【アフターストーリー】鈴屋さんと、ときめき☆七夢さん!
「七夢さんの初の彼氏って、乱歩さんなの?」
串に刺さった肉を片手に持ったまま、彩羽が大袈裟に驚く。
彩羽は相変わらず人の恋バナが大好物なようで、興味津々のご様子だ。
ここは現実世界の人工海岸……前に寅虎と来たところだ。
今日はここで、バーベキューなるものを行なっていた。
ちなみにメンツは俺、ハチ子、彩羽、ラフレシア、七夢さん、乱歩だ。
恋バナに花を咲かせているのは七夢さんと彩羽の二人で、その傍で乱歩が惚気に付き合わされている感じだ。
ちなみにラフレシアは、一心不乱に肉を焼いている。
ぱっと見は陽キャの世界だが、圧倒的モブ感のある俺は、端っこで大人しく座っていた。
もちろん、ちゃんとハチ子も隣にいる。
忍者とアサシンらしく、少し離れて静かに場の空気を楽しんでいるのだ。
「そーなのよー。若い時は勉強ばかりしてたし、その後は仕事ばかりで、忙しくてさー!」
こうして眺めていると七夢さんんは見た目こそ大人だが、中身はまんま南無子だ。
恋愛に関しては、こっちが気恥ずかしくなるほどの初々しさが溢れ出ている。
「ちなみに乱歩も、そうだもんねー」
「僕は勉強と、ゲームしかしてこなかったからね」
しかし、すげぇ……堂々と惚気てる。
それを餌にできる、彩羽も彩羽だが。
「ちなみにハチ子の初恋の相手は、アーク殿です」
「なに? みんなの前で、惚気たくなった?」
俺が笑うと、ハチ子もクスクスと笑う。
まぁ七夢さんには、惚気る権利があると思うのだ。
何せ両親がいなくなった彩羽の面倒を見ながら、俺たちを救うために人生の貴重な時間を捧げ続けたんだからな。
だから彩羽も、あんなに嬉しそうに話を聞いているんだろう。
「あぁ、でも〜ひとりだけ、ちょっと素敵な人はいたかも」
「えぇ、誰それ!」
さらに興味津々な、彩羽さん。
一方の乱歩は初耳なのか、へぇ……といった表情だ。
「なぁに、妬かないでよ〜?」
「少しは妬けるさ」
おぉ、ストレートに言った。
そういうクールキャラにギャップを出すところ、イケメンだなぁ。
そして、しっかり顔を真っ赤にする七夢さん。
お似合いである。
「まぁでも、その人は泡沫の夢だからね。それって、言ってしまえば恋愛ゲームみたいなものだしぃ、ノーカンよね」
「泡沫……レーナの住人なのかい?」
「そうそう。アークの紹介で、ちょっとだけデートしたのよ。八兵衛さんっていうんだけど……」
ピキンと固まる彩羽、俺、そしてハチ子の三人。
「優しくて、紳士的で、気配りのできた……ちょっと、いい人だったの」
まるで、いい恋愛でもしたかのように語る七夢さん。
そういえば南無子には、八兵衛がハチ子だということを最後まで教えていなかった。
「結局、その後見なくなったんだけどね〜。どこかに旅に出たのかなぁ? あ、でもちゃんと交際はお断りしたし、私は乱歩だけだからぁ」
そう言って、乱歩に抱きつく七夢さん。
そんな七夢さんを目の前に、彩羽は口の端をヒクヒクとさせていた。
「アーク殿……どうしましょう」
「言えねぇ、今さら言えねぇ」
あの感じ、いろんな人にドヤ顔で話してそうだ。
それが我が嫁、ハチ子の変身した姿だったなんて、今さら言えるわけがない。
「このことは墓まで持って行きましょう、アーク殿」
真剣な眼差しを向けるハチ子に、俺は深く頷くのだ。
教訓……言わぬが花は、時に正義である。
 




