【サイドストーリー】鈴屋さんと、アニス・リット!(5)
アニスが依頼してきた素材は、崖下と山の中腹で揃う。
崖下ってのは、俺が崖から落ちた時にハチ子に支えてもらいながら歩いた、崖沿いの道のことだ。
中腹への道も同様で、ハチ子に支えられながら登ったあの道だ。
今となってはなんとも懐かしくもあり、ちょっとしたトラウマでもある。
「今日はハチ子もいないし、気をつけないとな」
「うん? なに? 別の女の話?」
「のわぁ、違う違う!」
声に出てたらしい。
あぁ、アニスがメモをとり始めてる。
なんだこれ、鈴屋さんとかに見られたくないことまでメモられそうで怖い。
「ハチ子さんは……なんていうか、たまに助けてくれるストーカー的な……」
「つきまとわれてるってこと? それは、惚れられてるってことじゃなく?」
「惚れ……られてるとは思えないんだよなぁ。揶揄ってるんだと思うよ、今のアニスみたいに」
「ボクは揶揄ってないよ? アークさんなら、少しくらい触られてもいいと思ってるし」
真顔で言うのが怖い。
そういうのを、揶揄っているって言うのだ。
鈴屋さんとは違う手法すぎて、俺はどう返せばいいのか、わからないんだぞ。
「でもアークさんは、その人のことを信頼してる感じだね」
「ハチ子さん? そうだな……俺がピンチになると、助けてくれるしな」
そう、いつもどこからともなく現れて……まさか、今日はいないよな?
「どうしたんですか、アークさん。キョロキョロして」
「あぁ、いや……それよりも、ほら。あそこの植物。あれ、目的の素材のうちの一つだぜ」
俺が指をさした方向に、アニスが視線をうつす。
「ああいった大きな木に寄生する、ビョーダンっていう植物だ。周りに巨木がないと生育できないから、レーナでは自生しないんだ。まぁ〜だから高いし、そもそも需要が少なすぎて、ほとんど売ってないんだ」
「おぉ、なるほど〜。さすがは、アークさん。ボク一人じゃ、見つけられなかったよ」
「知ってれば、なんて事は無いだろ? 茎と葉と根、全部とってな」
「うん、わかった」
言われた通りに採取するアニスを確認し、次の素材もすぐに見つける。
「あの崖に張り付いてる赤い苔。アレも、そうだ」
「おー、アカミズゴケってやつだね!」
「そうそう。崖っつっても手の届くところだから安全だけど、やっぱりレーナには自生しないから、貴重なんだよな」
「なるほど!」
嬉しそうにアニスが崖下へと駆けていき、採取する。
なんかオンラインゲームで、新規のプレイヤーに採取場所を教えているような気分だ。
体験すること全てに目を輝かせる様は、初々しくて可愛いく感じる。
可愛いお姉さんって、これほどの破壊力なのか。
同じ大人の女性でも、フェリシモのねぇさんとは全く別の属性だな。
「楽しそうだな〜」
「楽しいよ! ボク、こんな所まで来たことないしね」
「そうか。まぁ〜冒険者でもない限り、来ないよな。あとは……中腹に生えてるトロクサ草だ。このまま休憩なしで、行ってもいいか?」
「うん、大丈夫!」
俺はメモをとりながらギュッと拳を握るアニスを見て、ゲームを始めたばかりの頃のことを思い出してしまうのだ。




