つ。

 しかし、彼の策はまだ終わっていなかった。

 彼が仕込んだ最後の一手が、そこで動いたのだ。


「なるほどなるほどぅ~。しょぅぅねぇぇん~そうきたかぁ」


 そこまで事の成り行きを、黙って見守っていたフェリシモが近づいてくる。


「カカカ……どうよ、ねぇさん。すげぇだろ?」

「こいつはぁ、重畳・重畳ぅ~~じゃぁ乗ってやろうじゃないかぁ」


 フェリシモがウェーブのかかった髪をふわりとかきあげて、満足そうに笑う。

 しかしこの場にいる誰もが、この2人の思惑に気づけずにいた。


「すけあくろぅ~」

「……なんじゃ?」

「私は、今この時より教団を抜けるよぅ~?」

「なっ!?」


 スケアクロウが、明らかに狼狽する。


「驚くことはないだろぅ~? 前々からそろそろ辞めたいなぁ……とは言っておいたじゃないかぁ?」

「し、しかしじゃな、なにも今……」

「あはぁ~こういうのは、タイミングが重要なのさぁ」


 ……タイミング……これがフェリシモの最良のタイミング?


「私はねぇ~そろそろぅ~妹たちとお気楽な怪盗団をしたいのさぁ」

「そ、そんなわがままが許されると……」

「思ってるよぅ~? あんたが私を粛正すると言うのなら、追手は全て殺してあげるぅ。で……ねぇ、もし私の妹たちに手を出すとか言うのならぁ~」


 フェリシモが彼に視線を移して、その先の言葉を顎で促す。


「……あぁ……彼女の妹たちは俺の仲間だ。つまりラット・シーにとって、家族ってことになるな」


 スケアクロウが絶句する。


「ほぅら、タイミングがいいだろぅ~?」


 これでは彼女を止める手立てはない。見事としか言いようがない。


「……よかろぅ、退団を認めよう……」


 スケアクロウが、苦虫を噛み潰したような顔で言う。


「さて、しょぅねん~。望みのご褒美を、あげようじゃないかぁ~」


 さらにフェリシモが、今度は私の方に視線を移して続けた。


「よぅく聞きなよぅ~2位の犬ぅ~。今からあんたは、1位だぁ~」


 ……え?


「1位がいなくなったんだから、当然じゃないかぁ? こんぐらちゅれぃしょぅぅぅん~ぱちぱちぃ~~」

「……そ……」


 いよいよスケアクロウが、動揺を隠せなくなっていた。


「そんなことが、許されるとでもっ」

「あぁ~はいはぁい~見苦しいわよ、すけあくろぅ~」

「カカカ……じいさん、あんたの負けだよ。なぁハチ子……退団の条件はなんだった?」



 そこで初めて彼の考えを理解した──


 彼は最初からこれを狙って……これだけを狙っていた──


 ぼろぼろと涙がこぼれる──


 口元を押さえる手が震え、全身が熱くなっていた──



「……この任務で……1位になること……です……アークどの……」


 ぽんと頭の上に、傷だらけの手が置かれる。

 心地の良い優しい重みが、さらに涙を溢れさせる。


「どうよ、じいさん。これでOKだよな?」

「……馬鹿な……」


 ふらふらと、スケアクロウが後退する。

 それを、一人のイーグルが支えるように腕をつかんだ。


「引き際だぜ、スケアクロウさん。この数相手に俺たちは戦えないし、リスクが大きすぎて今後も手を出せない。挙句、きっちり1位になられちゃ、文句のつけようもないぜ……」


 スケアクロウが呆然とそのイーグルを見上げ、やがて項垂れるように頷いた。


「…………よかろぅ……退団を認めよう…………アヤメ……ご苦労じゃったな……」


 当の昔に捨てた名で呼ばれ、私はそうして自由の身となったのだ。

次回、エピローグとなります。

連続アップはここまでですかね。(苦笑)


しかしSAOアニメは本当に映画版を活かしてくれますね。

見ていて楽しすぎます。

ゴブスレもあるし週末深夜は楽しいですなぁ。

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