刀華は、うっきうき!〈6〉
「あそこです、秋景どの!」
刀華がはしゃぐように声をあげて、寺まで続く石段を駆け上がっていく。
このところの刀華は、妙に愛らしい。
女の子っぽさが増したというか、素直さが増したというか。
それと言葉遣いだ。
やはり慣れない。
武道の精神性を重んじ、常に毅然とした態度を……見せようと努力していた、師匠のイメージからかけ離れているのだ。
「湯屋もあるみたいですよ♪ 秋景どの!」
なぜだろう。
振り返る彼女をみて、心臓が大きく高鳴った。
訳もなく目頭が熱くなっていくのがわかる。
どこか懐かしいような……愛しさを覚える強いノスタルジアだ。
「どうかしたのですか、秋景どの?」
なんだろう。
なにかを感じさせる雰囲気。
とにかく彼女の中にある、謎めいた魅力的な何かが爆発している。
「あーきーかーげーどーのー」
「おぉ、ふぁいっ?」
急に顔が近づいてきたので、思わず奇声を発してしまった。
「先ほどから、ぼーっとしているようですが?」
「いや、まぁ……ちょっとな。とりあえず今日は、ここに泊まるのか?」
「はい、そうしましょう。久しぶりに屋根付き、湯屋つきですよ♪」
「あぁ、そいつぁ〜いいね」
そんな会話をしてから、一時間後──
「あぁ……その、なんだ」
「私は、いいですよ?」
「いやぁ……しかしだな」
「秋景どのに限って、何も起きないですよ。信じてますから」
ひとつのおふとぅんが敷かれた部屋の中で、俺たちは立ち尽くしていた。
「仕方ないですよ、この部屋しか空いてなかったんですから」
「いや、それなら俺は屋根……というか、外にだな」
「そういえば道場でも屋根で寝てましたね。その癖は直した方がいいですよ。風邪をひきます」
癖……たしかにレーナでも、たまに屋根で寝てたよな。
しかしなんでまた、こんな辺境の社寺の部屋が埋まっているのだ。
他に人は、いなさそうなのに。
「大丈夫です。秋景どのは、何もしないですよ」
「それはそれで、なんか情けない気がしてきた」
口元に指を当てて、くすりと笑う刀華。
「一番好きな人のために、なにもしないんですよ、秋景殿は」
「どう……だろうか」
「無自覚で気を持たせる傾向があるのは、少し問題ではありですけれど」
「それは……よく言われてるような気がします……はい、反省します」
「そこはそこで、魅力的ではありますよ?」
またくすりと笑う。
本当に最近の刀華は、どうしてしまったのだろう。
キャラ変にも程がある。
「さぁ、湯屋を借りましょう。秋景どの」
「お、おう」
そして、イニシアティブまでも握られてしまうのだ。




