【サイドストーリー】鈴屋さんと、アニス・リット!(3)
「どうですか、アークさん」
体のラインが分かるぴっちりとした革鎧に身を包んだアニスが、その場でくるりと一回転し、感想を求めてくる。
なんというか……女戦士特有の『鎧なのに太ももを露出』というのは、防御力的にどうなのだろうといつも思うのだ。
しかし彼女が俺に求めている答えは、防御力がどうとかではない。
似合っているのか、どうかなのだろう。
「あのぅ、アニスさん。正直、目のやり場に困るっス」
正直な答えである。
装備している小剣や小盾、硬めの革鎧、それらは至って普通の品だ。
ただ問題は、細身の体にぴったりフィットしすぎていることと、露出した太ももなのだ。
似合っているというよりも、まず目のやり場に困るとしか言えない。
「そ、そんな男の子みたいなこと言わないでくださいよ」
「いや、健康的で煩悩しかない男の子ですよ、俺は」
少し頬を朱に染めて、目線を逸らすアニス。
綺麗なお姉さんのそういった反応は、いわゆるギャップ萌えを生んでしまうので、俺にとっては毒そのものだ。
手を出していいのなら、それでもいい。
しかし実際は、我慢を強いられるのだ。
構図的には、鈴屋さんと同じである。
目の前に並べられた極上のステーキを、ただひたすら眺めることしか許されないという状況なわけだ。
「せめて、丈夫めな長パンツとか履いたほうが……」
「それでは、男の子みたいになってしまいます」
何故そこで女を出したいのか、俺には分からない。
というか、それくらいで男の子に見えたりはしないだろう。
それくらい、アニスは綺麗なお姉さんだ。
「私にとってこれは、怪我の危険よりも譲れないことなんです」
むぅ……そこまでの決意とこだわりがあるのなら、どうしようもない。
あとは何かあったら守るしかないと、俺が腹を括るのみだ。
「そうか。まぁ、山で素材を集めるだけだし、大丈夫か」
「はい、守っていただけると信じてます」
なにその「あー君、守ってよね」的なやつの、おしとやか版。
そんなことを言われたら、頑張るしかないだろうよ。
「うっし。じゃあ、ちゃちゃっと行くか」
「はい、お願いします!」
さらりと黒髪を揺らせながら笑顔を見せるアニスを見て俺は、己の煩悩こそが最大の敵になるかもしれないと、改めて思うのだった。




