表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
488/504

【アフターストーリー】虎・虎・虎!(2)

「はっはっはっ! 秋景君なら、私の正拳突きを受け止めてくれると思っていたぞ」

「めちゃくちゃクリーンヒットしたわ、馬鹿」


 ハート型のソファに座り、いまだに痛む腹を押さえる。

 ハチ子が心配そうに摩ってくれているので、痛みが和らいできている気がする。


「第一夫人の方、本で読んだぞ。たしか、ハチ子君だったかな? 私が、天常 寅虎だ」

「こちらでは一応、綾女と申します。あなたが、シメオネの元となったプレイヤーさんなのですか?」

「そうだ。レーナではAIに動かされていたようだが……私の分身であるシメオネは、強かっただろう?」

「はい。それから斑鳩では、妖魔将軍の『赤壁の竜土』を倒してくれましたよね」

「おっ、よく知っているな。アレは強かったぞー」


 分かりやすく、ドヤ顔を見せる寅虎。

 そういえば寅虎は、刀華の中身がハチ子だったことを知らないままだったな。

 逆にハチ子の方は、斑鳩で共闘したシメオネの中身が、寅虎だったことに気づいているようだ。

 おそらくフェリシモの発言から、推測したのだろう。


「まさか、あの可愛らしいシメオネ殿の中身が、こんな綺麗な方だったとは……驚きです」

「はっはっはっ! そうだろう、そうだろう。毎日欠かさず、鍛えているからな!」


 見た目だけクール美人が豪快に笑って、ムキっと腕の筋肉を見せてくる。

 ハチ子が言っているのはそういうことではなく、単純に外見のことを褒めているのだと思うのだが、訂正する気も起きない。

 何せ目の前にいるのは超絶美人モデルの外見をした、非常に残念な脳筋なのだ。

 まともに会話を成立させるだけでも大変だ。


「今日はラスター……弟さんは、いらっしゃらなかったんですか?」

龍竜(ろんりゅ)は、基本的に引きこもりだ。そう簡単に、部屋から出てこない」

「どうせレーナで、シメオネのAIを見張ってるんだろ?」


 しかし寅虎は、首を横に振って否定する。


「この間、セキュリティが上がっただろう? アレのせいで、今はあの世界に入れないらしいぞ」


 おぉ……ついに、龍竜クラスのハッカーも閉め出せたのか。

 といっても、ラフレシアは入れるんだろうけどな。


「それはそれとして、だ。秋景くん」

「うん?」

「結婚おめでとう」

「お、おぅ?」

「結婚しよう」

「お……はぁ?」


 突拍子もないことを言われて、思わず返す言葉を失う。


「前々から言ってあっただろう。第一夫人の座は譲るから、第二夫人にしてくれと」

「言ってはいたが、承諾した覚えはないぞ!」

「うん? 前にいた二人は、結婚してしまったのだろう? では、第二夫人は私でいいじゃないか?」


 あまりの謎理論に、口をパクパクとしてしまう。

 だめですー。

 この人頭おかしいですー。


「第一夫人の方は、どう思う?」

「私ですか? そうですね……」


 なぜか首を傾げて、考え始めるハチ子。

 考える余地があるのだろうか?


「寅虎殿は、アーク殿のことが好きなのですか?」

「好きだぞ?」

「ふむ……」


 またしても、考え込むハチ子。

 何を考えているのだろうと、俺と寅虎が答えを待つ。


「では一度、アーク殿とデートをしてください」

「へ?」


 間抜けな声をあげたのは、俺の方だった。

 ちなみに寅虎は、目をパチクリとさせている。


「アーク殿、いいですね?」


 ハチ子が人差し指を立てて、ずいっと近づいてくる。

 圧がすごい。

 断らせない気だ。


「え、いや……なんで?」

「これは、レーナでの私なのです、アーク殿。レーナで鈴屋は、私の気持ちに気づいても尚、私をアーク殿から遠ざけるようなことはしませんでした。なんなら、二人きりになる時間すら作ってくれました。私は、それに倣いたいのです」

「いや……いやいやいや、それは」

「アーク殿」


 ハチ子が、スッと俺の耳元に唇を寄せてくる。


「私を好きでいてくれるのなら、しっかりと断ってください。もう鈴屋のように……相手にそんなことをさせないように……ご自分で、です」


 それを言われてしまうと、反論できるはずもなかった。

 俺は彩羽を傷つけたくないが故に彼女を選ぼうとし、結果的に大きく傷つけてしまった。

 俺の気持ちに俺よりも気づいていた彩羽が、俺とハチ子のために自らを傷つけてまで、俺を“ふってくれた”んだ。

 ああさせたのは、俺の落ち度だ。


「ただし、相手の気持ちをしっかりと受け止めてからです。レーナでアーク殿がハチ子の気持ちを汲んでくれたように……そうすれば、納得できるはずです」


 ハチ子の熱い思いに、俺は覚悟を決めて頷くのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ