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鈴屋さんとキャプテン・オブ・ザ・シップ〈11〉

なんとか「キャプテン・オブ・ザ・シップ」編を書き終えられました。

書く時間が無くなる前に、とりあえずゴールできてよかったです。

それでは短めの話ですが、ワンドリンク片手にどうぞ。

 こうして昏倒してしまうヲチは、何度目だろう。

 情けない話だが、昏倒後の俺は決まって、彼女の膝枕で目を覚ましている気がする。

 右の頬に当たる柔らかな温もりは、鈴屋さんのもので間違いないだろう。

 もう少しこうしていたいので、バレないようにうっすらと右目を開ける。


 どうやら俺は、帆船“ビッグ・ベン号”のデッキにいるようだ。

 まだ夜だというのに、船員が慌ただしく動いている。おそらくは、この海域から出るための準備をしているのだろう。

 船員が目を覚ましたということは、クエストはクリアできたようだ。


 さらに少し視線を動かすと、青い月の光に照らされたハチ子の姿が浮かび上がる。

 心配そうな表情を浮かべるハチ子は、いつもの凛とした美しい女性のそれだ。

 どうやら無事に、大人の姿へもどれたようだ。

 しばらくの間しっかりと目があってしまうが、ハチ子は黙ったままで何も言わない。

 まるで「まだ横になっていてください」と言っているようで、その優しさに心の奥底が熱くなる。


 そう言えば……と、ウイルズ戦を思い出す。


 どうしてハチ子は、テレポートダガーを使えたのだろう。

 テレポートダガーはその特性上、所有権のあるプレイヤーの言葉にしか力を示さない。

 所持者以外が「トリガー」や「リターン」と言っても、反応しないようにするためだ。

 俺がハチ子に貸したところで所有権は俺のままなのだから、ハチ子はその力を使えないはずだ。

 これもゲームシステム上の話だが、レア度が高い装備は通常の方法では譲渡できないようになっている。

 そもそもあれは、鈴屋さんがイベントで手に入れた賞品だ。

 それを俺が恋人契約することによって、アイテムストレージの共有化をし、その結果、俺にも所有権が生まれているのである。

 つまりこれは、ゲームの『恋人契約システム』を利用した、プレイヤーにのみ使い回しが可能な手段なはずなのだ。

 ましてや、ハチ子は泡沫の夢……つまりはNPCだ。

 なのになぜ、彼女が使えたのか。


「君はいったい……」


 つい言葉に出てしまっていた。


「あー君!」


 水色の髪をさらさらと俺の頭にこぼしながら、目の周りを真っ赤に腫らした鈴屋さんが覗き込んでくる。


「鈴屋さんも、もとにもどれたみたいだね。よかった」


 力なく笑顔をみせて、体を起こす。


「アーク殿……治療がまだ……」


 しかし俺は、心配無用とばかりに手のひらを差し出した。

 そして深呼吸を一つし、体内の気を練り始める。

 シメオネ先生直伝、気闘法の自己治癒スキル『快気功』だ。

 時間はかかるが、これでかなりの傷は治せる。

 しばらく集中をし痛みが完全に取れるまで練気を続ける。

 そして、ゆっくりと両目を開いた。


「ほらな、すごいだろ。完治したぜ?」

「……アーク殿?」


 それでも心配そうな……少しショックを受けているような表情を、2人が浮かべている。


「あー君……左目……」


 鈴屋さんがそこで言葉を飲み込み、かわりにボロボロと涙をこぼし始めた。


「左目?」


 ……と、そこで初めて自分の異変に気がついた。


「見せてくださいっ!」


 ハチ子が血相を変えて、覗き込んでくる。


「なんだよ、完治してるだろ?」

「……たしかに、他の傷は跡形もなく……しかし左目と、その周りの傷だけは跡が残っています」


 ……あぁ、たしか……

 怪我をしてから時間がたちすぎると『快気功』だけでは、傷跡が残るかもしれないとか言ってたな。

 そこらへんは、神官の治癒魔法の方が早くて強力なのだが……それにしても、そこまで時間も経っていないはずだ。


「あー君、まさか見えないの?」


 一瞬、言葉に詰まる。


「いんやぁ~? 鈴屋さんのかわいい泣き顔も、ハチ子さんの太腿も見えてるよ。ちょっとだけ、ボケてるけど……まぁ、すぐ治るよ」


 あえて、カカカと笑う。

 そういえばあいつ、呪いの一撃とか……楔を打ったとか言ってたな。

 傷が消えないのは、その辺が影響しているのか?


「……ほんとに?」

「一応、帰ったら南無子んとこ行くよ。傷は残るかもだけど、男なんだからそれくらい……」

「それだって、駄目だよっ!」


 鈴屋さんが詰め寄り気味に言う。

 その眼は、いつになく真剣そのものだ。


「なに、ずいぶんと心配してれんじゃん、かわいらしい」

「……当たり前でしょ……」


 口をすぼめて言うのが、また愛らしい。

 ハチ子は黙って……やはり心配そうに見つめてくる。

 この子は、本当に感がよさそうで困る。


 ……そう……俺の左目は、ほとんど見えていない。


 しかしこの事実を話すと、鈴屋さんが泣いてしまいそうで言えそうにない。

 見えなくなったことによるショックよりも、鈴屋さんがそのことで悲しむことの方が、俺にとっては深刻な問題だ。

 ここはひとつ、話題を変えるべきだろう。


「そう言えば、ドロップアイテム……なんかあった?」


 そもそも、ここにはキーとやらを探しに来たのだと思い出す。


「私は何も……」

「むぅ……そっか。鈴屋さんは?」


 しかし、鈴屋さんも首を横に振る。


「えぇ……こんなに苦労したのに、それはないだろ」


 あんまりだ……と、俺もポケットを探ってみる。

 すると、身に覚えのない感触が指先にあたった。


「あっ!」


 慌てて、それを取り出す。


「あー君、それって……」


 それはたしかに、キャプテン・フックのドロップアイテムだった。


 ……しかし、これは……


「……眼帯?」


 まさかこれがキーなのか……と、訝しんでいると、鈴屋さんがクスクス笑いだした。


「いいじゃん。しばらく厨ニ病遊びができるね!」

「いや、それ……まぢ恥ずかしい」


 話しながら、逆のポケットも探る。

 すると、こちらにも身に覚えのない感触が指先にあたった。


「お、まだあるぞ。今度こそお宝か!」


 勢いよくそれを取り出し、両手で広げる。


 それは真っ白な……

 ええっと……まっちろな……お宝……


「……アーク殿……あの……その…………私のパンツ……返してください……」

「ちょ、そこで恥じらうな、俺が悪いみたいに……」

「……あー君」

「お、俺は悪くない!」

「ばかぁーーーーっ!」


 容赦のないビンタを喰らいながら、とりあえず港に帰ったらあの婆さんを探し出して、文句の一つでも言ってやろうと俺は心に決めるのだった。

この後は軽い日常を挟もうかと思います。

では次回をお楽しみに、しばらくお待ちください。


【今回の注釈】

・パンツ……返してください………このすば含め昔からよくあるラブコメの鉄板ネタですね。今回はなぜかハチ子さんが標的に…

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