鈴屋さんとパーリナイっ!〈3〉
今回はかなり短いです。
さくっとどうぞ。
「あぁーーっ、アークさみゃ、キターーッ!」
下に降りるなり抱きついてきたのは、踊り子の姿をした成長著しいシメオネ師匠だ。
シメオネは、キャットテイル族の中で猫語尾が抜けないほど幼い……が……しかし、だ。
身体的な成長は早熟な種族なだけあって、メロンの大きさはすでに鈴屋さん以上である。
ここでメロンってなんのこと? ……とか、野暮な質問はしないで欲しい。
さすがは、サキュバス級に妖艶なフェリシモを姉に持つだけはある。
いつもこうして、屈託のない笑顔で飛びついてくるけど、そろそろ俺の理性も限界に近い。
「……師匠……その格好だと、マヂ、キワドイッス……」
「きわどいって、なんにゃ?」
……いやほんと、そろそろ女として自覚を持ってもらわないと……
今度ラスターに、それとなく忠告しとくか。
「いよぅ、ロメオ。やぁっと起きたのかい?」
褐色の肌をしたアフロの姉さんは、すっかり出来上がっている。
いったい、どれほどの酒を飲んだのだろう。
そう言えば前に、“あたしの場合は飲んだ瞬間に皮膚から蒸発していくから、酒で酔えないんだよ”とか話していたな。
なんか、本当っぽく思えてきた。
「あぁ~、シェリーさん。シメオネも呼んだの?」
「あん? だって、お前ら仲いいんだろ?」
「そうにゃ。シメオネは、あーくさみゃと添い遂げる仲にゃ」
「……ちょ、シメオネ、ひっつくなって。いやさ、シメオネとは、あんなことがあったわけだし……」
シェリーさんが、あぁぁん? と、あからさまに不機嫌な表情を浮かべる。
「だってそれは、“お前”が御破算にしろって話を持ち掛けてきたんだろ?」
「まぁ、そうだけどさ」
「それにこいつぁな、なかなかにいい踊り手なんだぜ? あたしは、けっこう気に入ってんだよ」
笑いながら、俺にしがみついているシメオネの頭を、乱暴にくしゃくしゃと撫でる。
「うにゃぁぁ……やめるにゃ」
鼠が猫を可愛がっているのかと思うと、どこかおかしな感じだ。
シェリーさんが、さっぱりとした性格だと言えばそれまでだが、きっとそれだけではないのだろう。
シメオネのまっすぐで天真爛漫な誰からも愛される性格は、敵をも味方に変えてしまうのだ。
フェリシモが弟妹を守るために自らアサシンとなり、この妹を育て上げたことは称賛に値するだろう。
あの背後からの呼び声は、いまだにトラウマだがな。
「あー君」
「のっひゃぁぁぁあああっ!」
冷ややかな声で名前を呼ばれ、思わず奇声を上げてしまう。
しかも、耳元ゼロ距離射撃というオマケ付きだ。
……幽霊とかより、よっぽど怖いぞ。
「す、鈴屋さん?」
「あのね、あー君。さっきから私の目の前で、何を見せつけてるのかな?」
「あ……鈴屋、いたんにゃ。影が薄いから気づかなかったにゃ」
……お、おま……なんてことを……
「あー君は、いい加減その野良猫を、床に降ろすべきじゃないかな?」
「野良じゃないにゃ。あーくさみゃに飼われいるにゃ」
眼の前で火花が、バチバチと音を鳴らしているようだ。
ここにハチ子がいれば、“飼い犬として喉笛を噛み切らねば〜”だの言いながら、さらに話をややこしくしていただろう。
「あー君、聞いてるのかな?」
鈴屋さんは、抱きついたままのシメオネに一瞥をくれると、そのまま俺に詰め寄ってくる。
怒っても可愛いという整いすぎた顔立ちに、ついつい見惚れてしまいそうだ。
「はい聞いてます。あと顔が近いです。ドキドキします」
「ばっかじゃないの!」
ダンッと足の指先に衝撃が走り、鈴屋さんはそのままいつもの席へともどっていってしまった。
その様子を見ていた他の男が、これはチャンスだと思ったのか、鈴屋さんのいるテーブルへ群がり始めるが……まぁどうせ相手されないだろう。
「ヘィ、ロメオ~。私の経験から言わせてもらうなら、今の怒らせ方はよくない、よくないねぇ~」
「あんたは楽しんでるだろ……」
シェリーさんが豪快に笑い飛ばす。
この人にとっては、俺は本当にいい酒の肴なんだろう。
「ほら、シメオネもいい加減に離れろ」
「あぁ……あーくさみゃぁ……」
少し……いや、かなり残念そうな顔をするシメオネの頭に手を置き、とびきりの笑顔を見せる。
「それよりさ、ひとつ踊ってくれよ。俺のために」
するとシメオネの顔がみるみると赤くなり、嬉しそうに笑みを浮かべ始めた。
「わ、わかったにゃ!」
うん、ちょろいな。
「あ、そうだ。あーくさみゃ…」
「うん?」
「眼帯のあーくさみゃ、かっこいいにゃ!」
「……っ……お、おぅ……」
思わぬ不意打ちに、言葉が詰まってしまった。
「……ちょろぃねぇ、ロメオ……」
「んなっ!」
そして、やっぱりシェリーさんは何枚も上手だった。
まだ宴は続きます。(笑)
たぶん次で終わりです。




