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【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
不殺の暗殺者

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アークとハチ子の物語っ!〈4〉

ハチ子編第四話です。

いつもより少しだけ長めです。

楽しんでもらえれば幸いです。

 アサシン教団には、107人のイーグルが所属している。そのうち、レーナ近郊で任務にあたっているイーグルは30〜40人くらいだと聞いたことがある。

 実質、王都に負けないほどの数がこのレーナにいるのだが、問題はイーグルの順位だ。

 なにせこのレーナには、1位のフェリシモと3位のゼクスがいる。

 最大の脅威は影渡りが使える1位と3位……この場にフェリシモのような化物や、ゼクスのような強力なマジックアイテム持ちが現れたら、万が一にも生きて帰れないだろう。


「来ないのなら、私は帰るぞ!」


 もう一度声を上げ、ゆっくりと中庭に向かう。

 1歩……そしてまた1歩……と、歩を進めていくと、視界の端でいくつかの影が動き始めた。

 やがて蠢く影は、連鎖していくように増えていき門の前に集結すると、左右に別れて思い思いに展開していく。

 そのすべてが、教団支給の灰色のロングコートに身を包んだイーグルだった。

 その数……すでに、30は超えているだろう。

 その中で一際小さな影が、イーグルの群れからすっと前に出てくる。


「2位のイーグルよ。状況はわかっているようじゃな」


 小さいのは老人だからか……強そうには見えない。


「あなたは?」

「スケアクロウ……の名を冠する者じゃ」


 ……スケアクロウ(カカシ)……たしか幹部クラスはそう名乗ると聞いたけど……実際に見るのは初めてね……


「これは、粛清のつもりですか? 依頼を達成して1位になれば、いいのではなかったのですか?」

「はて……お前はいつ依頼を達成し、1位になったのじゃ?」


 狸爺め……と舌打ちをする。


「なら……押し通るとしましょうか」


 残像のシミターの剣先をスケアクロウに向けて、挑発的に小さな円を描いてみせる。

 スケアクロウは特に反応することもなく、再び影の群れへと身を沈めていく。


 ……まぁ、多分あれを倒したところで、この粛清は止まらないだろう。あれに退団を認めさせる方法か……

 いや……そんな方法、今から思いつくわけもない。


「行きますよ……」


 半ば投げやりになっている思考を一旦止め、自分という人間が唯一本の刃となり、敵を薙ぎ倒すことだけに集中する。


 最初から最速で、全力で、視界に入った標的に襲いかかる!


 まずは呑気に様子を見ているイーグルの一人に影渡りを使い、背後から斬り崩す。

 そして、そのまま動きを止めずに体を反転させて、更に隣にいた一人を斬りつける。

 さらに3人目……と、シミターを振るうが流石にこれはショートソードで受け流された。


「気をつけろ、背後に回るぞ!」


 そう叫ぶ男の背後に渡り、右のふくらはぎに剣先を突きつける。

 悲鳴を上げて倒れる男を一瞥し、次の標的を探す。

 しかし、ここまでくるとイーグルたちも戦闘のスイッチが入ってきたようだ。

 一瞬でも動きを止めると、多種多様な武器が鈍い光を放ちながら一斉に襲いかかってきた。

 さらに他の影へと移動するが、いち早く移動に気づいたイーグルがダガーで脇腹を斬りつけてくる。


「……っつぅ」


 追撃から逃れるようと、屋敷の方に転がりながら距離を開けるが、そこにも容赦なく何本もの矢が射られてくる。

 慌てて残像の盾を置くが、剣線の隙間を縫うように1本の矢が抜け出てき、左の太腿に突き刺さった。


「うぁっ……ぐっ!」


 たまらず、その場でうずくまる。


 ……大見得を切ってこのザマだ……1分も立っていられないとは………


「くっ……」


 顔を上げると、視界いっぱいに広がって襲いかかってくる、大きな影の波が見え絶望をする。

 きっと、飲まれるのは一瞬だ。

 痛みを感じる時間すらないだろう。

 うねりを伴いながら迫りくる影に、無駄だと思いながらも座ったままでシミターを構え直そうとする。

 しかし、それすらも許してくれない存在が、背後から音もなく現れた。


「……双方、動くな……」


 コツンと後頭部に、筒状の硬い物が当てられる。

 落ち着いた、その口調には聞き覚えがあった。

 つい最近に聞いた声だ。


「なにをしておる、3位」


 スケアクロウの声だけが聞こえた。

 状況が飲み込めずに、少しだけ首を傾げて背後を伺う。

 そこにいたのは、アサシンらしからぬ派手な金髪に、ツバの長い帽子をかぶった3位のイーグル、ゼクスだった。

 ゼクスは右手で私の頭に魔法の武具を突きつけながら、どういうわけか、左手に持つ同様の武具をイーグルたちに向けていた。


「今宵は白銀に輝く満月……かような夜に、美しい花を踏みにじるは無粋というもの……」


 相変わらず気持ちの悪いポーズで、気持ちの悪いこと言うスカした男だ。


「お前は、何を言っておるのじゃ」

「……女……チャンスをやろう。このままでは、お前はなぶり殺しにされるだけだ」

「チャンス……?」 

「……自害しろ。あの月よりも気高く……そして儚く散ってみせろ……」


 イーグルたちが、ざわつく。


「勝手なことを言うな、3位よ!」

「……俺が止めていられるうちに、選択するがいい……」


 なるほど……この男は本物のバカで、フェミニストなのだろう。

 ドスッと鈍い音を立てて、私の足元にダガーが突き刺さる。

 私は黙ってそのダガーを両手で引き抜くと、自らの首元に剣先を向けた。


「礼は言いませんよ?」

「……かまわない……」


 ──あぁ、でも


 ──これはこれで、いい散り方かもしれない


 ──最期にあの人のことを考えながら……思いながら死ねるのだから


「……あ……ぁく……どの……」


 美しく輝く白い月を見上げながら、その名を小さく呼ぶ。

 自然と熱いものが体の内側からこみ上げてくる。そして我慢しきれずに涙が溢れ始めた。


「ありがとうございました……ハチ子は幸せでした」


 世界が、ぼやけて歪んでいった。

 止まらない涙を切るために、一度強く目を閉じる。


「馬鹿だな、ハチ子は」


 ……アーク殿の声……幻聴?

 馬鹿ね……私……あぁ、でも本当に、これは……いい最期です……

 覚悟を固めて、ゆっくりと目を開ける。


「待たせた……よな?」


 そこには、私の両手を包むように軽く握りながら、苦笑する彼がいた。

 その唐突すぎる彼の出現に、驚きのあまり声を失う。


「なんじゃ、お前は……」

「……あんたか?」


 彼が私の手からダガーを取り、イーグルの群れを睨みつける。

 赤いマフラーをなびかせて、全身の筋肉を隆起させて、怒りに満ちた表情で、さらにこう告げる。


「あんたかっ! ハチ子を傷つけたのはっ!」


 突如現れた怒れるニンジャに、イーグルたちは動揺しているようだった。


「……そうか……お前があの観察対象の……ニンジャじゃな」

「あんたかっつってんだ!」


 叫びながら、ダガーを下手で投げつける。

 その怒り任せの攻撃は、目で追えぬ速さでイーグルの一人に突き刺さった。

 そして声を震わせながら、小さく呟く。


「……リターン」


 すると、彼の手元に音もなくダガーが現れる。


 ……そうだ……どうして気づかなかったのだ。

 あれは、彼の愛用の武器なのに……


「おいこら、ゼクス……お前もだ。さっきのは感謝してやる……だが、まずその物騒なものをどけろよ」

「…………」


 なぜかゼクスが、それに従う。


「アーク……殿……?」

「待ってろ、ハチ子。俺が全部、終わらせてやるからな」


 まだ、怒りで声が震えている。

 この絶望的な状況な最中、どうやってここを知り、何故このような死地に来たのか……という疑問よりも、理屈では説明できない安心感が、私を支配していった。

 そう、理由なんて不要なのだ。

 彼はそういう男なのだから。


「五分……」

「え?」


 彼が、左手に持つ丸薬を見せる。


「五分耐え抜けば、俺たちの勝ちだ。だから、何としても生き残れ、ハチ子」


 彼の口から出る言葉の意味が理解できなかった。


 ……でも……彼が持っている、その丸薬には見覚えがある……あれはグリフォン戦で使っていた狂戦士の丸薬だ。

 たしか効果は……筋力の増強と思考の低下……それから……

 そこで、ハッとして顔を上げる。


「だっ、だめ……だめです。アーク殿、それは……」


 そうだ……あれは、どれほどの傷を負おうと、戦い続けることができる不死化の丸薬だ。

 しかし、薬の効果が解けた時には、きっちり死んでしまうという決死の丸薬でもある。


「大丈夫さ。五分だけ時間を稼げればいいんだ」

「アーク殿っ! あなたは……あなたが懸ける命は、ここではない、私ではないはずです!」

「なに言ってんだよ。懸ける意味があるから、俺は今ここにいるんだぜ?」


 さも、当然のことのように言う。


「だって私は……私は……泡沫の……」

「知らねぇよ、んなもん。ハチ子はハチ子だろ」

「……ですがっ!」


 さらに食い下がる私に対し、彼がようやくいつもの優しい笑顔を見せる。

 そして、頭にぽんと手を置いた。


「さくっと終わらせて、一緒に冒険をしようぜ?」


 いつものように。カカカと笑い軽口を叩く。

 その言葉に……優しさに……信頼に……私は再び溢れ出る涙を堪えることができなかった。


「俺が何とかしてやるから……な?」

「……あぁ……く殿……」

「行くぞ、ハチ子」

「……はい」


 涙を拭って、何度も頷いた。

 そして足に刺さる弓矢を引き抜き、彼の背を借りながら立ち上がると、そのまま背中を合わせる。

 ゼクスは……待ってくれていたという感じだ。

 きっと、彼と戦いたいのだろう……でも、そうはさせない。


「いつでも行けます、アーク殿」

「カカッ、そうこなくっちゃな」


 背中越しで響くその声は、私を強く鼓舞してくれていた。

真面目な話なので特にネタがないです。(笑)

アークとハチ子の物語を次回もお楽しみに。

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