表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
491/504

【アフターストーリー】虎・虎・虎!(5)

「海といえばだ!」


 寅虎がサングラスを弄りながら、フンスッと鼻息を荒くする。

 たぶんサングラスがAR端末になっていて、何かを検索していたのだろう。


「コレを塗るらしいぞ!」


 寅虎がにょ〜んと腕を伸ばして、小さなボトルを天に掲げた。

 グリーンのボトルには、何かヌメッとした液体が入っているように見える。


「なにそれ?」

「ここは、日焼けをするエリアらしくてな。これを体に塗ると、日焼けを抑えられるらしいのだ!」

「あぁ〜、日焼け止めか。寅虎、肌白いもんな〜」

「小麦色の肌というものに憧れがあるのだが、私の肌はそれほど強くなくてな」

「へぇ〜意外だな。シメオネなんて、思いっきり小麦色だったのにな」

「だから、憧れていると言っただろう。仮想世界でなら、それが気軽に叶うからな」


 なるほど。

 仮想世界でなりたい自分になるというのは、至極当たり前の考え方だ。

 そうなると寅虎は、もっと背が低くて小麦色の肌をした、元気な女の子になりたかったということになる。


「これでも小さい頃は、病弱だったのだ。今はすっかり元気になったが、肌が弱いのはどうにもならなくてな」

「そうか。まぁ寅虎は肌がすごく綺麗だし、塗った方がいいだろうな」

「ふぉぉ……」


 両手で顔を隠して悶える寅虎。

 相変わらず、羞恥心の沸点が謎である。


「塗るなら、早く塗ったほうが……」

「おぉ、そうだった!」


 寅虎がボトルを俺に渡すと、仰向けで横たわる。


「さぁ、やってくれ」

「えぇ? 俺が塗るの?」

「当たり前だろう。デートなんだぞ?」

「ぐっ……それを言われると……」


 しっかりとデートするぞと言っておいて、この申し出を断る訳にもいかない。

 仕方なく両手に、ヌルヌルとした日焼け止めを出す。

 ちなみに寅虎はというと、しっかり俺の目を見たままじっと待っていた。

 まるで覚悟を決めた、まな板の上の鯉のようだ。


「あの、せめて背中にしない?」

「何故だ?」

「いや、だってよ……表面は胸とか……色々際どいし……俺が恥ずかしい」

「むぅ。仕方ない」


 寅虎が渋々ごろんと転がり、うつ伏せになる。

 俺としては、どうして仰向け状態で身体中触られることが恥ずかしくないのか、聞きたいところだ。


「じゃあ、いくぞ?」

「どんと来い!」

「なんだ、その表現は……」


 ため息混じりで、背中に手を当てる。

 そして、ゆっくり手を動かし……


「くっ……くくっ、くっ」

「くすぐったいなら、やめようか?」

「いや、続けてくれ。くっ……くふっ……これも、修行……だっ……はっ」

「なんの修行だよ」


 呆れながら続けると、目の前で真っ白で綺麗な背中が、何度もビクビクとよじれる。

 いやいや……これ、俺も結構な修行なんだが。

 俺だって男だ。

 無心かつ冷静に、こんなことを続けてられないぞ。

 とりあえず、少しでも気を紛らわせるために目だけは逸らしておこう。


 そう思い少し遠くを見てみると、海の家と書かれたテントが見えた。

 どうやら、出店になっているらしい。

 焼きそば、カレー、ラーメンと謎のジャンルでメニューが展開されている。

 その中に、やたら客が殺到している店があった。

 何だろうと、目を細めて注視してみる。


「いらっしゃいませぇ〜♪」

「ラーメンいかがッスか〜?」


 ほぅほぅ。

 なるほど、そういうことな。

 どうやら店員が水着の女の子で、彼女たちを目的に列ができているようだ。

 たしかに二人とも、スタイル抜群の……美人……?


 ……うぉい。


 アレ、彩羽とラフレシアじゃないか。


 これは偶然か?


 いや、偶然じゃないな。


 二人とも、思いっきり目が合った。


 完全に監視に来ている。


 ってことは、この状況をハチ子に聞いたか。


「おい、秋景くん。先ほどから、背中ばかり撫で回しているぞ」

「ちょっ、言い方!」


 あまりの展開に、俺の脳内は軽くパニックだ。

 とにかく今は、寅虎に集中だ。

 次は寅虎の太ももに手を伸ばそうとする。

 すると彩羽の目が、すぅと細まっていった。

 久々に感じる「鈴屋圧」だ。


「どうした?」

「いや、あとは自分で塗れるだろ? それより、俺の背中にも塗ってくれよ」

「ふむ。確かにお互い塗り合った方が、恋人同士っぽいな」


 ナイス機転だ、俺!

 これなら文句もないだろうと、急いで寅虎に背を向けて座る。

 最初から、こうすればよかったのだ。


「では、行くぞ?」

「おぅ、どんと来い」


 むにゅ。


 むにゅ、ヌルヌル。


 うん、なんだこの感触?


 いや、これ……


「寅虎、なにで塗ってんだ」

「おっぱいだが?」

「うぉっ、バカか、お前は!」

「恋人同士は、こうするんじゃないのか?」

「どこの間違った知識だよ、それ!」

「オイルを使ったプレイ集というものに、書いてあったのだが……間違いなのか?」

「完全に、そっち系のプレイじゃねぇか!」


 あと何故、これは恥ずかしくないのだとツッコミを入れつつ、視線を海の家へと向ける。

 そこには蔑んだ目で俺を見る、二人の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ