【アフターストーリー】しゃんぐりらっ!(5)
「な、な、な、なに勝手に入ってきてるんですか!」
「なんよ、ハッチィ。もしかして、こっちに来てまでエッチィしたいん?」
「エッチィって言わないでくさい! アルフィーは、こっちに来てまで邪魔をする気なのですか?」
ベッドの上で殺気を放つハチ子と、ニヤニヤと笑ってソレを受け流すアルフィー。
いや、それよりもだ。
俺には、大きな疑問があるぞ。
アルフィーが現れた扉の向こうは通路が続いており、奥の方には部屋も見えていた。
これは、つまり……
「もしかしてお前、鈴屋さんの別荘と繋げてないか?」
「あーちゃん、流石なん。よぅ〜分かったなぁ」
「おい待て! 拠点はプライベート空間だから、繋げるとか無理なはずだぞ!」
アルフィーが顎を斜めに上げて、あはぁ〜といやらしく笑う。
「あーちゃん、誰に言うてるんよ〜?」
「お前、なんかハッキング的なことしただろ」
「クックックッ……とんだ濡れ衣ダナ?」
「めちゃくちゃ、ヤッテんじゃねぇか!」
相手はウィザード級のハッカーにして、“ラット・ゴースト”の異名を持つラフレシアだ。
仮想世界でのチート行為なんてお手の物、まさに本領を発揮する分野である。
何をしているのか理解できない俺にとって、もはやそれは魔法そのものだ。
「なん〜、私も混ぜてぇなぁ」
「ま、混ぜるとは? 何を言ってるのですか、アルフィー」
「そのままの意味なん。三人でも、なんなら四人でもいいんよ?」
「サン……ヨニン……にゃ、にゃ、にゃにを言っているのですか、アルフィー!」
「別にぃ〜あたしも〜鈴やんも〜、どっちもいける派なんよ?」
「ど、ど、ど、どっちも?」
ベッドの上で戸惑うハチ子に、アルフィーが四つん這いになって近寄る。
そしてハチ子の太ももを指先でなぞりながら、ゆっくりと顔を近づけていく。
「な、な、な、なにするんですか!」
「緊張せんでいいんよ?」
「わ、私は、そういうのないですから! アーク殿も、何か言ってください!」
「あーちゃん、嫁とあたしの絡み見てぇ〜顔真っ赤なん〜。興奮してるん〜?」
ふっ……甘いな、アルフィー。
俺はもうハチ子という嫁を得て、大人としての余裕ができているのだよ。
ここはビシッと、言ってやろうじゃないか。
「あ、赤くなんて、なってないからな! 恥ずかしがるエッチィとエロフィーの絡みを見て、めっちゃ興奮しただけだからな!」
「ヲイ、エロフィー言うナ」
「興奮冷めやらぬ、ここがシャングリラ!」
ふっ……大人になったとしても、動揺は隠せないようだ。
「なに言ってるんですか、アーク殿!」
「ハッチィ、観念しぃ〜よぅ〜。このままあたしを、あーちゃんの第二婦人にすれば〜、めでたく全員家族なるんよ〜」
「そんなこと、考えていたのですか!」
なんという、恐ろしい計画だ。
しかし、いよいよ収集がつかなくなってきたぞ……と思った、その時だ。
この場を収めることができるのは、やはりこの人だった。
「ラフレシア、何してるのかな〜?」
びくん、とアルフィーの体が大きく震える。
「あなたは一応、私と婚約しているはずなんですけど〜?」
「い、いや、鈴やん。コレは、みんなで仲良くしようっていう、ハッピーな計画でダナ……」
冷や汗……というようりも滝汗だ。
そうだろう、そうだろう。
俺も、このモードの鈴屋さんは怖かったぞ。
「ちょ〜っと向こうで、お話ししましょうか〜?」
「い……イヤ、違うンダ。聞いてクレ、鈴やん」
「家に帰りなさい!」
「ハイ!」
アルフィーが飛び上がり、脱兎の如く隣の別荘に逃げていく。
鈴屋さんその様子をため息をしながら眺めると、俺とハチ子の方に笑顔を向けた。
そして、手の平をヒラヒラと振りながら……
「ごゆっくり〜」
そう言って、扉を閉めていってしまった。
残された俺とハチ子さんはというと、しばらく呆然としたまま扉を見つめていた。
やがて俺はハチ子の隣に座り、そのまま寝そべる。
「シャングリラ……しますか、アーク殿?」
「いや……流石に疲れたので、ちょっと寝るというのはどうだろう?」
「ハチ子も疲れたので、賛成します」
そう言って、ハチ子が向かい合うようにして横になる。
しばらく見つめ合い、どちらからともなく吹き出した。
「楽しいです、アーク殿」
「そうだな」
「幸せです、アーク殿」
「あぁ、これはこれでシャングリラだな」
「まさに理想郷ですね」
そして、また笑う。
そんな感じで、俺たちは幸せなのだ。




