【アフターストーリー】しゃんぐりらっ!(2)
「というか……なぜ墓地なのでしょうか?」
「なんだろうな。もしかしたら、初期ログインがここに設定されてるのかもな」
剣の形をしたモニュメントを目の前にし、ノスタルジックな感覚を覚える。
もちろん、こんな場所でイチャつく気なんて、さらさらない。
「とりあえず、新居の購入をしてみよう」
「新居……ですか?」
「あぁ。たしかプレイヤーは、各都市で一軒だけ拠点を買えるんだ。けっこう高くて、現実的じゃなかったけどな」
「なるほど。家は、どこで買えるのですか?」
「もちろん、冒険者ギルドだ」
俺はそう答えると、ハチ子の手を握りギルドへと向かう。
途中でグレイに見つかって、面倒なので逃げるというハプニングはあったが、詳しくは割愛しておこう。
遠方の国にいるはずなのに、いつ帰ってきたんだ的な絡みなのだが、極めて塩対応で返してやった。
今はとにかく、ハチ子とイチャつきたいのだ。
「レーナ、普通に来れるんですね」
「いや、サルベージャーじゃないと入れないよ。俺、七夢さんとこでサルベージャーの仕事をすることになっただろ? で、自宅からダイブしたいって言ったら、特別なダイブギアをもらえたんだ」
「なるほど。それでハチ子の分のダイブギアも、あったということですね」
「そそ。俺とハチ子さん用で、他の人は使えないようになってるらしい」
きっと、高度な生体認証がされているんだろうが……まぁラフレシアが本気を出せば、使えるんだろうな。
「月の記録は、どうなっているのですか? こんなところで外の世界のことを話していて、大丈夫なのですか?」
「あぁ。もちろん泡沫の夢の目の前でってのは駄目だけど、誰もいないなら大丈夫。なぜなら……」
なぜなら七夢さんが、俺やハチ子の帰還を成功例として発表したからだ。
ここで過ごした記憶を消すことが、必ずしも正しいとは限らない。
大切な記憶を残したいという気持ちも、尊重されるべきだ……と。
何より乱歩や俺、ハチ子のように記憶の多くを欠損しているドリフターにとって、この世界の記憶を消去することは大きな誤りである。
また、凛や白露のようなイレギュラーな事例も存在するため、不可解なキャラクターを簡単にバグとして処理するわけにもいかない。
何事も、協議が必要なのである。
まぁ簡単に言ってしまえば、緩和されたのだ。
「なるほど。でもイチャつくのも、記録されるのでは?」
「それがね、俺たちサルベージャーの拠点は、管理者権限区域に指定されるようになったみたいでね」
「管理者権限区域?」
「レーナだと、南無さんの家がそうだったんだ。一切記録されない、プライベートな空間ってやつさ」
「おぉー!」
目をキラキラとさせるハチ子。
これで気兼ねなくイチャつけるぞ、ってことだ。
……仮想世界で、ってのが少し悲しいけど……
ほどなくして冒険者ギルドに到着した俺とハチ子は、ギルドの受付嬢に拠点購入の話を聞いてみる。
「拠点の購入ですね? では、お好みの拠点をお選びください♪」
そう言って、受付嬢が目の前で大きな、羊皮紙を広げる。
羊皮紙には、いくつかの家のイメージイラストが描かれていた。
どうやら価格に合わせて、拠点の規模を選べるらしい。
それこそ粗末な造りの掘っ建て小屋から、貴族が住みそうな屋敷まで色々とある。
「俺、わりとお金残ってるんだよな」
「ハチ子もです、アーク殿」
「どうするか。けっこうな豪邸も、買えそうだけど」
「ハチ子は、小さな別荘みたいなのがいいです」
「だよな。じゃあ……この郊外にある、海の見える別荘ってやつはどう?」
「賛成です、アーク殿」
そうして俺たちは、郊外にある小さな平屋を購入したのだ。




