【サイドストーリー】鈴屋さんと、ときめき☆南無子(1)
時期としては「鈴屋さんと遺跡探索っ!」の前になります。
ここは、早朝の南無子邸。
自宅でありながら鍜治工房とパン工房がある、ハイブリッドな工房だ。
「お〜い、南無子。五右衛門風呂のメンテ終わったぜ〜?」
話しかけながら工房に入ると、そこには絶対領域の可憐なツインテールが、焼きたてパンを持って立っていた。
「ありがと〜早いじゃん。パン食べる?」
「おぅ、サンキュー」
俺はパンと牛乳を受け取り、ダイニングテーブルに持っていく。
早朝の労働に対する、喫茶店のモーニング的な対価だ。
朝から非常に、気持ちがいい。
「どう? 眼帯には慣れてきた?」
「まぁ、戦闘でも支障がないくらいには慣れたかな」
「そう……なら、いいんだけど」
毎度心配はしてくれるのだが、毎度返事が素っ気ない。
どうやらプリーストとして完治できなかったことに、責任を感じているようだ。
そもそも俺の左目は冒険中に怪我をしただけで、南無子に責任があるわけないんだがな。
そういったバカみたいに真面目なところは、可愛らしくもある。
本当に心から幸せになってほしいと、願わずにはいられない。
「俺のことなんて心配せんでいいから、女の子らしく恋愛でもしたらどうよ」
「何よ、それ。行き遅れを心配して、余計な縁談もってくる親みたいなんだけど?」
「いやいや、そんな年齢じゃないだろ」
自称十五歳らしからぬ台詞に、思わず大笑いをしてしまう。
すると南無子が、半目で睨み返してきた。
「私だって、恋愛とかしたいわよ! でも、色々と忙しいの!」
「もの凄い、心の叫びだな。そんなに怒んなって」
「じゃあ何かしら? いい男でも、紹介してくれるのかしら?」
「いい男〜?」
思わず唸ってしまう。
いい男……誰だ?
ラスターは……やな奴だし、何よりシスコンだ。
ワー・ラットは知り合いが多いが……駄目だよなぁ、やっぱり。
グレイは……なんかやだな、俺的に。
セブンは……あの朴念仁が、恋愛とか興味あるわけねぇ。
「冗談よ……まぁ、一日くらい羽を伸ばせるような、デートっぽい事とかしてみたいけどね〜」
「一日だけの、なんちゃってデートとかでいいのか?」
「そういうの、あとくされなくて、いいじゃない?」
ほほぅ。
それなら俺に、ひとつだけ策があるぞ。
「オッケー。じゃあ、一人紹介してやるよ」
「へ?」
「大丈夫。イケメンで、紳士で大人っぽい奴な。それも一回限りのデートで、エッチなこともしてこない安全な相手だ。どうよ?」
「ま……まぁ、そんな都合のいい人がいるのなら……」
「よし。じゃあ待ち合わせ場所は、追って知らせるぜ」
「え……えぇ。うん」
若干戸惑う南無子に、安心しろと親指を立てて返す。
そして俺はさっそく、その相手にアポをとりに行ったのだった。




