あなたはずっと、私の英雄です。(8)
次々と現れるレーナでの戦友たち。
そのほとんどが、冒険者だ。
アークさん、久しぶり!
鈴屋さん、相変わらず美しい!
そんな風に、二人に声をかけては、とりあえず目の前の敵を倒すぜと、千を超える小鬼の軍勢に迷うことなく剣を向ける。
それでも数の上では、妖魔軍が圧倒している。
これを押し返すなんて、いかに冒険者とはいえ荷が重すぎるだろう。
これは、討伐ではない。
戦争なのだ。
それこそ戦場を経験している傭兵や、練兵された兵士でもない限り、数の暴力で蹂躙されるだろう。
「秋景どの、やはり数が……」
まだ他にも策があるのか、聞こうとした時だった。
私も知っている、彼の切り札が現れた。
「確かに力になるっていう契約はしたが、まさか戦場に招待されるなんてねぇ、 色男」
褐色の肌をした、真っ赤なアフロヘアーの女性が、彼の前へと歩を進める。
「おぉ、シェリーさん。来てくれたのか」
「私らが呼ばれた時は、相当ヤバい時だと聞いていたからねぇ。断るわけには、いかないねぇ」
シェリーは巨大な刀を肩に乗せて、不敵に笑う。
アサシン教団を抜ける時、私を助けに来てくれたのは彼女だった。
彼女には、本当にお世話になっている。
本当は今すぐ挨拶をしたいところだけど、刀華の姿でそれはできない。
いつか必ず、お礼を言いに行こう。
「我が家族、窮鼠の傭兵団諸君。久々の戦争だ。しかも相手はゴブリン、遠慮はいらない。存分に喰い散らかしてやろうじゃないか」
三百の傭兵団が「おぉ!」と、大きな声を上げる。
そんな中、立派な全身鎧に身を包んだ二人の騎士が前に出る。
「アーク様、俺とリーンで道を作ります。ここは俺たちに任せて、先に進んでください!」
「そうッス。ここは窮鼠の傭兵団と、この女騎士リーン、あと……勝手についてきたルクスに任せるッス!」
「勝手にって……リーンがそうやって無茶をするから、俺はいつも気が気でならないんだ!」
「なんでルクスが、俺の心配をするんスか?」
首を傾げながら、ハルバードをくるりと回して駆け出す女騎士。
男の騎士も、慌ててラージシールドを構えて、その背を追う。
二人の騎士は先ほどの口論とは裏腹に、息の合った連携攻撃で小鬼の群れを切り裂いていく。
「ほらほら、ウチを抜けたリーンが先頭で頑張ってんだ。お前ら、魚鱗の陣で支えてやんな」
シェリーの指揮に対し、傭兵団が統率の取れた動きで陣形を作り、進軍し始める。
数の不利に対抗できる唯一の手段……練兵された兵士、それも歴戦の強者たちが現れた。
これで戦局は、大きく傾くはずだ。
「あー君は、構わず先に進んで!」
鈴屋が手を大きく広げて、魔法に集中する。
この光の門が閉じないように、維持しているのだろうか。
「だけどよ、鈴屋さん!」
秋景どのが反論しようとするが、光の門から現れた新たな仲間がそれを制する。
「あーちゃん、鈴やんが集中している間は、あたしがしっかりガードするん。さっさと行ってきぃよ〜」
現れたのは白毛の戦士、アルフィーだった。
サーベルとスモールシールドを手に、鈴屋の目前に迫った小鬼を、鮮やかに捌く。
この間の忍者姿でもないし、言葉遣いもいつものアルフーだ。
「こんなところで、足を止める必要はないんよ。この軍勢を抜けば、きっとまた将軍クラスが出てくるん。で、将軍クラスを抜いていけば、いつか必ずハッチィが現れるん」
秋景どのが一瞬、言葉を飲み込む。
そして、小さく頷いた。
「いつも、すまね。俺は本当に、世話をかけてばかりだ」
「今さら、それは言わない約束だよ、あー君」
「終わったらレーナにでも行って、みんなに挨拶すればいいんよ」
彼が心強い仲間に頷いて応え、私の目を見つめてくる。
「はい、行きましょう。秋景どの」
その目から意思を受け止めて、私も力強く頷いた。




