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そして、三門へ(3)

 このような誰も住んでいない廃寺では、月の明かりだけが頼りとなる。

 いっそうのこと、ダマスカス刀に火炎属性付与の術式「不知火」でも使おうかと考えてしまう。


「そういえば試験で妾に見せたあの技、夜には便利じゃのう」


 どうやら凛も、同じことを考えていたらしい。


「あの見知らぬ技の数々……どこで習得したのか、そろそろ教えてくれてもよかろう?」

「んん〜まぁなぁ」


 凛が廃寺から少し離れた大きな岩の上で、ちょこんと正座をする。

 見た目はともかく、そのちょっとした所作に無駄がなく、どこか成熟した美しさを感じさせる。


「ほれ」


 凛はそれだけ言うと、ポンポンと岩の表面に手を叩く。

 隣に座れってことだろう。

 なぜ隣にと言いたいところだが、これからコソコソ話をするわけだし、正しい選択だ。


「たしか刀華殿の話では、主は愛する女性を探しに、遥か遠く海を越えてやってきたのじゃったな?」

「んまぁ、そんなとこ」

「記憶がないと言うのは?」

「それは……」

「その方が色々と言い逃れができて、都合が良いからじゃろう?」


 下から見上げてくる目が、月に照らされて冷たく光る。

 鎌をかけているというよりも、見透かされている感じがする。


「凛さんは……」

「凛、でよい。おそらくは主の方が年上じゃ。本当の意味でな」


 かましてくるな。

 それはもう、自分は泡沫の夢じゃないと言っているようなものだと思うのだが。


「じゃあ、凛。今ここで、どこまで話せる?」


 ふむ、と凛が小さな顎をつまんで一考する。

 なんかやっぱり、レーナにいた頃の南無子とのやりとりを思い出すな。


「どこまでと言われてものぅ。ここが安全なのかは、妾にはわからんからのぅ。それに、そういったことは主の方が知ってそうじゃがのぅ? 温泉では、何かしたのじゃろう?」

「いやあれは俺というか、俺の仲間が何かしたというか……仲間の方が、色々と知っているというか」

「なんじゃ、主。妾を誘っておいて、何も話せんってことか?」

「いや……こう……今みたいに、ぼやかしながら探り合うとか?」


 ふむ……と、またも顎に手を当てる凛。

 クールで聡明な幼女ってぇのは、変に魅力的だ。

 だがしかし俺の尊厳のために何度も言うが、俺にそんな趣味はない。


「つまり今も見られておる、と?」

「まぁ、多分そんなとこ」


 これで、通じているのだろうか。

 実のところ話がすれ違っていても、気づかずに会話だけが進んでしまいそうだ。


「凛はたしか、白露のことを同胞とか言ってたよな?」

「うむ、間違いない。ただアレは妾よりも臆病で慎重じゃ。根っからの、引き篭もりなんじゃろうな」

「そいつぁ〜なんか、耳が痛いねぇ」


 うぅん……なんとなくズレては、いなそうか?

 だが、まだ慎重に話を進めねばだ。

 これで俺が現実の話をべらべらと話して、けっきょく凛は泡沫の夢でした〜ってなったら、大変なことになる。

 それこそ、セブンとハチ子の関係になってしまうわけだ。

 まぁ結果的にセブンの見立ては、間違っていなかったのだが。


「美しい月じゃのぅ。まぁ妾は、真の月など見たことないのじゃがの」


 月を見たことがない?


「なんだよ。凛も引もりか? たしか、どっかに生で見えるところがあるはずだろ?」


 凛が大きく息を飲み、目を見開く。

 それは驚いているようでもあり、歓喜しているようでもあった。


「そうか、そうか。主は生で見れるのじゃな?」

「なんだよ。アレって船の中からでも見れる場所があるんじゃなかったのか?」

「船……やはりそうであったか」


 凛が、たまらず笑みをこぼす。

 一方の俺は、どういうことか全く理解できないでいた。


「言ったはずじゃ。妾と白露は陽の光を知らぬ同胞じゃと」

「陽の光……どういう?」

「それをここで言っていいのか分からぬから、探り合うしかないのじゃろう?」


 やはり凛は、何か含みを持たせて笑うのだ。

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