そして、三門へ(2)
本日の宿は、人の手から離れた廃寺だ。
もとは仏像的な何かが置かれていた部屋なのだろう。
無駄に、だだっ広い。
もちろん野宿するよりはマシなのだが、風呂はもちろんちゃんとした飯がないのは少し悲しい。
道場育ちの刀華には、さぞキツかろうと思っていたのだが……
「隣で寝ますので、何かあったら起こしてくださいね」
そう言うと、外套を布団がわりにしてすやすやと眠ってしまった。
旅慣れしてきたのだろうか。
こうしてどこでもすぐに眠れることは、冒険者として素養がある。
刀華もいつか、胸踊る冒険へと連れ出したいものだ。
「さて……」
俺は小さくため息をすると、首を横に向けてみる。
視線の先のいるのは片膝を立てて、太刀を抱きしめるようにして座っている水雲 凛だ。
ちなみに白露は端っこで寝ている。
「なんじゃ?」
ジト目とツインテールが、懐かしの南無子を思い出させる。
水色の長い髪に巫女姿ってのは、鈴屋さんもしていたよな。
まさにツンデレの完成体だ。
「主、妾に欲情しとるのか?」
「するかよ、ロリ神様」
「ほうほう、よほど死にたいと見える」
なんて奴だ。
どこぞのアサシン姉さんみたいな目をしやがる。
いやいや、殺気が冗談のレベルじゃないんスよ、あなた。
「ちょっと外でないか。見回りついでに話でも、と思ったんだけど」
「うん? あぁ、そういうことならいいぞ」
凛があっさり快諾し、刀を杖代わりにして立ち上がる。
俺も刀華を起こさないよう気をつけながら、音を殺して外へと向かう。
「なんじゃ。主は存外に寂しがり屋じゃのう」
「うるせぇし。否定はしないし」
「否定はせんのか。何とも人間らしい答えじゃの」
人間らしい……ね。
うん、彩羽達に聞いていた通りだ。
この娘と白露は泡沫の夢ではない……かもしれない。
 




