【サイドストーリー】鈴屋さんと、アニス・リット!(2)
碧の月亭から外に出ると、アニスが振り向いて深々とお辞儀をしてきた。
「無理を言ってすみません、アークさん」
いや、あの、そんなに頭を下げると胸元が……なんてことは、もちろん言えない。
アニスは大人びているというか、普通にお姉様すぎて、ガキ丸出しな自分を見せるのが恥ずかしいのだ。
背伸びをする必要はないのだが、こういった大人の女性に対する接し方がわからないのである。
「それで、その……助けられた身でこんなことを頼むのも何なのですが……アークさんにしか頼める人がいなくて……」
「頼み?」
なんと……お礼で呼び出されたのではなく、個人的に依頼をしかったのか。
これは、アレだな。
ゲームとかでよくある『救出イベを行うことにより、連鎖イベントが発生した!』的なやつだな。
「はい、アークさんの腕を見込んで、素材の採取を手伝って欲しいのです」
素材採取とは、また平和なクエだな。
ゲームだと採取イベは大体が地味で面倒臭い、ソロ向けの暇つぶしクエが多い。
つまり、相手が俺である必要はないのだが。
「素材って、なに?」
「えぇっとですね……ここに行けば、全部揃うんですが……」
アニスが、小さく折り畳んだ羊皮紙を取り出す。
羊皮紙には地図と、素材の採取できる場所が書かれていた。
どうやらそこは、レーナから近い山のようだ。
というか、俺はその場所をよく知っている。
そうだ。
崖の中腹にあるハーピーの卵を取るクエストで、俺が崖から落ちた山だ。
「あぁ〜まぁ確かに、普通の人にはちょっと危ないな。でもそれなら、普通にギルドで依頼をすればいいと思うんだけど」
「いえ、その……誰にも知られたくないというか……」
なぜかアニスが視線を逸らして、頬を上気させる。
おぉっと、クールなお姉様の恥じらう顔なんて、すげぇ破壊力ですよ。
まぁいいところのお嬢様っぽいし、身内にバレたくない的なやつか。
どうせ美容関連だろうし、深く突っ込まないでおいてあげるべきだろう。
素材の内容も、高価で貴重な物ばかりだ。
しかし、なんだな。
この素材の種類、どこかで見たことがあるような気がするんだが……なんだっけな。
「あの……」
俺が考え込んでいると、アニスが不安そうなに覗き込んできた。
近くで見るとさらに綺麗で、美人で、大人のお姉様だ。
俺じゃなくても、語彙力を喪失してしまうだろう。
「あぁ、うん、いいよ」
鈴屋さんには、手伝ってこいと言われたようなもんだしな。
非公式な依頼として、個人的に受ける方が良さそうだ。
「でもその前に……さすがにその格好では危ないから、装備を整えてからいこう」
俺はそう言って、アニスを防具屋へと連れて行き、そのあと山へと向かうことにしたのだ。




