【サイドストーリー】鈴屋さんと、ときめき☆南無子(3)
「お会いできてよかった、南無子殿」
八兵衛の言葉に、南無子が意外そうな表情を返す。
「私のこと、以前から知っているんですか?」
あまりに聞きなれない喋り方なので、聞いている俺の方が赤面してしまいそうだ。
ちゃんと女の子なんだなぁ……と、謎に感心してしまう。
しかし、いきなり知っている感じなのは不味くないか、八兵衛=ハチ子さん。
「あぁ、いや、アーク殿によく聞かされていたのだ!」
なんだ、その慌てっぷり。
うっかり八兵衛め。
「アークにねぇ……」
俺に関してだけ、口調が辛辣。
それでこそ、いつもの南無子のようで安心する。
「柳生 八兵衛さんのお名前……珍しいのに、どこかで聞いたことがあるような気がして……」
「某は、東方生まれなのだ。向こうで名のある剣豪と、よく似た名前だから聞き覚えがあるのかもしれないな」
よしよし、教えた通りに話しているぞ。
ちなみに侍としての設定や知識、喋り方も含めて俺プロデュースである。
ハチ子さんには、徹底的に侍を演じてもらおう。
「東方……確かに斑鳩には侍職があったはずだけど、なんでレーナに……」
「何か申したか?」
「あぁ……いえ、なんでもありません。すぐに考えごとをしてしまうのは、私の悪い癖で……」
「ふむ。十五歳の元気な女の子と聞いていたのだが、存外思慮深いのだな。むしろ、大人っぽくすら見える」
南無子が、目を丸くする。
それ、肯定してるようなもんなのだが。
南無子はおてんばだが、大人っぽいところがある。
それは俺も、よく感じていることだった。
「やだもー、八兵衛さんたら。内面から溢れ出る色気が、そう感じさせるのかしら」
「いや、色気ではないのだが」
「うっ……そうデスカ」
八兵衛、素直すぎる。
ちょっと落ち込む南無子が面白い。
「南無子殿は、アーク殿のことをどうお思いか?」
「へ? アーク? なんで?」
「いや、親しそうなのでな。どう思っているのか、以前から気になっていたのだ」
「どうって……アホ?」
思わず吹き出す八兵衛。
俺は俺で「あの野郎!」と物を投げつけたくなったが、鈴屋さんに止められてしまった。
ちなみに鈴屋さんは、終始興味深そうにしている。
「そうか、二人に恋愛感情はないのだな! よかった!」
「よかった……の? 変な人」
南無子も笑顔をこぼす。
ヤキモチを妬かれたと思ったらしく、満更でもないといった表情だ。
「きゃー南無っち、ヤキモチ妬かれたと思って、満更でもなさそーにしてるー! かわいー!」
同じことを、考えていたらしい。
思っていた以上に、楽しんでいらっしゃる。
「八兵衛さんは、アークと仲良いの?」
「うむ、好きだ」
「へぇ〜そうなん……へ? 好き?」
「いや、友として、友としてだ!」
「あぁ……うん、そうよね」
うっかりしすぎだろう、八兵衛。
鈴屋さんが、めっちゃ半目で見てくるんですが!
「いいなぁ、そういう親友同士ってやつ。友達を好きって、ハッキリ言える関係性とか」
「うむ、尊敬している……とても好きだ、友として。某にとって本当に大事な人で、つまり好きなのだ……友として。いいな、堂々と言えるのは。某は好きなのだ……友として」
「うへぇ……」
八兵衛さん……南無子が引いております。
あと俺に、いらぬ誤解が生じます。
とにかく落ち着いてくだせぇ。
鈴屋さんが俺だけシルフの力を解いて、落下死させようとしてるんで怖いんス。
「そのアーク殿の友であり仲間である南無子殿と、こうして話せて某は嬉しいのだ。素敵な女性に出会えて、感謝しているのだ」
「そ……そう。それはどうも……ありがとう」
イケメンに真っ直ぐ言われて、少し顔を赤くする南無子。
どうやら南無子は、直球に弱いらしい。
「ああいった恋愛下手なところは、年相応に見えるのな」
俺がニヤニヤして呟くと、鈴屋さんが俺の頬に指先でグリグリしてきた。
「南無っちは色々あって、恋愛とかする時間がないの。私なんかより、よっぽど幸せになってほしいもん」
「私なんかよりって……南無子はいつも、楽しそうにして見えるけどなぁ」
しかし鈴屋さんは、黙ったまま俺の頬をグリグリしてくるだけだった。
 




