竜攘虎搏《りゅうじょうこはく》(1)
いよいよ11月11日は文フリで、鈴屋漫画本売ってきます。
準備は全力、あとは現地でまったり様子見です。笑
目が覚めたら、そこは見慣れた──
ポッドの中だった。
たしか藤枝卜伝にさらわれて、これから修行に入るってところまでは記憶にあるのだが……なぜにログアウトしてしまったのか。
「オーイ、アキカゲ。目覚めたなら出てこい。説明してヤル」
どうやら、ラフレシアの仕業らしい。
俺はポッドから出ると、手早く体を拭いて部屋着に着替える。
無造作に置かれていたAR端末付き赤マフラーを巻いて隣の部屋に移動すると、そこにはピンクのくノ一装束に身を包んだラフレシアが、ベッドの上で足を組んで座っていた。
「なんだ、その格好は」
「見てわからないノカ? 斑鳩のアルフィーのコスプレだヨ」
「いやだから、なんでその格好なわけ? お前、毎回変な格好で出迎えてくれるな」
「フッフッフッ、サービスにきまってンだろぅ〜♪」
そう言って足先をゆっくりと持ち上げ、挑発的な笑みを浮かべながら足を組み直す。
「最近は美容とかにも、気をかけるようにしてんダ。我ながら良い脚線美だと思うダ〜」
「まぁ、うん、そうですね。色々な問題を考慮して、直視は出来ないですね」
「ちなみにアキカゲは、懐かしの“あーちゃん”ダ」
「なつかしの?」
と、そこで俺もようやく気がついた。
何の気なしに用意された服を着ていたのだが、見ればレーナ時代の忍装束である。
こんな着物を無意識で着れてしまうことが怖い。
よほど、レーナでの生活が長かったのだろう。
「んで、これは一体……っていうかよ、俺はどうやってログアウトしたの?」
「うん、よくぞ聞いてくれタナ♪」
おまけに上機嫌である。
なにか企み事が成功したと、満面の笑みから読み取れる。
「外部からの強制ログアウトを、テストしてみたんダ。またアキカゲが、出れなくなったら困るダロ?」
「おぉ……それは安心だが……これって、あれだよな」
俺は周りを見回し、彩羽がいないことを確認し話を続けた。
「七夢さんに知らせてない、非公式ってやつだよな?」
「モチロンだゼ〜。出し抜いてやったゾ!」
相変わらず七夢さんに対しては、対抗意識が強い。
まぁ他にも、このプログラムを試すための許可取りとか大変なんだろうし、そもそも斑鳩はテストでしか運用していないクローズドシステムだ。
非公式でしか試せないってのが、実情なんだろう。
「強制ログアウトとかって、危なくないのか?」
「危ないわけないだろう、と言いたいところダガ、アキカゲはドリフターだ。ドリフターは魂でダイブしてるって説もあるし、ちょっとだけ不安はあったケド.....でもオレは、オレのプログラムを信じることにシタ。いかにドリフターであろうと、現実世界を認識したあとならログアウトさせられるってナ」
「いやまぁ、実際できたからすげぇですけど。オレにはさっぱりな領域だし。しかし、いつの間に」
浮かれたハート型のソファに、ボスんと音を立てて身を預ける。
まったくもって、この天才ハッカー様は説明不足である。
「あー。まずは、例の遊郭から観測されないように斑鳩の街に出れるかどうかを、鈴やんとテストしてダナ……」
「彩羽と? それってあれか? 白露が言ってたやつか?」
たしかそれは、水雲凛との試合当日の話だ。
──スーズー殿、もうひとり連れが増えていたなぁ
──もうひとり? 妖霊で?
──いや、人であったぞ。フード姿で顔までは見えんかったが……ありゃあ〜多分、いい女だ。そんな匂いがした
──なんだそりゃ。おっさんの直感か?
──動きでわかるのよ。良い肉をした、エロい女に違いない
──言い方が、露骨にひでぇ
「なるほど、アルフィーのことだったのか」
「なんだ見られてたのか。ますます白露ってのは、油断ならないナ」
「たしかに、的確な表現だ。油断しない方がいい」
「的確?」
ベッドの上で首を傾げながら座り直すラフレシアに、俺は何でもないと返す。
その格好で内股座りとか、本当に無自覚にスキを見せるから危なかしい。
さりげなく目を背ける俺の気配りを、誰でもいいから褒めてほしい。
彩羽とか、基本スキないからな。
「オレがしっかりアキカゲを目視で観測していれば、強制ログアウトは可能ってことダ。アキカゲが宇宙船を、現実の世界だと認識していればの話だケドな」
「それは、ひと安心だな。しかしじゃあ、ずっと俺は見られていたのか?」
「アルフィーは斑鳩じゃ、くノ一だからナ。実際はレーナのアルフィーをコンバートしてるから、中身は軽戦士だけど、斑鳩での隠密スキルも習得しておいたンダ。で、アキカゲが誘拐されてくところを後ろから追って、ログアウトさせたんダゼ♪」
「ちょっと待て。そしたら今、斑鳩の俺はどうなってんだ?」
「どう? これまでのアキカゲの行動データで造ったAIが、動かしているゾ?」
ぞわり、と嫌な感覚に襲われる。
それはつまり、泡沫の夢ってやつだ。
「ま、待て、それ大丈夫なのか?」
「行動と使用スキルの制限はしてあるから、他の世界のキャラだとバレることはないハズだ」
「いや、それもあるけど。こう……誰かに手を出したり、とかだな」
「あー、まー、アキカゲのAIだから、ナー。いろんな女をその気にさせて、いろんなことするカモなー。な・ん・せ、アキカゲのAIだからナー」
「ちょっと待て。まじで洒落にならないだろ、それ!」
「どうだ。自分のアバターをAIに操作される不快さが、理解ったか? 麻宮七夢は、スペース・バスの事故の被害者を助けるためとはいえ、そんなことやってんダゾ?」
「うぐ……」
自分がその身になって、初めて理解る。
これは本当に嫌だ。
AIに動かされた俺の分身が何か悪さでもしたらと思うと、寒気がしてくる。
「何なら誰かを好きになって、抱かれるかもしれないんダゾ?」
ラフレシアはベッドから降りると、俺の目の前まできて腰をかがめる。
そして俺の首に腕を回し、そのまま膝の上に跨るようにして、向かい合わせで座った。
「お……や、ちょ……」
「こんなことを、知らない奴としてるかもしれないンダ。オレが七夢に不正ログインしていた気持ち、理解るだろ?」
「あぁ……いや、まぁ、知らない男とアルフィーが、こんなふうにしてるかもと思うと……なんかすごく嫌だけど。なんならこんな事が起きないように、アルフィーってキャラを消してほしいと思うくらい嫌かもしれない」
「わかればいいんダ。とはいえ、そういった行為に及べないよう最低限の倫理コードはついているんダケどな。オレみたいなハッカーでもない限り、コードの解除なんで出来ないだろうし。もちろん斑鳩の泡沫アキカゲも、こういうことは出来ないように設定してあるから、安心シロ」
「うっ……信じるしかないか。でも戻れるのなら、早めに戻りたいぞ?」
「わかってる。今回のログアウトにはテストの他に、もうひとつ理由があるンダ」
「理由?」
俺が聞き返した時だった。
扉の開く音とともに、三人の来訪者が現れたのだ。




