竜攘虎搏《りゅうじょうこはく》(5)
「フェリシモね……」
ロンリュが、鼻の下を指で擦りながら一考する。
情報をまとめている様子だ。
「俺と姉さんは、ゲーム内でも血縁関係だという設定でプレイしていた。ラスターとシメオネの髪の色が同じなのも、より設定として真実味を持たせるためだ。ただゲーム内じゃ、ラスターが兄で、シメオネは妹という設定にしたけどね」
「あぁ、現実とは逆だったんだな」
「俺と姉さんの中での、ちょっとしたお遊びだったんだけどね。で、問題のフェリシモだけど、アレについては俺もよく分からないってのが正直な答えだ」
肩をすくめるようなポーズをとるロンリュ。
彩羽とラフレシアは、やっぱりかという表情だ。
「少なくとも俺と姉さんがあのゲームで遊んでいた時には、フェリシモなんていうプレイヤーキャラクターはいなかったし、聞いたことのない名前だ」
寅虎も、うんうんと頷いている。
「で、サービス終了後だ。俺が侵入プログラムを使用して、久しぶりにあの世界へダイブした時には、すでに一緒に暮らしてたんだよね。俺たちの長姉として、小さな子供を連れて、ね」
「つまり、セブン・ドリームス・プロジェクトが稼働して、泡沫の夢がラスターやシメオネを動かしている間に、フェリシモと一緒になったってことか」
「そうだね。あの人がアサシンで、あの子供を隠してて、ラスターとシメオネを隠れ蓑に使っていたってことしか、結局はわからなかったね。あぁでも、俺が再ダイブするまでの間、ラスターとシメオネを助けてくれて、面倒見てくれていたのは確かみたいだよ」
泡沫の夢は高度な人工知能だ。
時に製作者の手から離れて、それぞれの物語を綴っていく。
何があったのかは七夢さんに調べて貰えばわかるかもしれないが、きっと面倒な作業なんだろう。
それで彩羽とラフレシアが、自分たちだけで調べようとしたってところか。
しかしまぁロンリュも、姉と名乗るフェリシモを警戒していたんだな。
いま思えばフェリシモは黒髪だったし、二人とは似ても似つかない。
となれば、あの姉さんに真の家族はいないのかもしれない。
「フェリシモとかいう女については、いま弟が話した通りだ、秋景君。私も本で読んだが、あんな女は知らん。あんなに強いなら、手合わせしたいほどだ」
「おいおい、それはやめといたほうがいい。フェリシモはあの世界じゃ長姉なんだし、泡沫の夢のシメオネともうまくはやっていた。わざわざ、その関係性を壊すこともないだろう」
ふむ……と寅虎が目を閉じ、腕を組んで考え込む。
黙っていると聡明そうに見えるんだから、外見って大事なんだなと思う。
「秋景君は、AIにも人権がある派か」
「それは……そうだな。権利というか、泡沫の夢に対して、何をしてもいいとは思えない。それが俺の知っている泡沫の夢なら尚更だ。普通に情があるな」
「そうか。私には、あまり理解できない考え方だな。実際のところ、私自身シメオネがどうなろうが……それこそ誰かにその身を許そうが、知ったことではないのだ。弟は気にしているがな」
そこで、ラフレシアの方に視線を移す。
まさに先ほど、ラフレシアと行った問答だ。
「そう言えば、そこの彩羽さんとラフレシアさんから聞いたんだが……秋景君は、他の世界にはぐれた泡沫の夢を助けるために戦っているとかなんとか」
「全然違います。最初は泡沫の夢だと思ってましたけど、事故の被害者なんです。たぶん、あーにぃと同じタイプの」
「話きかねー女ダナ、寅虎にゃんは」
寅虎に対し、連続で突っ込む彩羽とラフレシア。
ロンリュ君も呆れ顔だ。
もっとも、寅虎本人は気にしていないようだが。
「で、私たちに何を頼みたいというのだ? 今日は、そのための集まりなのだろう?」
「あぁ、そうダ。オレと鈴やんだけじゃ、ちいとばかしキツいんダ。この先、強引な作戦に出るかもしれナイ……しかるべき時が来たら。手伝ってくれないか?」
そうしてラフレシアは、今後の作戦を話すのだった。
漫画版では、フェリシモとのバトル
この時のアークの新武器は七夢さん製で、ゲーム内に存在しない強武器で、いわゆる初見殺しです。
それでも負けなかったフェリシモは、まさに個人として最強です。
この頃から、人では勝てないくらい強いという設定です。




