鈴屋さんとワイバーン!〈9〉
ワイバーン編9話目です。
次で終わりますと言いつつも、終われませんでした。
今度こそ、次で終わりです。
それではワンドリンク推奨、ウルトラライトにワイバーン編終盤をどうぞ。
楽しんでもらえれば幸いです。
「くそっ、話の流れ的にネヴィルさん、あんたは敵じゃないと考えていいんだなっ!?」
「私にそれを聞くか……何をもってして答えればいいのかによるが、少なくとも山頂で君たちに襲い掛かったワイバーン、それから君たちの言う盗品については私の知らない話だ」
ネヴィルはそう言いながら、得意の弓に持ち替えて黒い竜と、自らの山小屋“竜の爪痕”の間に立つ。
矢筈を弓の弦にかけてはいるが、弓を引かないのは何か理由があるのだろう。
ただ俺には、その理由を呑気に詮索をしている時間はなさそうだ。
「お父さんっ!?」
そう……さすがにこの騒ぎだ。レイシィも起きてしまったらしい。
いよいよ話がややこしくなってきた。
まず俺は何を守り、どう攻めればいいかを考えねばならない。
「お前は下がっていなさい!」
ネヴィルが、初めて声を荒げた。
そこでひとつの安心と確証が生まれる。
ネヴィルにとってレイシィを守ることが、何よりも最優先事項のようだ。
であれば、レイシィに対し脅威になりうる黒龍は、今のところ共通の敵という認識でいいのだろう。
それなら話は早い。なにせ、俺のいちばん大事なものも明確なのだ。
「鈴屋さん、レイシィをお願い!」
「……うん、わかった!」
視線の端で、水色の髪が揺れ動くのを確認する。
とりあえずレイシィと一緒に不調の鈴屋さんを、比較的安全な屋内へと移動させる。
あとは、目の前の黒竜を倒せばいい。
「ハチ子さんっ!」
「……ここに」
すっと、背後に人の気配が現れる。
ちらりと目をやると、月明りの下に凛とした佇まいをした女性が立っていた。
今や鈴屋さんと同じくらい信頼できるパートナーが、右手に抜き身のシミターを握ったまま俺の目を真っ直ぐと見つめ返している。
もしかして“影渡り”を使えるんじゃ……ふとそんな考えが頭によぎる。
「シメオネっ!」
「ここにいるにゃ、アークさみゃ!」
拳を天に掲げて元気に返事をする爆裂猫娘は、ラスターと黒龍の間に割って入り踊るようにステップを踏んでいる。
ひと目で分かる、キレッキレの動きがなんとも頼もしい。
「このメンバー、相手がワイバーン程度なら楽勝だったんだけどな。仕方ない、ドラゴン狩りといくか」
「あー君、あれは 下位ドラゴンだよ。魔法は使わないけど、ワイバーンより強敵なはずっ!」
「あぁ。でも、有難いことに中身は性悪な竜司祭だ。思う存分ぶっ飛ばせる!」
わざとらしくにやっと笑うと、黒龍が怒りの咆哮を上げる。
カカカっ……怒ってるねぇ、さすが中身はチンピラだ。
これは思っていたよりも、やりやすい。
「前衛は、シメオネと俺だ! ハチ子さんとラスターは、左右に別れて挟撃を!」
自らを高揚させて、鼓舞するように大きな声で叫ぶ。
そしてニンジャ刀を右手で抜いて、その刀身を2本の指でなぞった。
すると刀身がパリッと甲高い音を立てて、白い冷気が漏れ始める。
氷結のエンチャントだ。
さらに左手でテレポートダガーを逆手に持ち、黒竜との間合いを詰め始める。
「シメオネ、常に俺の近くにいろ!」
「いっ、一生了解にゃっ!」
「なんだ、その変な返事は……」
思わず突っ込みを入れつつ、マフラーを上げながらシメオネがついてくるのを確認する。
真っ直ぐ突き進む俺達へ向けて黒竜が牽制とばかりに爪を落としてくるが、俺はさらに加速をしてその攻撃をかいくぐる。
黒龍の攻撃は動きこそ鋭いが、如何せんヘイスト状態の俺に対して速さが足りない。
俺の後ろをぴったりとついてくるシメオネも、頻繁に構えをスイッチさせながら、踊るようにステップを踏んで回避していた。
さすがはファンタジー世界の住人、年末の総合格闘技にでも出れば圧倒的な強さで優勝をかっさらいそうだ。
「まずは一刺し!」
思わず耳に残っていたフレーズを口走りつつ、凍てつくニンジャ刀を突きつける。
しかしその攻撃は、鋼よりも強固な黒い鱗に弾かれてしまった。
「だよな……」
すかさず崩れた体制を立て直しながら、飛ぶようにして身を翻す。
間髪入れずシメオネが入れ替わって、錬気した右掌を黒龍に押し当てた。
そこは俺の攻撃により、わずかに凍結している鱗だ。
「はぁぁぁっ、破鎧・蒼天撃っ!」
刹那、ドンッと重い音を響かせて練られた気が爆発する。
そして見事に、黒龍の鱗を3枚ほど弾き飛ばした。
「やったにゃ、アークさみゃ!」
あぁ、と俺も思わず笑みをこぼす。
正直うまくいくとは思っていなかったが、これは痛快だ。
今のは気闘法の“破鎧功”と、忍術の氷結バフ“雪月華”の複合技だ。
破鎧功は鎧を破壊するための技だが、鉄以上の硬度となるとそう簡単には成功しない。
だが凍らせれば、あるいは鱗を剥がすことくらいはできるのでは、と考えたわけだ。
グゥォォオオオオオオッ! と、地響きも呼び起こす大きな咆哮に、俺の心中では「ざまぁみろ」しか浮かんでいない。
「来いよ、のろま野郎っ!」
黒竜の反撃をものともせず、俺とシメオネは息もつかせぬ連携で、次々と鱗を破壊していく。
たまらず、黒竜が大きく息を呑み込み始めた。
喉が大きく膨れ上がり、みるみると内側から真っ赤に染まっていく。
間違いない。
竜族のド定番にして最強の攻撃、ブレスだろう。
しかし、あらゆるゲームで見てきたモーションと同じなのだから内心で笑ってしまう。
現実世界のクリエイター達よ、誇っていいはずだ。
その想像力は、本物よりも先を行ってるぞ。
「シメオネ、来い!」
「了解にゃ!」
チャイナ服姿の猫娘が、俺の考えを汲み取ってか……もしくは、ただ俺を信じてくれているだけなのか、飛びつくようにして、首に両手を絡ませてくる。
俺はそのまま頭上に向けて、テレポートダガーを勢いよく投げつけた。
「トリガー!」
転移先は黒竜のはるか頭上だ。
すぐに落下運動が働き始め、俺の赤いマフラーが大きくはためき、シメオネの前髪が持ち上がっていく。
眼下では黒竜が強力なファイアーブレスを、誰もいない場所に向けて虚しく吐いていた。
そしてモーションの長いブレス中の隙をつくように、両サイドからハチ子とラスターが襲いかかる。
重く速いハチ子の蒼い剣閃が幾重にも翼を切り裂いていき、逆側ではラスターのサーベルが鱗の隙間を狙って次々と貫いていく。
どちらも精密な急所攻撃を得意とする2人なだけあって、隙だらけの敵に対しその長所が存分に発揮されていた。
これがゲームならコンボ数がものすごい速さで伸びっていって、体力ゲージをみるみると削っているところだろう。
「シメオネ、リベンジ……いくぞ」
俺がにやりと笑い、シメオネの腰に手を回す。
しかしシメオネには俺の合図など不要だったらしく、既に練気を始めていた。
今、黒竜は両翼の敵に注意を奪われている。
……あるいはそれが本物の竜ならば、野生の力でこちらの攻撃にも気づけたかもしれない。
だが、中身はただの人間だ。
山頂の時は、俺が不用意に声をかけたせいで、その言葉を理解してシメオネの攻撃を避けたのだろうが、今度はそうはいかない。
「今、必殺のっーー、超っ爆裂っ踵落としっ!」
気合一閃、シメオネが放った渾身の一撃は黒竜の脳天に直撃し、練りに練った気がシメオネの踵で爆発した。
まさに爆裂だ。
「徹しっ!」
さらにシメオネが気を込めると、今度はドンッと大きな音を立てて黒竜の頭がもの凄い勢いで地面に叩きつけられた。
シメオネはそれでも踵を放さず気を爆発させて、黒竜の頭を地面にめり込ませる。
断言しよう、相手が人なら確実に死んでいる。
「十分だ、散開するぞ!」
叫びながらダガーを投げて、シメオネを連れて転移する。
ハチ子とラスターも、しなやかな動きで距離をとっていた。
「や……やったかにゃ……」
シメオネが息を切らせて呟く。
「どう……かな?」
全員で動かない黒竜を注視する。
動くなよと念じてはみるが、その期待はすぐに外れてしまった。
一瞬の間をおいて、黒龍はパキパキと音を立てながら、ゆっくりと首を持ち上げていったのだ。
「……バケモノにゃ……」
全くもって同感だ。
レッサーとは言え、さすがはドラゴン。
ワイバーンなら、今ので絶命していただろう。
「アーク殿。もう一度、やりますか?」
いや……やるなら、違う手を考えなきゃだが……
『おおぉまらぁ、殺す!』
突如、黒龍が、しゃがれたような声で叫んだ。
『ネヴィルよぅ、それもこれもお前のせいだ! お前がレイリアを……いや、娘のレイシィでもよかったんだ。大人しく渡していれば、俺がこんな所で、こんなことに……』
怒りで発狂でもしたのか、泣き言を交えながら黒竜がさらに息を呑んでいく。
「馬鹿の一つ覚えにブレスかよ。そんなもの……」
来るとわかっていれば、テレポートダガーのある俺には通用しない。
そんな余裕が、わずかな油断を生んでいたのだろう。
黒龍の視線は、俺に向けられていなかった。
「ちょっと待て!」
黒竜の頭は、山小屋に向けられていた。
あそこには、レイシィと鈴屋さんがいる!
「やめろ!」
思わず叫んだが、それでハリスが止まるわけもない。
喉を膨らませながら、特大のブレスを吐こうと口を大きく開けていく。
俺は、考えるよりも先に駆け出していた。
どれほど無力でも、指をくわえてみているだけなんて俺にはできない。
山小屋の窓際に、鈴屋さんの姿が見えていた。
「鈴屋さんっ!」
俺は目の前の景色が霞んでしまうほどの速さで、そこまで一気に駆けると、刀とダガーをクロスさせて黒龍の方へと身体を向ける。
「……狂戦士の丸薬を使えば少しは持つ……鈴屋さんはその間に!」
「だめっ、あー君!」
ごめん、鈴屋さん、それは無理だ。
君が死ぬなら俺も一緒に……俺が死んで君が助かるなら、それは万々歳だ。
俺が丸薬を握り、そんな決死の覚悟をした瞬間だった。
突如現れた巨大な影が、一陣の突風とともに俺の目の前を駆け抜けていった。
その影は翼を大きく広げて、咆哮を上げながら黒竜の首元に噛みつく。
「ワイバーン……?」
何が起こったか理解できず、事の成り行きを見守ってしまう。
何処から現れたのか、黒竜よりも一回り小さいワイバーンが、勇敢にも格上の黒龍相手に噛みつき、爪を立てて、手負いの獣のように襲いかかっていた。
そこで俺はやっと理解した。
「そうか……やっぱりあんたも……」
そのワイバーンは、ネヴィルだった。
黒龍の攻撃対象が小屋へと変わったことにより、自らも戦う決意をしたのだろう。
ワイバーンは、何度も黒竜の鋭い爪をくらいながらも、尽きることのない闘争心で喉を噛み続け、遂にはその喉笛を食いちぎった。
そして禍々しい黒竜を崖へと突き飛ばした時、この戦闘は終わりを告げたのだ。
【今回の注釈】
・踊るようにステップを踏んで……全盛期の山本“KID”徳郁、特に魔裟斗戦のステップは凄かったなぁ
・徹し……骨法という武術の奥義です。マイナー過ぎますが、昔の格闘ゲームでは飢狼伝説のアンディが骨法使いでしたね。アンディと言えば残影拳(超高速肘鉄砲)なんですが、のちに様々な「徹し」系の技を使い始めてましたね




