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鈴屋さんとワイバーン!〈2〉

ワイバーン編第二話です。

いつもの三話構成では収まらなそうなので、第二話としました。

4~5話くらいになりそうです。


ウルトラライトな文量です。お気軽にお楽しみください。


「トリガー!」


 本日何回目のトリガーだろう。

 連呼しすぎて、いい加減疲れてきた。

 1日でこんなに飛んだのは、さすがに初めてだ。

 それでもなんとか山頂に到着し、抱えていたシメオネを地面に降ろす。

 俺の腕も限界のようだ。

 帰りは歩きにするか、と両膝に手をついて一息を入れる。


「アークさみゃ、おつかれにゃ」


 シメオネが笑顔とねぎらいの言葉を添えて、俺の腕を軽くもみほぐしてくる。

 ……こんな妹なら、ほしいかもしれない…


「さて……」


 ゆっくりと、周囲に目を移す。

 背の高い木に囲まれているが、おそらくここが山頂だろう。

 山道の終わりには積み重ねられた石の塔があり、いかにもそれっぽい雰囲気が感じ取れる。


「アークさみゃ、その下……少し開けてそうにゃ」


 シメオネが黄色い猫目を、細めていく。

 その視線の先には、確かに木が何本もなぎ倒されている空間があった。

 とりあえずダガーをそのまま握り、無言でシメオネを先導する。


「もしワイバーンがいたら、どうするにゃ?」

「……戦らない。この調査も、深入りしないつもりだ」


 間違っても、藪をつついて蛇を出すような行為だけは避けたい。

 安全マージンは、たっぷりとっておかないとな。

 そう考えながら、しばらく藪をかき分けて進んでいくと、目的の場所に到達した。

 とりあえずワイバーンはいないようだ。


「5分ほど軽く調べようか」


 シメオネが小さく頷くと、しなやかな足運びで先に進む。

 その無駄のない動きに、思わず見惚れてしまう。

 さすがフェリシモ達の妹だ。


「これは……」


 倒木された木は、どれも力任せに折られた感じだ。

 おそらくは、ワイバーンが自らの体重で折り倒したのだろう。

 それにしても、ここが巣だとは全く感じとれない。


「アークさみゃ。光り物、ぜんぜんないにゃ」

「あぁ……なんか妙だな。木を倒してスペースは作ってあるが……なんていうか生活感がない」

「そうにゃ。何かを食べれば、骨や死骸が残りそうにゃ。なのに、糞すら見当たらないにゃ」


 ……ただの羽休めの場所なのか?

 しかしこの違和感は、見過ごしていいものじゃない気がする。


「アークさみゃ〜!」


 シメオネが、さらに下の方を覗き込みながら、手を大きくふってくる。


「どうした?」

「下! この下に馬がつながれてるにゃ!」


 シメオネの言葉通り、さらに少し下ったところに馬がつながれていた。

 まわりには乾燥させた野草と、馬具も置いてある。


「人がここに来てるってことか?」


 思わず反射的に体を沈める。


「誰かいるのかにゃ?」

「いや……ここまで、人の気配は感じなかった。高レベルのレンジャーなら、この森林地帯は格好の隠れ蓑になるしな。今から探って、わかるかどうか……」

「どうするにゃ?」


 顎に手を当て、思考を巡らせる。

 色々と不自然で、なにか嫌な予感しかしない。


「戻ろう。とりあえず情報は得ら……」


 と、そこで思わず言葉を飲み込んだ。


 ゴゴゴゴゴゥゥゥ!


 轟音とともに、目の前を大きな影が横切った。

 ついで強烈な突風が吹き抜け、一匹の飛竜が現れたのだ。


「い、いきなりすぎんだろ!」


 どこから、飛んできたんだ。

 さすがは飛竜、移動速度は相当なものってことか。

 ワイバーンの目は、はっきりとこちらを捉えている。

 俺はダガーをワイバーンの背後に投げると、迷うことなくシメオネを押し倒した。


「アークさみゃっ?」

「トリガー!」


 瞬時に茂みの中へ転移し、そのままシメオネの口を左手で押さえる。


「静かに……」


 シメオネが目を丸くしながらも、小さく2度頷く。

 それを確認すると、押さえる手の力を緩め、ゆっくりと背後の様子を窺う。


 ……探しているな……


 このまま、やり過ごせるかは微妙なところだ。

 それならば……と、俺はさらに身をかがめて、シメオネの耳元に口を寄せた。


「奇襲をかけよう。なんとか隙を見て逃げるぞ」


 シメオネが、こくこくと頷く。

 俺は、できるだけ音を立てないように、体を反らせてダガーを構える。


「俺が奴の頭上まで連れて行ってやる。上から、きついのを入れてやれ」

「ま、まかせるにゃ!」


 緊張した面持ちのシメオネの頭を、優しくひと撫でする。


「行くぞ」


 言葉を合図にワイバーンの頭上へ、ありったけの力でダガーを投げつけた。

 そして、すかさずシメオネの腰に手を回してトリガーを発動させた。

 次の瞬間、一瞬で茂みの中からワイバーンの頭上に転移する。

 俺はそのままシメオネを放し、さらに地上に向けてダガーを投げて転移する。

 地上にもどると、すぐにワイバーンを探し……


「俺はこっちだ!」


 着地と同時に声を上げ、タゲを取った。

 案の定、ワイバーンは俺のほうを睨みつけ、木々が揺れるほどの大きな咆哮をあげる。


「吠えてろ、ブレスもはけない竜なんか怖くないぜ?」


 ワイバーンは竜族ではあるが、モンスターレベルはレッサードラゴンやエルダードラゴンには遠く及ばない。

 ブレスも吐けないし、魔法を行使することもできない。

 そもそも言語を理解できないのだから、知能は獣に近いものがある。


 それでも、中級冒険者には強敵だ。

 俺とシメオネだけだと、多少苦戦するかもしれない。

 しかし、不意打ちで重いのが頭に入れば、隙もできるはずだ。


「行け、シメオネ!」


 シメオネがワイバーンの頭上から、練気をしながら落下してくる。

 そして気を纏わせた拳を弓形に引き、ワイバーンの脳天目掛けて振り落とした。

 しかしワイバーンは、それがわかっていたかのように翼を大きく広げ、体を傾けて回避する。


「んにゃぁっ!?」


 ワイバーンの視線は、無防備に落下するシメオネを捕らえていた。


『グォォォアアアアアアッ!』


 咆哮とともに空中で体を1回転させて、長く太い尻尾でシメオネの横から叩き飛ばす。

 シメオネは強烈な一撃をまともに受け、糸の切れた人形のように地面へと叩き落された。

 一瞬で、全身の血の気が引いた気がした。


「シ、シメオネっ!」


 ……やばい、やばい、やばい!

 完全に俺のミスだ。


「おい、シメオネ!」


 マフラーを上げて、全速力でシメオネの元に駆け寄る。

 シメオネは仰向けになって、気を失っていた。

 まだあどけなさが残る口元から、僅かに血が流れている。


「くそっ……くそっ……」


 容態を確認する時間はない。

 今は一刻も早く、ここから離れることこそが先決だ。

 どう逃げるかは、すでに決めていた。

 奇襲は失敗したが、もうその手で逃げるしかない。

 俺は少し下りたところの、馬がつながれていたであろう方向にダガーを投げると、できるだけ優しくシメオネを抱き上げて、トリガーを発動させた。

 幸運なことに、転移先は馬のすぐ側だった。

 手早く木につながれた手綱をほどき、シメオネをうつ伏せにして馬の首元にのせると、馬具もつけないまま飛び跨る。

 ちらりと山頂の方角を見上げるが、この位置からだとワイバーンの姿は見えなかった。


「すまん。少しの辛抱だ……いくぞ!」


 俺は気を失っているシメオネに声をかけ、誰のものかも分からない馬の腹を蹴って山道を駆け下り始めた。



 無我夢中だった。

 時間にして、数分しかたっていないと思う。

 何度も後方や上空を確認したが、ワイーバーンは追ってこなかった。


 ……もう、大丈夫か?


 尚も警戒しながら、少しづつ馬の歩を緩める。

 そして、そのままゆっくりと歩く速さまで落とすと、馬の首元でうつ伏せになっているシメオネを引っ張り、自分の胸に寄りかからせるようにして座らせた。


「シメオネ……シメオネ……」


 肩を抱きながら、名前を何度か呼ぶ。

 こんなに揺らして、大丈夫だろうか。

 頭でも打ってなければいんだが、と心配してしまう。

 南無さんがいない以上、回復魔法を使える人物もいない。


 ……とりあえず中腹の休憩所で、みんなと落ち合うか……


 最悪は、このまま街に戻るしかないだろう。


「……あぁ……く……さま?」


 考えを巡らせていると、唐突に声が帰ってきた。


「シメオネ、大丈夫か?」


 少しだけ声が震えてしまう。

 自分でも気づいていないほど、興奮状態にあったらしい。


「どうなった……んにゃ?」

「すまない、俺の判断ミスだ。シメオネを怪我させた」


 シメオネはいまだ焦点が定まらないのか、ぼんやりと見上げてきていた。


「んにゃぁ……シメオネが……当てそこねたんだにゃ」

「……違う……もっと用心すべきだったんだ。上からの奇襲は俺一人で行うべきだったし、シメオネには、地上から気弾を撃ってもらえばよかったんだ」

「……あの状況じゃ、しょうがないにゃ」


 その弱々しい笑顔が、自責の念をいくらか和らげてくれていた。


「体は……どこか痛まないか? 吐き気とかしないか?」

「背中が少し痛むけだけで、大丈夫にゃ。ギリギリのところで、硬気功を使ったにゃ」

「はは……さすがとしか、言葉が浮かばないよ」

「シメオネは強いにゃ?」

「……あぁ……ほんと、そうだな」


 無邪気に笑うシメオネを、軽く抱き寄せる。


「大姉様が……にゃ……」

「……ん?」

「大姉様が言ってたにゃ……アーク様は面白いって……大姉様がそんなこと言うの、初めてにゃ」

「それは、褒められてるのか?」


 乾いた笑いを見せると、シメオネがこくこくと頷いて返してくる。


「だから、自信を持つにゃ。シメオネは、アーク様を信用することにしているにゃ」

「でもさ……その結果が、これだぜ?」

「違うにゃ。その結果、こうして生きて逃げられてるにゃ?」


 本当に優しい娘だ。

 これ以上、俺が腐っていても仕方がない。


「そうだな……そう考ることにするよ。ありがとうよ」

「にゃししし」


 俺が感謝の言葉とともに軽く頭を下げると、シメオネは少し照れくさそうにしながら太陽のような笑顔をみせていた。

の…能天気な話を書きたい…

ワイバーン編が終わったら書きます…

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