鈴屋さんとワイバーン!〈4〉
土曜のお昼です。
3~5月は少し忙しく遅筆気味ですが、少しでも書けたらアップしていきたいなぁと思っています。
お気軽に楽しんでもらえれば幸いです。
入り口の大部屋には座り心地のいい牛革ソファが、向かい合わせで置かれている。
俺たちはそこに、部屋割りそのままで別れて座っていた。
よく考えてみたら、数日前の『黒猫の長靴亭』と同じ並びだ。
対面のシメオネは軽く体を拭いたのか、土や血の汚れが落ちている。
俺もそうした方がよかったか……と、ソファを汚してしまいそうで少し心配になる。
黒装束は魔法の装備だから、汚れは消えていくんだけど、ソファはそうはいかないしな。
「アークさみゃぁ、そんなに見つめられると困るにゃ」
シメオネが、モジモジしながら言う。
オーケイ、ここで焦ってはいけない。
なにせ俺の左には鈴屋さん、右にはハチ子がいるのだ。
ここはクールに、かつ華麗にスルーしよう。
「とりあえず山頂での話、もう少し詳しく説明しようと思う」
隣で鈴屋さんが目を細めていることを肌で感じつつ、マジトーク感全開で強引に話題を変える。
「気になる点は、そこが巣には見えないことと、シメオネの攻撃をかわしたこと……かな」
「巣に見えないってのはわかるんだけど、かわされたことはそんなに問題?」
鈴屋さんが、無防備に覗き込んでくる。
顔が近いですし、いちいちかわいい。
「う〜ん。俺はちゃんとタゲ取りしたし、あのタイミングだ。真上からの攻撃を、かわせるはずがないんだけどな。あいつは、どういうわけか攻撃が来るのを察知した。シメオネはどう思う?」
「自慢じゃにゃいけど、あの不意討ちは完璧だったにゃ。あいつは、明らかに来るのがわかって避けたにゃ」
……それだ。
あれは、野生の勘とも違う。
なにか違和感を感じてならない。
「どちらにしても、そこに現れるのなら、倒してしまえばいいのでは?」
ハチ子らしい、極めて建設的な意見だ。
しかし、ことはそう単純なものではない。
「それだと、本当の巣の場所がわからなくなって、ワイバーンが強奪したお宝の在り処も、永遠に闇の中ってことになるね」
ラスターの皮肉めいた言い方に、ハチ子が睨み返す。
しかし、ラスターはさして気にする様子もなく、涼しい顔のままだ。
「それよりも巣の近くに、ここの馬がいたんだろう? それは気にならないのかい?」
「あぁ。それは、ここのオヤジさんの馬だっただけだし……」
「君はおめでたいね。話を聞く限り、決まってそこに馬をつなげているようじゃないか」
それが? と怪訝な顔をむけると、ラスターはやれやれと続けた。
「そんなワイバーンが下りてくるそばに、わざわざつなげておくかい?」
むぅ……たしかにそうだが……
「あの娘の父親が、関係してるとでも言いたいのか?」
「あくまでも、気になるところを意見したまでさ」
たしかに、気にしておく必要はありそうだが……
「どうするの、あー君」
「そうだなぁ……とりあえず明日の昼か夜に、もう一度偵察に行こうかな」
できればワイバーンが不在の時に、もう少し詳しく調査しておきたい。
「その時はまた、シメオネでいいのかにゃ?」
シメオネが、キラキラした大きな瞳を向けてくる。
これに関しては、どんなに鈴屋さんとハチ子からジト目を向けられても、我慢するしかない。
「あぁ、そうなると思う。それまでは休憩ってことで」
俺は立ち上がると、鈴屋さんたちから逃げるように部屋から出ていった。
「まずは、父親に会って話を聞くべきだよな」
屋根の上で、ぽつりと呟く。
考えをまとめようとしていたのだが、時間が立つほどラスターの言葉は、大きな引っ掛かりとなっていた。
そもそも本当に、帰ってこれるのだろうか。
それにワイバーンは今、どこにいるんだろう。
「アーク殿」
凛とした澄んだ声が、後ろから聞こえた。
確認するまでもない、屋根上仲間のハチ子だ。
よくよく考えてみたら、こうして当然のように人の家の屋根の上に登る辺り、俺達はかなり非常識だ。
「となり、いいですか?」
黙って頷くと、ハチ子は俺の左隣まで音も立てずに移動する。
「失礼します」
ハチ子は暗い紺の髪を少し揺らせながら、シミターを脇に置くと膝を折って座った。
「アーク殿、鈴屋の異変には気づいてますか?」
唐突な話に思わず「……へ?」と、間の抜けた返事をしてしまう。
異変ってなんだ。
「いや……なに?」
「まぁ、些細な事なので、気にしなくてもいいです」
何だそれは、気になって仕方ないぞ。
「ちょっと失礼します」
また唐突に何だと思ってみると、ハチ子が左の肩に頭をのせてきた。
「あの……ハチ子さん?」
「たまにはハチ子にも、補充させてください」
「補充って……」
まぁ、セブンがいるとこうもいかないようだし。
ずっと気を張っていて、疲れているのかもしれない。
「大丈夫か? 疲れてるんじゃ……」
「私がですか?」
「フェリシモのこともそうだし。ラスターも油断ならない。あげくにワイバーンとか、さ。これでも一応、色々巻き込んじまって、申し訳ないなぁと思ってるんだぜ」
黒く美しい双眸を細め、僅かに口元を緩める。
「ハチ子は、好きにしているのです。任務と違って、ただただ楽しいだけです」
「なら、いいんだけどさ」
ハチ子は無理を隠すことに長けていそうで、少し心配になる。
「ワイバーンの話……ハチ子さんは、気になるところあった?」
「……残念ながら、ワイバーンと実際に対峙してみないと、何とも言えません。あとはラスターの言う通りで……馬の話……あれは少し不自然です」
やっぱりそこか、とため息をつく。
「ワイバーンと、レイシィの父親。なにか、つながりがあるのかな」
「それも父親に会って話してみないと、何とも……」
表情が少し曇る。
レイシィがいい娘なだけに、いい加減な憶測で邪推はしたくない。
それは、ハチ子も同じなのだろう。
「家捜しでもしますか?」
「いや、やめとこう。それに、そういうことは鈴屋さんとも相談して決めたいな」
「たしかに……これで何もなければ、たちの悪い盗賊みたいですしね」
「唯でさえ、噂のキャットテイル怪盗団が2人もいるからな」
カカカと笑うが、割と笑い事じゃないことに気づく。
「……泥棒猫二匹、監視しておきましょうか?」
「うぅん。それとなくでいいよ、それとなくで。さすがに、勝手には動かないだろう」
言いながらも、俺の笑顔は少しばかり引きつっていた。
シメオネは、釘を差しておけば大人しくするだろうが、猫の爪の時のように独断先行するおそれもある。
ラスターに至っては、そもそも俺の言うことなど聞かないだろう。
「ちょっと、2人に釘刺しとくか」
「アーク殿、その前に」
立ち上がろうとした矢先に、くいっと袖を引っ張られる。
「父親が帰ってきたようです」
ハチ子の視線の先にある山道へと目をやると、たしかに父親らしき男の姿が見つけられた。
「そうですか、あなた達がグレイスを。まさか、またワイバーンが現れるとは……とにかく無事でなにより」
どこか達観した表情で、男はそう言った。
髪はレイシィと同じ栗色……ではなく、ほぼ黒色で短めにザクザクと切られている。
シェリーさんが見たら、私に切らせろと言いそうだ。
真っ黒でゆったりとした麻の服を身にまとい、腰には山菜やら、うさぎやらが吊るされていた。
レイシィの言う通り、山菜採りをしてきたのだろう。
「あぁ、これは申し遅れた。私はネヴィルという」
声も低くて落ち着きがあり、いかにもなイケメンおじさまだ。
「客人はあなたがた2人かな? 恋人同士であるならば、2人部屋を用意するが……」
「こっ、恋人?!」
ハチ子が耳まで赤くして、つぶやく。
なにこのシチュエーション。数日前もあったような……デジャブ?
「なるほど……悪くないですね」
ハチ子が頬に手を当てて、満足気に頷く。
「えっと、ネヴィルさん。俺達は5人で来てて、レイシィさんに言って、もう部屋も借りたよ」
「おぉ、そうか。それならば話が早い。夕食と湯の準備をするとしよう」
ネヴィルはそう言うと、ロープで結ばれた山菜とうさぎを腰から外して、建物の裏へと回っていった。
「落ち着いた、おじさまだな」
「うさぎも狩っていたみたいですね。となると、やはりレンジャーのようですね」
レンジャーは、野外活動全般に特化した職だ。
たしか、武器は弓が得意なはずだが。
「弓とか持ってなかったよな?」
「レンジャーは、罠を仕掛ける技術も長けています。おそらく、仕掛け罠でもしてあったのでしょう」
そうだった。
野外での罠の設置や解除、危険察知や高速移動など意外に便利なスキルが多かったな。
シーフ同様、パーティに一人いるとすごく安心な存在だ。
「アーク殿」
またクイッと、袖を引っ張ってくる。
どうしたと顔を向けると、ハチ子がいたずらっぽく笑い……
「恋人同士って言われたにゃ(はーと)」
まさかの猫語尾っ!
……って言うか、シメオネのアレか!
クールビューティーの不意討ちに、危うく萌死ぬところだ。
「ばっ、馬鹿なこと言ってないで、部屋に戻るぞ!」
俺はまんまとハチ子の思惑にハマり、熱を帯びていく顔を見られまいと、逃げるようにして宿に向かった。
ネヴィルの声は中田譲治様で脳内再生されてます。言峰綺礼ですね。




