【サイドストーリー】鈴屋さんとダメージ・リングっ!(2)
リーンが棍をしならせて、牽制してくる。
しかし俺は、そんな不用意な牽制を見逃さない。
初撃の探り合いこそが、もっとも集中すべきところなのだ。
とりあえずの一撃なんぞ、実戦では許されないぜ。
「あめぇ、あめぇ」
俺はダガー(と呼んでおく)で棍を滑らせて、そのまま踏み込む。
「アークさんが懐に入ってくることは、予想済みッス!」
なんと!
リーンは俺の動きを予測して、瞬時に棍を短く持ち横に振った。
俺の左側頭部に軽い衝撃が走ったが、なんとか身を沈めてかわしきる。
そしてそのままスライディングを行い、リーンの股下を滑り抜けた。
もちろん、タダでは終わらせない。
すり抜けると同時に、リーンの両方の内腿を斬りつけながらだ。
「やるじゃねーの」
前に転がりながら、そのままの勢いで立ち上がる。
側頭部を触ってみるが、血などは出ていない。
まったく、痛みもない。
「大丈夫ッスか? 血が出て見えるッスけど」
「リーンの目には、そう見えるのか?」
と言いつつ、すぐ近くにあった水たまりを覗き込んでみる。
確かに、うっすら血が出て見える。
一応触って確認してみるが、やはり指に血はつかない。
「ほら、手に血がつかないぜ?」
「おぉー、本当だ。オレもこれ使うの初めてなんスけど、凄いッスね」
「いやぁ〜面白いな、これ。リーンの方は、どうなってん……」
振り向いて、リーンのダメージ加減を確認する。
そして思わず、不覚にも、不覚にも、ごくりと唾を飲み込んでしまった。
なんとリーンの全身鎧の太もも部分だけが、破壊されて見えるのだ。
いや、まぁ、なんつぅか……真っ白な太ももが、生で見えているのだ。
リーンも気づいたのだろう。
慌てて両手で、太ももを隠す。
全然隠しきれてないけど……
「な、な、なにしてくれちゃってるんスか!」
「お、俺のせいじゃないだろ!」
「エッチ、スケベ、変態ッス!」
「俺のせいじゃないって!」
ダメージ処理って、脱衣のことなのか?
俺の顔は防具がついていないから、血が出て見えたってことか。
そういや、そんな格闘ゲームがあったな。
「アークさんも、脱ぐッス!」
「脱がねぇよ! っていうかコレ、そういうマジックアイテムなんだろ? おい、もうやめようぜ」
「このままじゃ、やめられないッス! オレがアークさんを、マッパになるまで剥いてやるッス!」
「バカ、やめろ、マジでやめろ」
リーンが、問答無用で棍を向けてくる。
俺も慌てて、構えなおす。
「アークさん」
「……なんだよ?」
「顔は狙わないで欲しいッス」
「もともと狙うつもりなんてなかったけど……なんでだよ」
「恥ずかしいんス。女の子が恥じらってる顔、見たいんスか?」
いや……それは、どっちかといえば見たいけど。
もちろんそう言えるわけもなく、黙って頷く。
そもそも入団試験の時のトラウマがあって、リーンの顔なんて狙えるわけがない。
こうなると、できるだけエロくない所を狙って、部位破壊するしかない。
相手が戦意喪失をすれば、勝ちってわけだ。
なんだ、このポンコツアイテム。
そういや、あのアフロ。
変なアイテムを、収集する癖があったよな。
「てりゃぁぁぁ!」
「のわぁ!」
俺が考え事をしていたところに、リーンの棍の乱撃が襲いかかってきた。
たまらず飛び上がって回避しようとするが、思いのほか棍の攻撃範囲が長く、脚部に何発かヒットしてしまう。
そして次の瞬間には、俺の忍び装束の袴がバリバリと音を立て、粉々に散ってしまった。
「お前、よりにもよって何てことを!」
いや、マジで洒落になってない。
俺は今、袴だけを脱いだ変態忍者だ。
「あとは上半身ッス!」
「くっそ、やられてたまるか!」
刹那の窮地が、俺の闘志に火をつける。
体は思考の外側へといき、反射的に乱撃を繰り出していく。
まさに本気にして、必殺の連続攻撃だ。
もはや俺自身も、どこに攻撃を当てているのか把握できていない。
全ての攻撃を放ったのち、素早く後ろへとステップをして距離をとり、リーンの姿を確認してみる。
「あ……あ……」
リーンの全身鎧は、鉄兜、鉄籠手、鉄靴を残して、粉々に砕け散っていた。
その下から現れたのは、真っ白な肌に、真っ赤なビキニだ。
そう。
リーンは今、頭と手と足先だけを隠して、腕から足首までが、あらわとなっている状態となのだ。
「あぁ……ぁ……ん……ばかぁ……」
「変な声出すな、バカ!」
「だって……」
「もうやめよう、な?」
「まだッス。まだ負けてないッス……」
「お前、バカなの?」
再び構え直すリーンに、俺はどうやって勝負をつければいいのか、いよいよ分からなくなっていた。




