あなたはずっと、私の英雄です。(4)
彼の変則的で緩急の激しい独特な足捌きは、思わず見惚れてしまうものがある。
その動きを誰よりも長く、誰よりも間近で見ていたのは、私で間違いないはずだ。
私はそんな彼の動きに合わせるようにして、小刻みにステップを踏む。
小鬼はもちろんオーガのような大鬼では、その動きを捉えることなどできない。
先陣を駆ける彼は、研ぎ澄まされた無双の剣士だ。
七支刀の名に相応しい、まさに一騎当千そのものである。
「ふふ……それでこそ、です」
自然と、笑みが溢れる。
私は彼の一挙手一投足を、決して見逃さない。
彼が刀を鞘に納めた。
私は彼を守るように、背を合わせる。
一瞬後、背後から大きな斬撃音が聞こえた。
彼が、一閃を放った音だ。
私はすぐさま右足を地面に突き、「焔陣」の言葉と同時に八本の炎の道を生み出した。
私はそのまま目を閉じ「絶火」と唱え、炎の道に身を沈める。
さらに奥義「八岐大蛇」を発動させ、八体の炎の分身を生み出した。
そして彼の背後に炎の柱を生み出し、そこへ移動……って、あれ?
彼がいない?
「秋景どの?」
焔陣の中央に立ち、周囲に視線を泳がせる。
すると彼が、私の作った八本の焔陣の中から現れた。
「まさか私の焔陣の中を、移動したのですか?」
彼は答える代わりに、その場で地面を蹴り「焔陣」を発動させる。
すると私が作った八本の炎の道に、彼が作った八本の炎の道が交差し重なっていく。
「来てみろ、刀華」
私は迷わず「絶火」と唱えた。
そして再び、炎の道に身を沈める。
この状態での私の視界は、地中から地上を見上げたかのようになっている。
といっても地上の光景は見えず、八本の炎の道だけが頭上に見える感じだ。
この状態で頭上にある炎の道を視線でたどり、好きな場所に出現するイメージをすれば、移動技が発動する。
しかし今は私の作ったの炎の道が、彼の作った炎の道と交差し、蜘蛛の巣のようになっていた。
もしかして、この全てを移動先の対照にできるのですか?
だとしたらこの技は、第三者が作った「焔陣」の中にいれば、「絶火」で移動できるということだ。
さらに私の炎の道と交わっていれば、移動先の選択肢も増える。
なんとも彼らしい、神出鬼没な技なのだ。
「秋景どの!」
私が彼の背後に出現すると、そのまま背中を合わせる。
ちょうどそこで焔陣の効果が切れ、炎の道が消えてしまった。
「いつの間に、こんな使い方を編み出したのですか?」
「いやいや、今試したら出来た……みたいな?」
「フフ……相変わらず、デタラメですね」
「カカカッ、デタラメ上等よ。いくぞ……焔陣!」
彼がドンッと地面に足を打ちつけ、新たな炎の道を生み出した。
『絶火!』
今度は二人同時に、技の名前を叫ぶ。
瞬間後二人の姿は消え、それぞれ違う場所に出現する。
それは二対の刀のように、踊り狂う。
もはや誰の手にも止められない。
きっと妖魔軍側も、そう思い始めていたことだろう。
しかし戦局が傾けば、必ずテコ入れが入ってくる。
「来たぞ、第二ウェーブだ」
彼が不敵な笑みを浮かべて、目を細める。
その視線の先には、明らかに他とは違った出立ちの剣士が立っていた。




