アークとハチ子の物語っ!〈2〉
短いですがハチ子編、第二話です。
ピンチです。アーク君早く来てください。このままではゴブリンスレイヤー並にダークな内容になります。そんなお話。
「おら、あんまり暴れんなよ〜」
ダリが、私の両手を頭の上に押さえつけてくる。
リザは教団支給のコートを履ぐように脱がし、今度はソフトレザーアーマーの両脇にある、はしご状の結び目をナイフで乱暴に切っていく。
もはやアサシンでも何でもなく、ただの暴漢だ。手慣れた連携に、この2人が普段から犯罪行為を行っていると、容易に想像がつく。
正直、反吐が出る思いだ。
「お願いです……やめて……」
わざと弱々しく懇願すると、男達の口元がさらに卑しい笑みを浮かべる。
唇を噛み締めて、足を閉じようとわずかに抵抗してみせる。が、しかしこれはすべて演技だ。
一瞬でも隙を見せようものなら、その喉笛を食いちぎってやる。
リザがソフトレザーアーマーを強引に外し、いよいよ革のワンピースの胸元に手をかけたところで、目をうつろに開け、諦めたかのように力を緩めてみせる。
「なんだよ、もっと抵抗しろよ」
リザが不服そうに言うとワンピースを放し、胸元から首筋へと嫌らしく指を移動させて、顎をつまみ上げた。
「ほら、嫌がれよ」
まるで、口説いているかのように耳元でささやき、唇を寄せようとする。
……もう少し……もう少し……
不快感をぐっと堪えながら、あと少しで唇が触れるという距離まで待つ。
そして一気に全身の力を開放し、首を持ち上げてリザの喉元に噛み付いた。
一切の容赦をせず、力任せに肉を噛みちぎる。
「ぎゃぁっ!」
情けない悲鳴を上げながら、リザが後ずさるのを目で追いつつ、体を捻って今度はダリの首元に蹴りを放つ。
ガツッと確かな手応えとともに、両手の拘束がとかれた。
その一瞬の隙を逃さず、そのまま反動をつけて起き上がり、ペッと肉片を吐き捨てる。
「てめぇ……てめぇ……このあまぁぁ!」
「……情けない男。あの人なら、その程度の傷で悲鳴などあげないでしょうね」
口元を汚す血を拭い、冷笑を浮かべる。
「殺す……犯して、犯しつくして、殺してやる!」
首元を抑えなが激昂するリザに、無言のまま一気に間合いを詰める。
たまらずリザが殴りかかってくるが、あの人に比べれば欠伸が出るほどに鈍い動きだ。
そのまま脇をすり抜け、背中から組みかかる。
アーク殿が何度か見せていた、ニンジャの技『蜘蛛絡み』だ。
背後から胴に両足を回し、腕を相手の首に巻きつけ締め上げると、ものの数秒でリザが気絶した。
まずは1人……と、腕の力を緩め離れようとしたところで、右足に鋭い痛みが走る。
「させねぇ、させねぇよぅ!」
どうやらダリが、リザごと私の足を斬ったようだ。思わず痛みで声を上げそうにあるが、懸命にそれを我慢し、リザから飛び離れる。
右の太腿に視線を移すと、一筋の切り口から血が滴り流れていた。
「仲間ごと斬るなんて、見下げた下衆野郎ですね」
リザはとりあえず生きていそうだが、放っておけば昏倒したまま死ぬだろう。
そして、ダリは助ける気などないようだ。
「いいんだよぅ、お前を犯して殺すってぇのが、リザの遺言なんだからぁ」
「……下衆」
吐き捨てるように言う。
しかし、形勢は不利だ。
私のシミターは反対側に転がり、手元に何も武器がない。
加えてまともに歩けないくらいにはダメージを負っている。スピードタイプの私が足を殺されたことは致命的すぎる。
……ダリの得物は、湾曲した片刃のカットラス……素手では到底、勝ち目がない……
「よぅく、考えろよぅ。俺が今からここを出てぇ、お前の好きな男を殺しに行くのと、自分から股を開くのとぅ、どっちがいいのかよぅ?」
……あぁ、ほんとに……アーク殿以外の男は馬鹿しかいない……
大きくため息をつき、再び冷たく笑う。
「……懲りないですね…………ひとつ……私が先程、失念していたことを教えてあげます」
「ぁあ?」
「あの人は、あなた達2人でどうにか、できるような人ではないことを忘れていました。あとで謝りにいかないと……」
ダリの顔が、怒りで歪んでいく。
「俺がぁ、そいつにぃ?」
「えぇ。あなたが、あの人に勝てる要素がひとつもありません。それこそ万にひとつも、です。残念でしたね」
「この、あまぁぁぁ!」
思った通り、馬鹿で単純だ。
……そう、それでいい。
私にそのまま向かってこい。
そして……私は、お前と刺し違えてやる。
【今回の注釈】
・「させねぇ、させねぇよぅ!」……あるよぅ、毒あるよぅとキャラがかぶってしまいましたが、本当に偶然です。




