【サイドストーリー】鈴屋さんと、アニス・リット!(4)
ハーピーが生息する例の山までは、徒歩での移動となる。
山が近づくにつれて、俺とアニスの心の距離も近づいていき、徐々に打ち解けていた。
今では、すっかりタメ口だ。
まぁそうしてくれと、俺から頼んだんだけど。
「アークさんは、好みの女性とかいる? 見た目とか」
どうやら、これが普段の話し方らしい。
俺の中での偏ったイメージとしては、ちょっと格好いいお姉さん的口調だ。
「いや、特には。あんまりそういうの、考えたことないんだよな」
「じゃあ、可愛い系とか、綺麗系とか、エロい系とか……」
「エロい系て。うぅん……たぶん、なんでも好きだけど」
「なるほど。つまり、女好きってことね!」
「いや言い方! まぁ否定はしないですけど。そういう決まった“この属性が好み”みたいなのは、ないかなぁ」
「属性……なるほど。こういったカテゴリー分けを、男の子は属性っていうんだね」
「あぁっと……俺の故郷では、フェチとか属性っていうな」
アニスは興味深そうに何度も頷きながら、ペンを取り出してメモを取り始める。
「属性でいうなら、アニスの一人称も、立派な属性だぜ?」
「ボクの?」
「そうそれ。“ボク”って一人称を女の子が使うと、“僕っ娘”っていう属性になるらしい」
「えぇっ、こんなことにも属性とかあるの?」
「結構好みが分かれるやつだが、“僕っ娘”って好きなやつは好きらしいぜ?」
「へぇ〜。そんなところで、女の子への好みが生まれたりするんだ」
そしてまた、メモを取る。
俺としては、アニス嬢の個性もさることながら、やたらとメモを取るところが一番気になってたりする。
「ちなみに、ボクの“ボク”は、アークさん的にはどうなの?」
すっごい、直球で聞いてくるな。
黒髪ショートヘアの綺麗なお姉さんが、自分のことを“ボク”である。
俺がというより、男装の麗人好きな女性に大きな需要がありそうだが……
「なんていうか、変なギャップがあって悪くないな……とか思いますけども」
「おぉ、ボクって悪くないのか」
嬉しそうに笑い、そしてまたメモを取る。
「格好はどう? 変じゃない?」
「んまぁ、似合ってるぜ」
「いやそこはもっと、性的な目で判定して?」
「性的て……」
アニスが両手を広げて、くるりと一回転する。
ぴっちり革鎧に太ももは丸出しでブーツ姿、黒髪のショートヘアがよく似合う綺麗なクール系のお姉さん。
これを判定しろと言われても、口にするのが恥ずかしい。
「うん。視線で理解できた。エロい目で見れるってことだよね?」
「俺、そんなに分かりやすく、エロい目で見てます?」
「露骨ではないけど、見てるよね。ちなみに、意外と見られてる側は、気づいているんもんなんだよ?」
「マジすか。は、反省して気をつけます」
「別にボクは、見られてもいいんだけどね。見て欲しいから、こうして足も出しているんだし」
え、なにそれ、見てもいいの?
それなら、いっぱい見るし!
いや、待て。
いくらなんでも普通に気持ち悪いし、ここは自重していかねばだ。
あと、この場に鈴屋さんがいなくてよかったと、心から思う。
このやり取りだけで、何回かサラマンダーに燃やされていただろう。
「やっぱり刺激的な格好が、一番効果的みたいだね」
「そりゃあ〜まぁ、はい。男の子には、ほぼ効果あると思います」
そして、またメモを取る。
さすがに、気になってきた。
「あのぅ、さっきから何をメモってるの?」
「あぁ、これ? 男の子が、女の子のどういったところに欲情してしまうのかを、言語化してるんだ」
なんのために……と聞きたいところだったが、聞けなかった。
なんとなく、これ以上踏み込めないと感じたのだ。
「やっぱり勉強になるなぁ、アークさんといると」
「俺には何が勉強になっているのか、さっぱり分からんですよ」
「レーナでは腕利の冒険者で、女性にモテるってもっぱらの噂だよ。意見としては、これ以上になく参考になるよ」
やはりよく分からないので、軽く首を傾げてしまう。
するとアニスがその艶やかな唇を、俺の耳元にすっと近づけてきた。
「それに……アークさんは、とってもボクの好みだよ」
アニスは破壊力抜群のセクシーヴォイスで、とんでもないことを囁いてきたのだ。
「な、な、な、な……?」
「ふふ、かぁわぁぃ」
美麗なボクっ娘属性のお姉さんを前に、俺は混乱するばかりだった。