リターン(6)
俺は手探りで刀を探し、ハチ子の頭を胸に抱いたまま上半身を起こす。
一方のハチ子は俺の膝の上にまたがり、両手を背中に回して離れようとしなかった。
「ハチ子さん、とりあえずアシッドを……」
「アーク殿……」
だめだ、やっぱり離れない。
俺とて感動の再会ではあるのだが、今はそれよりもアシッドだ。
なんとか耳をすまして、気配を探る。
「よい。貴公らは、そのまま休んでおけ。そもそもアレは、某の獲物だ。何人たりとも、手を出すことは許さぬ」
すぐ隣から刀華の声が聞こえた。
たしかにアシッドは、刀華が長年追い続けてきた仇敵だ。
俺のような、突如として現れた部外者に邪魔されては、たまったものじゃないだろう。
「大丈夫なのか?」
「某は、このためだけに修練をつんできたのだ。先程は綾女の奥義を相殺するために、使ってしまったが……」
ジャリっと、刀華の足を擦る音がした。
同時にもうひとつ、小さな足音が近づいてくる。
間違いない、アシッドだ。
「残念だな、もう放てるぞ?」
刀華も、気付いていたらしい。
その自信に満ちた言葉は、まるで勝利を確信しているかのようだった。
「明けの明星……」
この技は……さっきの奥義技か!
「八咫烏!」
ダンッを地面を蹴る音がし、次に火柱が上がる音が聞こえ、最後には複数の爆発音が聞こえた。
そうか。
あの技は八体の八咫烏がホーミングミサイルのように飛んでいき、着弾と同時に爆散する。
つまり攻撃範囲内の敵をオートでロックオンし、放てば必中する高火力の飛び道具なのだ。
たとえ霧で相手が見えなくとも、引きつけて技を発動させれば……
「……霧が晴れたな」
刀華が呟く。
同時に、ざぁと一陣の風が吹き抜けて、白い霧が吹き飛んでいく。
「皆……遂げたぞ。我、アシッドを討ち取ったり」
アシッドは俺たちの目前で、立ったまま焼け焦げ、既に事切れていた。
見事に復讐を果たした刀華は、満たされた表情を浮かべながらも、その頬にうっすらと涙のあとを残す。
刀華の長い旅が、今まさに終わったのだ。




