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鈴屋さんとキャプテン・オブ・ザ・シップ〈9〉

お久しぶりの更新です。

キャプテン・オブ・ザ・シップ編も後半に入ってきました。

ここからちょっと激動の展開です。(←ほんとか?)


あと2~3週間は忙しいので、ちょっと辛抱の必要な週間となりますが、少しずつでも書き溜めていきますのでお待ちください。


それでは、どうぞ。

 海賊アンデッド船長『キャプテン・フック』……そうだ、こいつはあのボスで間違いない。

 高級そうな青地の生地に、いくつもの刺繍が施されたコートは非常にクールなのだが、残念ながらひどく汚れてしまっている。

 いかにもな海賊ハットは、つばの部分が大きく折れ曲がりドクロの刺繍が施されていた。

 白骨化した顔の左目は、厨二心をくすぐる真っ黒な眼帯が隠している。

 極めつけは左腕だ。そこには黄金製の義手があり、その形状はもちろん鉤爪だ。

 定番、ここに極まれり……まさに海賊フックだ。


 昔のクエではあの鉤爪がレアなドロップアイテムで売ればいい金額になったため、よく金策マラソンをしたものだ。

 得物は……カトラス……サーベルに似た武器だ。

 たしか、あの武器で攻撃をいなしながら急所を狙う、通称『確定クリティカル』ってスキルが厄介だったな。


「さて、やるしかないか……」


 まだフックとの距離はある。

 今のうちに……と、残像のシミターを軽く振り下ろして、具合を確かめてみる。


 シュン──


 軽く空を切る音とともに、青白く光るシミターの刀身から、4段階くらいのグラデーションで残像が残っていった。

 その美しさたるや、まさに1位の賞品にふさわしいものだ。


「少し重いな……」


 シーフであれば重量ペナルティを受けて、目標に当てることもままならないだろうが、ニンジャはシーフよりも必要筋力値制限が緩い。

 これなら、ぎり使えそうだ。

 よし、やれる……と、廊下の奥へ視線を移す。

 キャプテン・フックは、ゆっくりと歩を進めながら、右手のカトラスをくるくると回していた。

 生前の癖なのか、どこか挑発的だ。


「あーくどの……」


 背後から不安げな、幼女の声がする。

 視線を移さなくとも、その表情を想像するのは容易なことだった。


「大丈夫だよ。ハチ子さんと鈴屋さんは、マーフィー君から離れないでね」


 少しでも不安を和らげるために、軽口を叩く。

 するとフックが、まるでそれを嘲り笑うかのように、カタカタとどこかの骨を鳴らした。

 ……相手がアンデッドなら『九字護身法』でもブッパすれば片付けられるのだが、ゲームだとボスクラスには問答無用でレジストされてしまうんだよな……

 まぁ、ボスが『ターンアンデッド』で一発浄化とかされたら、ゲームとしてどうなんだって話だ。


「ん~と……たしか、こんな感じか?」


 とりあえず、シミターを斜め上から斜め下へ、そして斜め下から真上へと振るう。

 ヒュンヒュンと風を切る音とともに、美しい青色の残像が残っていく。

 フックが無防備にも、その残像に触れると『ヴァチィィィン!』と耳をつんざく斬撃音が廊下に鳴り響いた。

 ついで服が切り裂かれていき、フックはたまらずその進軍を止める。


 ……なるほど、これは便利だ……


「やっちゃえ、おにいちゃん!」

「おうさ!」


 感覚は掴めた……これなら削り切れる!


「ひとつ……」


 俺は一気に間合いを詰めると、勢いよくシミターを横一文字で薙いだ。

 フックが、それをカトラスで受け流そうとする。

 カウンターによる『確定クリティカル』のモーションだ。

 しかし、その場に留まっていた残像による連続的な衝撃が、受け流そうとするカトラスを弾き飛ばした。

 ちょっとした武器狙い攻撃にもなっているのに、カトラスを手から離さないのは称賛モノだ。


「ふたつ……」


 俺は動きを止めることなく、斜め下から斜め上へと逆袈裟斬りの形で胸を撫で斬る。


「みっつ……よっつ……」


 続けざまに横一文字、袈裟斬りへとつなぐ。


「いつつ!」


 トドメとばかりにシミターで切り上げると、フックは派手な音を立てて廊下の奥へと吹き飛んでいった。

 ニンジャ刀限定のスキル……『数え五斬』だ。


「あーくどの、すごいっ!」

「さすが、私のおにいちゃん!」


 黄色い声に、カカカと照れ笑いで返す。


「ダガーばっかりで、俺にはあまり縁のないスキルだったけど、まさかここにきて使うことになるとはね」


 『数え五斬』は火力不足のニンジャにとって、数少ないダメージソースだ。

 しかも、残像のシミターのおかげで攻撃力は倍増……と、これは今わかったことだが、残像を分散させず1箇所に集約させれば、連続的な斬撃を放ち続けるらしい。

 ハチ子のように多重残像で結界を張りながら戦う『攻防一体』のスタイルとは違った、より攻撃的な戦術だ。

 速攻型の俺には、この使い方のほうがあっているだろう。


「すごいです、あーくどの。そんな使い方があったなんて!」

「試したらできたってやつだよ、たまたまさ……さぁて、キャプテン・フック。レアドロップの一つでも置いて、退散してもらおうか」


 シミターの剣先を、フックに向けて見得を切る。

 フックはゆっくりと立ち上がると、歯ぎしりをしながら力強く一歩踏み出してきた。


 ……このとき俺は、何かおかしいと、いいようのない違和感を覚えていた。

 何が、と問われれば、すぐには答えられないのだが……何かこう……ゲームの時とは違うような……


「あーくどの。あいつ、ふんいきがかわりました」


 小さくても高性能なハチ子は、何かを感じ取ったのだろう。

 おかげで、俺の中の違和感は確信に変わりつつあった。

 これは早めに片づけたほうが、よさそうだ。


「鈴屋さん、前に話した氷の……できる?」


 エルフ幼女が何かを思い出すように腕を組み、ん~っとしばらく唸る。

 やがて、にぱっと笑顔をみせた。


「おけまるっ! すぐやるの?」


 頷いて応えると、鈴屋さんがどこかで見たような、魔法幼女らしい可愛いポーズをとる。

 どうやら、召喚のためのポーズらしい。

 召喚にそんなポーズはいらないはずなのだが、きっとそういう気分なのだろう。

 可愛くて、こちらこそ『おけマル』でございます。


「おいで、フェンリル!」


 特に召喚のための複雑な呪文詠唱もなく、名前を呼ぶだけで氷の上位精霊を呼び出してしまう。

 冷気を纏った真っ黒な狼は俺の腰元を擦り抜けると、低い唸り声を漏らしながら鈴屋さんのほうに頭を向けた。

 小さな召喚主様に、指示を仰いでいるのだろう。


「いけぇぇふぇんりるぅぅーー!」


 フェンリルが、アオゥゥゥゥゥンと高らかな咆哮をあげると、二秒とかからずに廊下の端まで駆け抜ける。

 そして床から壁まで、すべてを凍結させてしまった。

 ついでにフックの足も、凍った床に束縛されてしまい動きが止まる。


「よしっ、いくぜっ」


 俺は間髪入れず床に滑り込み、『体術 地竜』を発動させた。

 高速で行うロングスライディングは、氷の上でさらに飛距離を伸ばす。

 そのままフックの足元まで滑り込むと、両足に向けてシミターを放つ。

 青白い刀身は、おおよそ骨とは思えない強度の足にぶち当たり、ガチガチと音を立てて弾かれるが、そこに幾重にも重なる残像が生まれると、一気に衝撃が爆発し両足を吹き飛ばした。


「っしゃぁぁぁ!」


 俺が勝利を確信し、寝そべった状態でフックの胸へとシミターの剣先を突き付ける。

 やはりとどまる残像から衝撃が生まれ続け、胸部が炸裂しフックが倒れ込んできた。

 俺は、体を左に捻ってそれをかわす。

 右側の耳元でガシャガシャと骨が崩れる音がし、思わず顔をそむける。かなり派手に吹き飛んだようだ。

 いや、ほんと……チート武器だな、これは……


「俺の勝ちだな」


 鈴屋さんたちに、報告もかねて呟くと、手をついて身体をおこそうとする。

 しかし、その瞬間だった。

 俺の喉に何者かの右手が、手加減なしで掴みかかってきた。


「ぐっ!」


 声も上げられず、そのまま凍った床に頭を叩きつけられる。


「あーくどのっ!」


 ハチ子の悲痛な叫び声が聞こえた。

 一瞬で真っ白になった視界から、最初に見えたのは、四散したはずのフックの骸骨顔だ。

 フックは片膝をつき、俺を喉輪で押し絞めてくる。


 それは骸骨ではない、確かな肉の感触──


 右手だけ肉がある──


 そうか、あの違和感は──


「くそっ……お前……悪魔……」


 そう、フックを操っていたのは死霊などではなく、マーフィー君の右手……魔族だったのだ。

フックの名前をロジャーとか間違えたり…集中力のなさを反省しつつ、ちょこちょこ修正してます。


【今回の注釈】

・数え五斬………「ひとつ、ふたつ…」と数えて放つのは「サムライスピリッツ」牙神幻十郎の必殺技「五光斬」より。花札と共に5回叩き斬る技で、花札で20点札5枚を集めた最高役「五光」がモチーフのようです

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