【サイドストーリー】鈴屋さんと、ときめき☆南無子(2)
南無子の気晴らしデート作戦、その当日。
俺は鈴屋さんの召喚したシルフの力で、空中から待ち合わせ場所である広場を観察していた。
もちろん、鈴屋さんも一緒だ。
「南無子のやつ、しっかりお洒落してきたな。清楚系か、あれは」
丈の長い真っ白なワンピースを着た南無子を見て、思わず笑ってしまう。
すると鈴屋さんが、俺の頬を思い切りつねってきた。
「いたい、いたいって」
「あー君、失礼すぎ。南無っちだって女の子なんだから、当たり前でしょ?」
「いやだってさ、いつもとギャップが」
「南無っちが、あー君相手に清楚で可愛いを見せてどうするの?」
「う……それは中々にトゲがありますね、鈴屋さん」
「南無っちは誰が来るか分からなくても、最低限の礼儀として綺麗にしてきてるんだよ?」
「そうなのか……大人な考え方だなぁ。南無子って、そういうとこあるよな」
しかし鈴屋さんは、無言のまま目を細めてくるだけだ。
ちょっと、失礼すぎたのかもしれない。
鈴屋さんと南無子って、親友同士だしな。
「それで相手って、どんな人なの?」
「あぁ、もう来るんじゃないかな。もしかしたら、もういるのかも」
「もういるって……なぁに、そのホラー」
いやでも、あの人はいつも神出鬼没なのだ……って、ほら……
「噂をすれば……南無子の後ろに、もう来てるぜ」
「えぇ、どれドレどれ!」
メッチャ興味あるらしい。
鈴屋さんは、他人の恋愛とか好きなタイプだな。
「ほら、あの……黒い着物のイケメン」
俺が指をさした方向には、黒くて長い髪を後ろに束ねた、侍風の美男子が立っていた。
「すまない、お待たせした。南無子殿で、よろしかったか?」
南無子が振り向く。
そして、少し驚いた表情を浮かべた。
見た目は、黒髪のイケメン侍だからな。
ちなみにあの侍っぽい服は、俺が用意したものだ。
「は、はい。えっと、お名前を伺っても?」
「某は、柳生 八兵衛と申す」
「八兵衛さん? 変わったお名前ですね」
「よく言われる。さぁ、南無子殿。さっそく行こうか」
そう言って、手を差し伸べる八兵衛。
南無子は、そのさりげないエスコートに、思わず手を置いてしまう。
少し頬も赤い。
いきなり手を握られて、恥ずかしいのだろう。
でも恥ずかしいってことは、嫌という訳ではないようだ。
鈴屋さんも目を乙女のように輝かせながら、その様子を眺めていた。
しかしすぐに、目を細めてイケメン侍を注視する。
そして……
「八兵衛……はち……もしかして、ハチ子さん?」
「おぉ、すごっ! よく分かったな!」
「あー君のセンスのなさが濃すぎて、バレバレなんですけど。ハチ子さんに、“七方出の丸薬”使ったの?」
「おう、まさか秒でバレるとは思わなかったけど」
「あー君の考えることだし、私は分かるけど〜。南無っちは鈍感だから、分かんないかも」
俺のことは分かるって話、詳しく聞きたい。
なんか、愛を感じる。
「じゃあ俺たちは神の視点で、二人を見守ろうぜ」
「も〜、悪趣味なんから〜。も〜、しょうがないなぁ〜。ほんとに、もう〜」
鈴屋さん。
言葉とは裏腹に、乙女全開で恋愛ショーを楽しもうとしてますね、俺には分かります。
とにかくこうして、二人のデートは始まった。




