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鈴屋さんとザ・サード〈2〉

梅雨入りしそうです。

ブックマークは三歩進んで二歩下がるですが、じわじわ増えていて有難いです。

作品として楽しんでもらえるよう、また毎週を楽しみにしてもらえるよう執筆していきたいですね。

文量問わずコンスタントにアップしていけるようがんばります。

てな訳で今週も少なめですが、楽しんでもらえれば幸いです。

 頭上にある真っ赤な満月と、眼下で賑わう大通りに目をやりながら、ちびりとエール酒に口をつける。

 碧の月亭の屋根の上は、いうなれば俺にとって絶対不可侵なテリトリーだ。

 喧騒から距離を置き、月明りを肴にゆっくりと酒を飲む。それは俺にとって数少ない楽しみでもある。

 それが、だ……どうしてこうなった。


「だから鈴ちゃんはさぁ~、そうやってすぐにアークを巻き込むのやめなよ〜」

「私は好きで絡まれたんじゃないもん。変なのが勝手によってきただけもん」

「それにしても、鈴屋はアーク殿に頼りすぎです」


 俺の後方は、すっかり女子会の会場となっている。

 背中越しで聞こえてくる黄色い声に、俺はバレないよう小さなため息をついた。


「私だって今回は、自分でなんとかしようとしたよ。ねぇ、あー君?」


 口をとがらせながらカシスジュースをぶくぶくする鈴屋さんに、俺は顔だけ向けると適当に首を縦に振った。


「アーク殿は甘いんです」


 不満気な表情でセロリにかじりつくハチ子に、無言のまま視線を移す。

 そして、澄んだ黒い瞳と目が合う。


 ……やはりここは、ハチ子に聞くべきか……


「ハチ子さん、ちょっといい?」


 手をひらひらとして、ハチ子を呼ぶ。

 ハチ子は自分だけ呼ばれたことがよほど意外だったのか、セロリを咥えたまま目を丸くして固まってしまった。


「あー君……?」

「えっ、いや、他意はないんだけど……これからくる相手のことでアドバイスを……」

「にしても、なんでハチ子なわけ?」

「なんですか、その集団お見合い番組のような反応は……他意はないんだって。ゼクスについて、ちょっと聞いておきたいことがあるだけで」


 不満を漏らす2人の声でハチ子が我に返り、顔を赤くしながら勢いよく立ち上がる。

 そして意味深な笑みを2人に投げかけてから、俺の隣に駆けよってきた。

 ちなみにいつもの色っぽい服ではなく、仕事着なのが少々残念だ。


「アーク殿、お呼びですか?」

「うん。ハチ子さん、ゼクスって名前聞いたことある?」

「先程、鈴屋から聞きましたが……」


 流石に知らないといった表情だ。


「はっきりそうだとは言えないんだが……瞬時に背後に移動する動きをされてね。あれは“影渡り”を使ったとしか思えないんだ」


 ハチ子が口元を手で覆い、考える素振りを見せる。

 やがて鋭い眼光を向けて、言葉を選び始めた。


「もしも、アーク殿の言う通り“影渡り”を使っていたとするのなら、相手は間違いなくアサシン教団で3位内にいる人物となります。ただ、私達は直接顔を合わせることがないのです」


 そうなのか、と再び考えを巡らせる。そうなると、セブンとの出会いについて聞いてみたいものだが、今はよしておこう。


 ……3位内……と、そこでひとつの疑問が浮かび上がった。


「たとえばさ、もと3位内にいて、引退したとか……順位を落としたとかだと、どうなるの?」

「使えませんね。“影渡り”を使うには、魔法の道具が必要なんです」

「え? スキル的な……能力みたいなものじゃないの?」

「アーク殿、普通の人間にはそんな真似できませんよ」


 ハチ子がクスクスと笑い、胸元から何かを取り出す。

 首から紐でかけられたそれは、メダル状で象牙のような質感をしていた。

 よく見ると、龍のようなものが彫り込まれている。


「これがアサシン教団で、3位内に配られる“九龍牌”という魔法の道具です」

「へぇ~、それがあれば“影渡り”が使えるの?」


 ハチ子が笑顔で頷く。

 なるほど……種を明かせばなんのことはない、魔法の道具なんだな。

 ただ、俺のテレポートダガーみたいに、使いこなせるかどうかというスキルも重要なんだろうけど。


 ……って……おいっ!


「なんでハチ子さんが、それ持ってるのっ!?」


 思わず驚きの声を上げると、ハチ子はやっと気づいてれましたかと苦笑する。


「私、アーク殿の力になりたくて頑張って2位になったんです。不殺で2位は前例がないんですよ」


 その一途さに、思わず胸が熱くなる。


「あ、でも名前はハチ子のままでいいですよ。気に入ってますので」


 俺は無言でハチ子の頭を撫でた。

 にゃはは~っと、まるで犬のように喜ぶハチ子に対し背後から批判の声も聞こえてくるが、これを褒めずにいられようか。


「すまない……本当にありがとうな」

「いいんですよ、アーク殿。で、そのサードが本当に3位だとしたら、それがどれほどの強敵か……アーク殿ならわかりますよね?」

「うん、もちろんだ。セブンもハチ子さんも俺よりよっぽど強いし、フェリシモの姉さんに至っては、強すぎて底が見えないからな」

「アーク殿が、その3人を退けたのも事実なんですけどね。アサシン教団でも、そんな前例はありません。もぅ少し胸を張ってもいいと思うのですが……」


 しかし俺は、黙って首を横に振る。

 あんなものは奇襲・奇抜・ハッタリ戦法だ。とても実力で勝ったなんて言えない。


「アーク殿がどんなに否定しても、ハチ子はアーク殿の強さを知っています。その上で、もしもサードが3位だとしたら……ひとつだけ、アーク殿が必勝できる方法があります」

「必勝……?」


 ハチ子は俺の問いに対し、自信ありげに頷いた。


「はい、アーク殿なら、必ず、勝てます!」

【今回の注釈】

・集団お見合い番組のような………バチェラーとかテラスハウスとかです。自分はとても好きになれませんが、ああいうの好きな女性は多いですね



ハチ子さん、昇進おめでとうございます。

実は結構前から2位になっています。作中でも影渡りを使ったっぽい動きを入れてありました。

(もちろん出会った頃は8位です)

ちなみに影渡りは、魔法装備の“九龍牌”を装備することで解放されるスキルということになっています。

アークたちにはスキル解放の認識が難しく、この魔法の道具の力で飛んでいると思っているようです。

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