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鈴屋さんとワイバーン!〈8〉

ワイバーン編8話目です。

たぶん次で終わります。

ちょうど多忙な時期で遅れ気味ですが、ちょっとづつ書き進めていきたいですね。

SAOプログレ5巻も途中までしか読めてませんが、楽しみながらも色々と勉強になります。


それではワンドリンク推奨、真面目な鈴屋さんをどうぞ。

楽しんでもらえれば幸いです。

 階段は暗闇の中へ向けて、まっすぐ地下に伸びていた。

 壁や天井、階段も石造りで、明らかに人工的な造りだ。

 しっかりとした石造りで、個人ではとても造れないだろうことがひと目で見て取れる。

 ただし、古代遺跡特有の神秘的な雰囲気は感じられない。


「ひとつ聞いておきたいんだけどね」


 先行するラスターが、背中を向けたまま小さくつぶやいた。

 その声が少しくぐもって聞こえる。

 先ほど鈴屋さんが、風の精霊を送還したせいだろう。

 さすがに召喚しっぱなしでは、精神力が持たないからな。


「赤の疾風。君がフェリシモ姉さんに仕掛けたという技、頼ってもいいのかい?」


 一瞬、何のことかと考える。


「あれは……無理かな」


 やはりそうか、とラスターが大きめのため息をついた。


「どう見ても、8本のダガーを背中に装備してるようには見えないからね。一応、理由を聞いてもいいかな?」


 俺自ら手の内を明かせと言うのか、と一瞬考えるも、フェリシモはその全容を知っているわけだし、今さら隠しても仕方がないだろう。


「アレは何て言うか、準備が色々大変なんだよ」

「あのね……、“アレ”とか話がややこしくなるから、技名で言ってほしいね」


 むむむ、と口をへの字にして強く結ぶ。

 そういうのって、まさに厨二病まる出しで恥ずかしいのだ。


「技名?」


 ほら見ろ。

 厨二病大好きな鈴屋さんが、目をキラキラと輝かせてこちらを見ているじゃないか。


「最初に言っておくけど、俺が考えたわけじゃないからな。あの武器を作ってくれた鍛冶師が名付けたんだからな」


 俺は、南無さんの暑苦しい顔を思い浮かべながら念を押す。

 背中に8本のダガーを装備する特殊なベルトも含め、ダミーダガーや仕込みのダガーまで、そのすべてが完全なるオーダーメイド品で、製作者は南無さんである。

 もちろん武器に名前をつける権利は南無さんにあり、それがそのまま技名となっていた。


「オロチってんだ」


 ……嘘である。

 正式には『荒神・裏八式・八岐之大蛇アラガミ・ウラハチシキ・ヤマタノヲロチ』という、南無さんが名付けた最高に恥ずかしい技名だ。

 裏八式も八岐大蛇も、8本のダガーに由来しているのだろうけど、同じことを二度言ってどうする、とか冷静に突っ込む気すら起きない。

 シメオネなら嬉々として叫ぶのだろうが、生憎と俺にはそんな趣味はない。

 厨二病なんていう微笑ましくも痛々しい思春期の病気を、いつまでもこじらせていられるほど、子供じゃないのだ。

 それ故に、ふ~んと気のない返事をして、それ以上は追及してこないラスターに対し、密かに安堵のため息をもらしていた。

 しかし、俺の嘘に納得しない人がいた。

 言うまでもない。

 可憐なるヲタク、鈴屋さんだ。


「え~~、南無っちが考えたんだよね? そんな、微妙な名前つけるかなぁ?」

「いや、そんなこと言われても……かっこ悪いってのは、俺も同意だけど」

「んん〜南無っちなら……そうだなぁ……」


 鈴屋さんが、かわいらしく顎に人差し指をトントンとしながら、目線を上げて考える。


「うん。例えば、荒神っ! 裏八式っ八岐之大蛇ぃぃっ!……とかつけそうだよね!」

「ヴェェッ!?」

「で、その後の勝利ポーズはぁ。月を見るたびに震えてろっ……とか?」


 片目を閉じて手をクロスさせながら、謎のポーズをビシィっと取る鈴屋さんに、俺は思わず、どこの言語だかわからない珍妙な声を上げて驚いてしまう。

 一語一句間違えることなく言い当てるとか、どんな厨二シンクロ率してるのよ。


「んなわけないじゃん、やだなぁ、もう〜」


 それでも、鈴屋さんは納得いかないのか、束ねた水色の髪を揺らしながら首をかしげていた。

 どうやら、この話題は早めに流したほうがいいらしい。


「……で、そのオロチってのは、なんで使えないんだい?」

「あ、あぁ。あれは火薬の仕込みが必要なんだ。そもそも、メンテナンスが大変で……って、それが出来るのもあれを造った鍛冶師だけってわけだ」


 そもそもオロチは、どれが本物のテレポートダガーかわからない、疑念の渦中において、初めて功を成す技なのだ。

 つまり、相手に人間並みの知能がないと成立しないわけで……例えば野生の獣のような相手には、全く通用しないのだ。

 もしかしたら、猪突猛進で野生まる出しなシメオネにも通用しないかもしれない。


「そうか。フェリシモ姉さんを追い詰めたという技……期待していたのだけどね」

「悪いな、どちらにしろ俺じゃ、ワイバーン相手に蚊ほども傷を負わせられないよ」


 さらに付け加えるなら、あんな詰将棋みたいな技をそう何度も成功させられないだろう。

 あの時は、奇跡の糸をギリギリで手繰り寄せただけだ。


「大体さ、俺なんかより鈴屋さんのがよっぽど強いぜ?」

「わ、私は……今は駄目だからね?」


 あぁ、そうだった。

 鈴屋さんは本調子じゃないんだったよな。


「と、なると……やはりここで、お目当ての物を見つけておきたいね」


 ラスターが前方の様子を窺いなら、足を止める。

 どうやら地下への階段が終わったらしい。

 そこには、十メートル四方くらいの部屋があった。


「……やはり人工的だね」


 俺もラスターの横に並び、ランタンを掲げて部屋の中を照らした。

「少なくとも、倉庫じゃなさそうだね」

 ラスターの言う通り、倉庫として使われている様子はない。

 部屋の奥には、石櫃と祭壇のようなものがある。


 ……いや、正直………


「気味が悪いね……」


 同じことを考えていたらしく、ラスターが代弁してくれる。

 この状況、俺も悪い予感しかしない。


「あー君……」


 鈴屋さんが、俺のマフラーをより一層強く握っていく。

 その表情は恐怖の色で染まっていた。

 思わずその細い肩を、抱きしめてやりたいという衝動に駆られる


「まぁ、眺めてても仕方がないからね」


 ラスターが、躊躇することなく祭壇を調べ始める。

 そうなると自動的に、俺が石櫃担当となるのだが……

 ……いや、普通に嫌だろ、これ………


「ほんとに開けるの? あー君」

「うぅ、すごくヤダよ。鈴屋さんは、見なくていいからね」


 俺は視界の端で水色の髪がこくこくと揺れるのを確認し、大きめのため息をひとつする。


「いくぜ?」


 そして、ゆっくりと石櫃に手を掛けた。

 石櫃の蓋は、ゴリゴリッと重々しい音を鳴らしながら、少しずつスライドしていく。


 中には──


 いくつかの魔法具と一緒に──


 白骨化した女性と思われる遺体があった──


 予想通りだが、気分は最悪だ。


「ここはただの墓だった……ってヲチじゃないだろうね」

「それはないだろうな。この武器……グレイが、ワイバーンに奪われたヒートダガーで間違いない」


 俺はおもむろに、石櫃の中から、鈍い赤色の光りを放つダガーを取り出す。

 それは確かに、昔イベントで見たグラフィックと同じものだった。

 ……ふむ、と顎に手を当てて考えるラスター。

 そういう姿が、様になるのは二枚目の特権かね、ちょっと羨ましかったりもする。


「あー君、じゃぁ、そこに入っている他の魔法具も?」

「たぶんだけど、ワイバーンが他の冒険者や行商から奪ったものだろうな」

「だとすれば、ワイバーンとの関係性……その骸骨が何なのか、が問題になるね」

「それはさ、そこにいる本人に聞いてみようぜ?」


 俺がダガーに手を掛けながら、階段の方に体を向けて鈴屋さんの前にスッと移動する。


 その視線の先には、鉈のような物を右手に持つネヴィルさんの姿があった。


「客人。まずは、そちらの弁解を聞かせてもらおうか。君たちの行動は、盗賊のそれと変わらないのだが……如何か?」


 いや、ほんとに否定の余地が無いほど、まっとうな言い分だ。


「俺達は冒険者だ。ワイバーン退治と、ワイバーンが奪ったものを取り戻すために来た……って説明で納得してくれる?」

「なるほど……それで、その証拠は見つかったのかな?」


 俺がこくりと頷く。

 しかしネヴィルは焦りの色を見せることもなく、腕を後ろ手に組んだまま階段を下りてきた。


「あなたは…… 竜司祭(ドラゴンプリースト)……竜信仰をしているんだね?」


 ラスターが、聞いたことのない単語で質問を投げかける。

 ドラゴンプリーストってなんだ……プリーストに、そんなのあったっけか?


「……そこの祭壇だけで、それがわかったのかね?」

「ここに、幾つかの鱗が祀られていたからね。前に盗品を、高額で取引したことがあるのさ。竜司祭は神ではなく竜をあがめていて、修行によって竜の能力を身につける、と聞いたことがあるんだけどね。あなたは……竜にでも生まれ変わりたいのかい?」


 なんだ、それ……少なくとも俺の知っているゲーム内で、そんな職業やクエは聞いたことないぞ。

 思わず、鈴屋さんに視線を送る。

 鈴屋さんも無言で首を横に振っていた。

 まぁ俺も、あのゲームのすべてを知っているわけじゃないけど……それでも、知らない職種があることに少なからずの驚きがあった。


「その祭壇は、妻のものだよ。石櫃の中も見たのだろう? 私の妻は竜司祭だったのだよ」

「下手な嘘だね」

「……嘘? ……何をもって、そう言えるのかな?」

「ネヴィルさん。石櫃の中の女性は、奥さんですか?」

「あぁ、そうだ」

「なぜ、ちゃんと埋葬されていないの? それと……なぜ、盗品が隠してあるのか説明してくれますか?」


 鈴屋さんが、少し口調を強めていく。


「……盗品?」

「今さら、しらばっくれるなよ。このダガーは、俺の知り合いから奪った物に間違いないぜ?」


 言って、ヒートダガーを見せる。

 しかしネヴィルは、ゆっくりと首をかしげた。


「……話が見えてこないな」

「知らなかったのか?」


 ……とぼけているようには見えない。

 どうやら本当に知らなかったみたいだが……それなら、これはいったい誰が……


「ネヴィル、何してんだぁ~? 早く始末してしまえ。そいつらは、いらないことを嗅ぎ付けているんだぁよ」


 ネヴィルの背後から、唐突に声が聞こえた。

 並々ならぬ殺気を感じ、反射的にダガーを引き抜く。


「急になんだよ。誰だ、あんた」

「あぁ~? 山頂で襲ってきたのは君だねぇ。ってぇことは、宿にはあの猫女と、ネヴィルの娘だけだってことだぁねぇ?」


 そこで、ラスターが初めて明確な殺意を持って、サーベルを抜いて構えに入る。


「お前……」

「あぁ~ん? なに、あんたも猫系? じゃ、アレは彼女か何か? それとも、レイシィちゃん狙い?」

「やめるんだ、ハリス。勝手にここに入るなと、あれほど言ったはずだ。それに、事を大きくするな。話し合えば何も問題ない」

「あぁ~、そういうの……だから、あんたは駄目なんだよねぇ」


 そこでやっと、声の主が光に照らしだされる。

 20代半ばの細身の男。

 短い灰色の髪をしていて、細い目と下卑た笑みが最悪の印象を与えている。


「あっれぇ~? なに、かわいい娘いるじゃない。君さぁ、ちょっと俺と来ない? レイシィの代わりに、あんたを巫女に担ぎ上げれば、信者も増えそうだしさぁ」


 鈴屋さんが俺の後ろに隠れながらも、淀みのない眼光をハリスに向ける。


「話がいまいち見えてこないけど……はっきりとお断りします」

「なになになにぃ、冷たいねぇ。俺、ひと暴れしてもいいんだよ?」


 あぁ、これはちょっと……


「あのさ。彼女は、俺とツーマンセルを組んでいる仲間なんだ。俺抜きで、勝手にスカウトしてくれるなよ、おっさん」


 思わず、怒りの感情がこぼれてしまう。


「あぁん? 年上は敬えって、親から教わらなかったかぁ?」

「暴れたいってんなら、付き合うぜ? おっさん」


 ハリスがさらに、いやらしく顔を歪めていく。

 そして、1枚の大きな黒い鱗を取り出した。


「やめろ、ハリス……」

「はっはぁぁ~。こいつは、ちぃとばかしお高い代物だぜ。昼間の触媒無しのワイバーンとは、わけが違うからなぁ。ネヴィルよぅ、今から圧倒的な力ってのを、見せてやるからよ。こいつらを片づけたら、俺たちの要求について、真剣に考えるこったな」


 そう言って、ハリスが階段を駆け上がった。

 反射的に体が反応し、その後を追う。


 もしここで、テレポートダガーを使っていれば、取り押さえることができるかもしれない。

 しかし俺は、鈴屋さんに対し卑しい目を向けたことに対して、怒りで冷静さを失っていたらしい。


 俺が地上に飛び出すころには、ハリスが竜司祭の力を行使し、真っ黒な竜へと姿を変えていった。

 それはワイバーンなどではなく、れっきとしたドラゴンだった。

【今回の注釈】

・荒神裏八式八岐之大蛇「月を見るたびに震えてろ」……元ネタはKOFの八神庵より。ちなみに勝ち台詞は「月を見るたび思い出せ!」です。鈴屋さんは南無子と対戦ゲーもよくしていたらしく、そういった意味で今回はシンクロしていたようです。

・竜司祭……ソードワールドでしか見てないですが、ファイアーエムブレムのチキとかもその類ですかね。ソードワールドと言えば、グループSNE。グループSNEと言えば水野良。水野良と言えばロードス島戦記ですが、最近だとグランクレスト戦記。グランクレスト戦記、テオくんとくっつくの早すぎた気がしますが、あくまでも恋愛ものではなく、戦記ものなのでそこに時間は掛けたくなかったのかなぁと思いつつ、最近面白いです。アニメだと急ぎ足すぎてちょっと残念かもしれませんね。

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