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リターン(7)

 遠くに幾つも光の柱が、生まれているのが見えた。

 あれは多分、レーナからきた援軍を送還するための扉だろう。

 ……ってぇことは、防衛戦も終わったということか。


「どっちが勝ったんだ?」


 俺にとってハチ子を連れて帰ることが真の目的であり、この戦いの勝敗なんぞ関係のない話ではあるのだが、気にならないといえば嘘になる。

 それなりに、情が入ってしまっているのだ。


「ふむ」


 刀華が刀の切先を地面に向け、すぅと静かに息を飲み込む。


焔ノ紐(ほむらのむすびめ)


 そう言って切先で地面に突きつけると、炎が地面を走り始める。

 どうやら、炎で出来た文字のようだ。


「周囲の戦況を知るための術技だ。ちなみに、術技の使用者にしか読めないようになっている」


 なるほど、情報収集系のスキルか。

 さすが本家の刀華は凄いというか、色々な技を知っているんだな。

 まぁ当主なんだし、当たり前なのかもしれない。


「門の防衛、成功。侵略された街の解放、成功。妖魔将軍ヘブライン、水雲 凛が撃破」


 おぉ……さすが凛だ。

 強いのは知っていたが、単騎で倒しちまったのか。


「妖魔将軍竜土、シメオネ・ユイガドクソンが撃破……随分と変わった名前だな」

「ハハ……」


 あいつ、ユイガドクソンって名前だったのか。

 唯我独尊とか、いかにも寅虎が考えそうな名前だ。

 っていうか、まんまレーナでの名前で記録されてるじゃねぇか。

 七夢さん、この辺の記録もどうにかしてくれるんだろうな?


「妖魔将軍アシッド・エンド、十月 刀華が撃破。これは少し、こそばゆいものがあるな」


 少しだけ、はにかむ刀華。


「誇っていいことだろう? 実際、圧倒していたしな」

「それがこそばゆいと言っているのだが……まぁ、素直にありがとうと言っておこう」


 刀華が優しく微笑む。

 しかしすぐに、驚きの表情へと変わっていく。


「妖魔大将軍アスラッド、フェリシモ・ライオットが撃破……なんと……あの化け物を倒せる者が、この世にいたのか? にわかには、信じられぬ」

「あぁ……ねぇさん、マジで倒しちまったんだ。さすがというか、相変わらず最強だな」


 もはや凄すぎて、カカカと笑ってしまう。


「知り合いなのか?」

「まぁなんというか、昔、ちょっとな」

「アーク殿は、フェリシモに勝ってますから」


 俺に抱きついたまま、ハチ子がボソッと呟く。

 少しは落ち着いてきたようだ。


「なんと、貴公は本当に何者なのだ?」

「アーク殿は、こことは違う地の……小さな英雄です」

「小さなってとこ、めっちゃ的確」


 俺がカカカと笑うと、ハチ子が俺を解放し真っ直ぐに見つめてきた。


「今回だって、そうでしょう?アーク殿がいなければ、妖魔将軍を一人も倒せず一方的に負けていたはずです。だのに、戦果として名前は残らない。アーク殿は、いつもそうなのです」

「カカカ、貧乏くじ担当だからな」


 しかしハチ子は真剣な眼差しを向けたまま、笑わない。

 ただ一度だけ、首を横に振って続ける。


「でも……どの世界でも……いつだって……あなたはずっと、私の英雄です」


 真っ直ぐ向けられる美しい 双眸(そうぼう)に、思わず息を飲み込む。

 そのあまりの美しさに、刺された痛みなんぞ忘れてしまいそうだ。

 刺された痛み……いや、そう言えば!


「というか、ハチ子さん。傷は?」

「痛いです。少しでも気を抜くと、意識が途切れそうです」

「ダメじゃん! すぐに帰ろう!」


 自己治癒をしていた俺と違って、ハチ子はそんな技を持っていない。

 ハチ子の意識がある間にログアウトをしないと、色々と面倒なことになる。

 俺は慌てて立ち上がり、ハチ子をお姫様抱っこする。


「なんだ、もう行くのか?」

「あぁ、あんまり時間がないんだ」

「そうか。もっとゆっくり、話をしたかったのだがな」


 刀華が、少し残念そうな表情を浮かべる。

 ここで刀華を一人にするのは、俺も心苦しいものがある。

 しかし今は全てにおいて、ハチ子が最優先だ。


「あとで、必ず会いに来るよ。ハチ子が刀華として過ごしていた時のことも、説明しなきゃだしな」

「うむ。その時は、貴公の仲間と共に道場へ来るといい」


 俺は頷き、ハチ子の方へと視線を落とす。

 ログアウトするための手段は、ここが仮想世界だと認識し、現実世界へ帰るという意志表示だ。


「君に問う。君の帰るべき世界は、何処だ?」


 ハチ子が薄目を開けて、静かに返答する。


「ここではない、あなたのいるところです」


 自分のいるべき場所は、この世界ではないという強い否定。


「それは、港町の……」

「いいえ、あなたがいる世界……外側の世界です」


 この世界を俯瞰視し、現実世界への帰還を望む意志。

 あとは、現実を認識するための鍵。


「君の……本当の名前は?」

「私の、本当の? それは……」


 俺は戸惑うハチ子の目を見つめ、黙って頷く。

 迷う必要はない、と。


「私……私は……」


 ハチ子は目を閉じると、少し間をおき……


「私は……綾女。如月綾女です」


 はっきりと、そう答えた。

 その瞬間、ハチ子の体は光に覆われ、音もなく消えてしまった。

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― 新着の感想 ―
うおおおおお終わってしまうぅぅぅぅ でもハチ子さん良かったねぇぇぇ……
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