鈴屋さんとパーリナイっ!〈1〉
気軽な話なので勢い任せに書き上げました。
仕事はここ2週間が正念場のため、この後ペース落ちたらすみません。
それではワンドリンク片手に、気軽に楽しんでもらえれば幸いです。
「おい、アークさんよ~」
昼下がりの碧の月亭で、あくびをしながら歩いていると、カウンター席に座っていたグレイが呼び止めてきた。
「……んだよ」
「その、なんだ……それ、かっこいいな」
金髪チャラ戦士の軽薄極まりない言葉に、俺は心底げんなりとした表情で返す。
「んだそれ……慰めてるつもりかよ」
「いや、ほんとにかっこいいなって。できれば、譲ってほしいくらいだ」
うわ……本気で言ってたのか。
こいつ、本物の馬鹿だな。
「アホなこと言うな。一応戦利品なんだ」
まったく、昼間っから厨二病全開で絡んできやがって。
……いや、今まさに俺もその只中だった……
軽く落ち込みながらオヤジに水をもらうと、鈴屋さんとハチ子が待つお決まりの席へと向かう。
「へい、色男! 随分といい顔になったじゃねぇか!」
背後から聞き覚えのある声がし、振り向くよりも早く首元に腕を回される。
たくましい褐色の腕に反して、背中に当たるメロンの感触が異常に柔らかい。
確認するまでもなく元傭兵のアフロレディ、シェリーさんだ。
「ちぃ~~っす」
「なんだい、その仏頂面は。男らしくなって素敵ですね、って言ってんだよ」
「あ~、ありがとぅーございまぁーす」
一応礼を言ったのだが、言い方が気に入らないのか思い切り頭をはたかれる。
「いってぇな、一応怪我人だぞ?」
「元気そうにしてんじゃねぇか」
「……まぁ、元気だけども……」
言葉に嘘はない。
体はいたって健康、食欲旺盛でどこにも痛みはない。
ただ、やはり左目の傷跡は残ったまま、俺の視力もまた未だにもどっていない。
あの後、港にもどった俺は、鈴屋さんに南無子の家へと連れていかれた。
傷自体は『快気功』で治療済みだったから、目的としては傷跡を消すことだ。
もちろん、視力のことは南無子にだけ話してある。
この隠し事がバレたら、鈴屋さんはきっと怒るだろう……が、とても話す気になれない。
とにかく傷跡を消すことと、視力の回復のために神聖魔法の解呪を試したのだが、なんの効果もなく今はそのまま保留となっている。
まぁ南無子が「絶対、なんとかしてあげる」って言ってたから、なんとかしてくれるんだろう。
その間は戦利品の眼帯『三日月の断罪』……なんて恥ずかしいネーミングだ……を使うこととなった。
一応、永続バフと何らかの特殊効果があるらしい。
何らかの……とは、鑑定に出してもよくわからないと言われたから、効果が不明なのだ。
ちなみに鈴屋さんとハチ子には「念のため眼帯をしながら経過をみることになったよ〜」と、軽めに説明してある。
今のところは、納得してくれているようだ。
「あ、シェリーさん、久しぶりです」
鈴屋さんが、愛らしい笑顔を添えて会釈をする。
「よぅ~久しぶりだねぇ。彼氏ぃ、大変だったみたいだねぇ〜」
「はい。でも、知り合いの神官が、大丈夫って言ってくれてるので一安心で……」
「今、はいって言った! はいって言ったよね!」
「しばらくは、ソレつけて我慢するしかだよね、あー君?」
「ガン無視ですかっ!?」
鈴屋さんが厨二丸出しな俺を見ながら、にんまりと笑う。
眼帯姿の俺を一番楽しんでいるのは、鈴屋さんで間違いないだろう。
「私は、今のアーク殿も、精悍な顔つきで好きです」
「……なっ……そうじゃなくて……そういう話をしてるんじゃなくて。それはそれで似合ってるのは、私だって知ってるしっ!」
今度は鈴屋さんが、声を荒げる。
ハチ子の挑発には弱いのな。
「鈴屋は、少し意地悪が過ぎます」
「ハチ子さんは思ったことを、そのまま言い過ぎなのっ!」
「おぅおぅモテモテじゃん、ロメオ」
「ほんとにこれがそう見えるのか……楽しんでいるのは、俺以外だけだと思うんだが……」
シェリーさんが豪快に笑いながら、エール酒を一気に開ける。
ほらみろ、完全に酒の肴にされている。
「まぁそう言うなよ。正直な話、前よりもずっと、あたし好みになったぜ?」
『んなっ!?』
おぉ、見事なハモリ。
驚きのあまり、目を丸くするところまで同じだ。
「しばらく見ない間に、随分と筋肉もついてきたんじゃないか?」
「あぁ。今、気闘法と格闘術の訓練してるからなぁ。ちっとは、ストレングス値も上がったかな」
「すとれん……なんだ?」
「いんや、こっちの話」
……というか、ゲームのステータスの話だ。
ステータス画面とか見れたら便利なんだけど、ここでは見れないんだよな。
「……で……シェリーさんは、何しに来たんですか?」
鈴屋さんが急に棘を仕込み始める。
ハチ子はハチ子で、大きくうんうんと頷いて同調してるし……君たち、怖いもの知らずだな。
それでもシェリーさんは、豪快に笑い飛ばすだけだった。
「そぅ、可愛らしい牙で噛みつくなよ。あんたらから、盗りゃぁしないから」
「何の話だよ……で、ほんとに、何しに来たのよ」
「そりゃあ、ロメオの快気祝いに決まってんだろ。他にも声かけといたから、今夜はここを貸し切りにして飲むぜぇ~」
「おいおい、またそんな勝手なことを……」
「んだよ、わりぃ話じゃねぇだろ? とにかく今から準備するから、ロメオは二階で休んでな!」
「いや、でも……」
「ロメオぅ~、今夜は寝かせないぜぇ?」
ゴンッとテーブルの上に、マグカップが音を立てて叩きつけられる。
ビクッとして見てみれば、頬を真っ赤にして膨らませている鈴屋さんが、何とも言えない表情で俺を見ていた。
「あぁ〜っと……じゃぁ……お言葉に甘えて上に行ってます……」
俺はそう言って、逃げるようにその場から離れるのだった。
しばらく脳天気な話になります。




