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刀華は、うっきうき!〈3〉

「ここの飯は少し飽きた。秋景どのの手料理が食べたいのだ」


 よほどお疲れモードなのか、刀華にしては珍しいおねだりだ。


「つっても、それほどレパートリーはないんだがなー」

「いいのだ。ただ異国風なのモノであるならば、それだけでも有り難いのだ」


 そう言われてもなぁ……と空を見て考えてみる。

 そもそもここの世界設定に、どんな材料があるのかもわからないが……


「まぁ、ちょっと買い出しに行ってくるから、風呂でも終わらせて待っててくれ」


 俺はそう言って刀華を宿までおぶった後、買い出しにでかけた。

 さて、腹ペコ刀華を満足させるには何がいいのかだ。

 そもそも俺の料理の記憶なんて、あやふやなものだ。

 何せ記憶のほとんどは、七夢内の『THE FULLMOON STORY』で得たものだからだ。

 その前にいた『TOKYO2020』での記憶なんてほとんどないし、それより以前の現実世界の記憶はまったくと言っていいほどない。

 あとはラフレシアと二人で暮らした期間と、そこに彩羽が加わった期間だけである。

 三人での共同生活において、料理は当番制だ。

 ラフレシアは屋台や肉料理などの外食を主とし、彩羽は野菜を使った洋食系が好きだった。

 よって俺は、ある程度どちらの要望にも答えられるようになっていた。


「一応、麺も種類はあるんだなぁ」


 麺料理屋の店頭には、様々な原料で作られた生麺が売られていた。

 焼くか、茹でるか。

 まぁ〜刀華のさっきの要望にこたえるなら、茹でるほうがいいだろう。

 焼きそばとか焼きうどんは、この世界にもありそうだしな。

 あとは……と、俺は夕食の準備をする母親のように食材を吟味していく。

 これはこれで楽しいのでハチ子を助け出したら、のんびり飯屋でも始めようかと思う。

 そうして宿に戻ると、俺は手早く夕食を用意したのだった。




「おぉい、できたぞ」


 大皿を持って部屋に入ると、刀華は正座をして待っていた。

 刀華の前には食事台が一つあり、手前には座布団が用意されていた。

 俺は刀華の対面に座ると、食事台の上に大皿を置く。

 そして取り分け用の小皿と箸を刀華に渡した。


「ええと、これはだな。俺の記憶の片隅にある何たら亭の名物料理で……」

「うん、大丈夫なのだ。山菜のパスタだな?」

「そうそう。本当はシーフードパスタが名物なんだが、ここだと海産物が手に入らなくて……」

「うむ。その記憶の中の料理は、港町にあるものなのだな」

「お……う」


 察しがいい刀華に、少したじろいでしまう。

 シーフードパスタとか、よく知っているな。

 そういうワードも普通にあるのだろうか。


「よくぞ再現したものだ。どうやって材料を代用したのだ? 苦労したであろう?」

「まぁ〜なんちゃってだし、完全には無理だぜ。それなりそれ風に再現しただけだよ」

「料理のできる男はモテるぞ、秋景殿。私の好きな男も、料理の手際が良くてな」


 好きな……刀華に色々と吹き込んだ例の男か。

 プレイヤーなのか、レーナから来たのか……とにかく違う世界のスキルを教えているんだから要注意だな。


「とある山に野宿をした時とか、その手際を見ているだけでドキドキしたものだ」


 刀華が思い出に浸るように、うっとりとして頬を赤らめる。

 本当に好きなんだなぁ。

 こんなにいい娘を置いて行くなんて、罪な男である。


「秋景殿には、そんなふうに思える女性はいなかったのか?」

「俺に?」


 俺が聞き返すと、刀華は目をキラキラとさせて頷いた。

 年頃の女の子らしく、恋バナがしたいのだろうか。

 まぁ確かに復讐の旅とかより、そっちのほうがよほど良いよな。

 どうにか、話を合わせるか。


 ドキドキか。


 なんだろうな。


 鈴屋さんには確かにドキドキしたこともあったけど、本当に近い存在すぎて……守るべきヒトというか、放って置けないわがままな妹というか。

 現実世界では実際に幼馴染で妹みたいな存在だったわけだから、レーナで無意識のうちにそう感じていたのは、あながち間違ってはいなかったんだろう。

 今は彼女……のはずなんだけど、なんだかずっと距離を置かれている。


 アルフィーは色気はあったけど、あれは意識的に色香を使ってきてたしな。

 恋とかそういうのではないような気がする。

 ラフレシアは、なんだかよくわからん……アルフィーの時より訳わからん。

 ただ、どちらも気さくに何でも話せて信頼できる、大事な相棒って感じだ。


 と、なると……


「そうだな。俺にもいたよ、いつでも俺のことを見守ってくれていた、それとなく側にいてくれた女性だ。何度も助けられたし……そういや、俺も助けに行ったことがあったなぁ」


 顎に手を当て、うんうんと頷く。

 気がつけば懐かしむようにしながら、自然に笑い声が出ていた。


「助けに……それは大変な事件であっただろう」

「あぁ〜まぁ、その時は超強力な助っ人がいたからな。大変っていうか、間に合わないかだけが心配だったな。人生であれ程、焦ったことはないぜ」

「そうか……」


 何故か嬉しそうに笑みをこぼす刀華。


「結果的には間に合ってな。そうだなぁ……あの時か、その少し前に船で冒険をした時かな。その辺りから、たぶん好きではあったんだと思う」

「す……好き?」


 刀華には、まだ刺激が強かったのだろうか。

 随分と動揺しているように見えた。

 恋バナって、こういうのではないのか?

 今度、ラフレシアにでも聞いてみよう。


「その時はまだ、自覚してなかったさ。そもそも俺には、最優先で守らなくてはいけないひとがいたからな。自覚したのは、もっと後だ」

「自覚……していたのか?」

「まぁいつだったか、確かに自覚した覚えはあるよ」


 本当にいつごろかは忘れたけど、出会った順が違っていたなら〜とか、月並みなことを思ったんだよな。

 これは墓まで持っていかねばならない話だけどな。


「そうか、そうなのだな」


 そこで、なぜか刀華は大粒の涙をポロポロと溢し始めた。


「お、おい」

「そうだったのだな」


 随分と感情移入してしまったのだろう。

 刀華はしばらく、流れる涙を止めることができないでいた。

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[一言] やらかしやがったこの荒男(あけましておめでとうございます)
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