表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/504

アークとハチ子の物語っ!〈3〉

ハチ子編、第三話です。

ハチ子の戦いを見守ってください。

 ダリのカットラスが、勢いよく空を斬る。

 牽制にフェイントをまじえながら、時折鋭く急所を狙う攻撃的なアサシンの戦い方だ。

 いま動きの鈍い私に対して効果的といえる。

 実際、迫りくるカットラスの攻撃をかわしきれずに、薄皮一枚ながらも肌が切られていく。


 ……あのまま直情的に斬りかかってくれれば、刺し違えることもできたのに……意外に慎重な男……


「油断なんてしない、しないよぅ?」


 まるで、こちらの思惑を見透かしてるかのようなセリフに、少しだけ焦りを覚える。


 ……こんなとき、アーク殿なら……ニンジャならどう戦う?

 いや、今のアーク殿はニンジャの戦術だけでなく、シメオネから教わった体術も駆使する。

 いくらなんでも、そこまで付け焼き刃で真似できない。

 本当に強くなりましたね……アーク殿……


「なに笑ってんだよぅ!」


 ……笑ってる?

 あぁ……それはきっと、満足をしているから……この1年が満たされたものだからだろう。

 そんなふうに……半ば諦めた感覚に陥りながら、迫り来るカットラスの剣先を目で追う。

 その動きは、まるで水の中にいるかのようにゆっくりとしたもので、はっきりと剣先が目視できていた。

 しかし、体もまたその中にあるようで、思うように動かない。

 とにかく、この一手をかわそうと床を強く蹴り後ろに飛んで逃げる。

 瞬間後、左の脇腹に熱い感触が弾け、そのまま壁まで転がり頭をしたたかにぶつけた。

 ダリがとどめとばかりに、カットラスを振り上げる。


 これまでか──と、その動きを眺めていた、その時だ。


 視界の左側からひとつの影が割って入るかのように飛び込み、ダリのカットラスを打ち上げた。

 そして、そのまま流れる動きで体を一回転させてダリの脇を斜め上に薙ぎ、さらに1歩踏み込むとダリの口元を押さえつけて、シミターの峰を喉元に当てながら壁に叩きつけた。

 ダリは、あっさりと昏倒してしまう。


「……アーク……どの?」


 その鮮やかな一連の動きに感嘆し、かすれ声で呼びかける。

 しかし、その男は灰色のコート姿だった。


 ……得物もシミター……アーク殿ではない?


 男は、ゆっくりとした動きで白いフードをめくり、振り向く。


「お前の想い人でなくて、すまないな」


 それは、予想だにしない意外な人物だった。

 無造作に切られた白い短髪に精悍な顔つき。男は静かに苦笑する。

 傷跡とともに失われた左目が、奇しくも今のアーク殿を連想させてしまう。


「……乱歩さま」

「久しいな、8位。いや、今は2位か」

「……どうして……?」


 ……乱歩……アーク殿が言うところの“セブン”……自分に、この世界の理を、そして外の世界のことを教えてくれた人物だ。


「お前の抹殺命令が出た。この近くにいる、イーグル全員にだ。それが一体何人いるのかはわからないが……」

「助けてくれるのですか?」


 しかし乱歩は、首を横に振る。


「これでも一応、教団所属のアサシンだ。この件も、お前の不用意な行動に対する結末に他ならない」

「かわりませんね……」


 その生真面目な堅物っぷりに、思わず苦笑する。


「その割に……今のは助けてくれたんですよね?」

「……ただ殺されるだけなら、静観するつもりだった。しかし、慰みものにするというのならば……それはあまりに不条理だ」

「それで……次は私を殺すのですか?」

「お前が、それを望むのなら」


 しかし私は首を横に振る。

 心の何処かで、アーク殿にもう一度会いたいという淡い希望が、未だに息づいていたからだ。


「……俺は、この物語はお前のものだと思っていた……」

「残念ですね。どうやら、これはアーク殿と鈴屋の物語ですよ」

「……俺が見誤ったばかりに辛い思いをさせた……恨んでくれていい」

「いいえ……私をアーク殿に会わせてくれたのです。感謝こそすれ、恨むことはありません」


 笑顔をみせてこたえる。

 言葉に嘘はない。

 外の世界を知り、自分という存在に疑問を感じながらも、アーク殿に会えたことで自分の存在意義を勝ち得たのだ。


「そうか。俺には、この粛清を止める力はない。しかし、参加する気もない。だから、せめてこのまま去る」

「ありがたいですね」

「……が、お前は、ここからは逃げられないだろう。逃げたところで死ぬまで追われるはずだ」

「そう……ですか。それは困りましたね」

「アークもこの事は知らない。知ったところで、鈴屋を残して、わざわざ死にには来ないだろう」

「それは何よりも重畳……」


 そうだ……それは、むしろそうあってほしいし、そうでなくてはならない。


「それで……どうする気だ?」

「もちろん帰ります。正面から堂々と」


 乱歩が驚き、大きく息を吸う。


「……逃げないのか?」

「逃げても無駄なんでしょう? なら、正面から突破するしかありませんね」


 少なくとも戦って死ねるのならば、先程のような辱めを受けることもない。

 乱歩が無言で長考し、やがて首を横に振る。


「ならば足掻け。残像のシミターは、選別にくれてやる」

「……助かります。九龍牌も、まだ私の手にあります。なんとか、活路を見出してみせます」

「最期は見届けない。生き残れば、いつかまた相見えようぞ」


 肩をすくめて微笑み返すと、乱歩は静かにうなずき窓から身を乗り出した。

 そして振り向いてもう一度うなずくと、そのまま身を翻して外へと消えた。


「……さぁ……2位の力……とくと、味あわせてあげましょうか」


 一人つぶやき、シミターを抜く。

 廊下は、やはり静まり返っている。

 しかし、すでに何人ものイーグルがいるのだろう。

 正面の中庭から出ていこうとすれば、彼らも無視はできないはずだ。

 このわずか百メートルほどの距離が、修羅の道となるのは間違いない。

 痛み止めの薬を飲み、足を少し引きずりながら中庭へと進む。

 そして、大きく息を呑み込み……


「私はここだ! ここにいるぞ! これから正面の門を通って、帰ってやる! 私に用があるやつは、それまでに出てこい!」


 静寂の中にある月下の廃墟で、そう宣戦布告をしたのだ。

久々のセブンさんでした。

相変わらず何かいろいろと知ってそうですが、アークと話さないとその辺は出てきそうにありませんね。

次はいつ出くるのやら…あとアークはいつ来るのやら。(笑)

それでは、次回をどうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ