刀華殿、ご乱心!(2)
更新、お待たせしました。
紙媒体の漫画本をつくってました。
他にもブックカバーやらPOPやら表紙やら……作業継続中……
俺たちが案内されたのは、縦に長い大きな広間だった。
向かって左側には壁のように襖が並び、右側にはすだれが掛かっていた。
すだれの向こうには、先ほどまで自分たちがいた試合会場が見えている。
やはり、ここから何者かが見ていたのだろう。
何者か……
そう。
試験を主催し、監督していた者たちだ。
そしてその人物たちは、まさに俺の目の前にいた。
「来たなぁ、十月紅影流〜」
「いやいや。この中で十月紅影流を使っていたのは、お嬢ちゃん一人だけだぜ」
「しかしなんだ。ずいぶん人数が増えておるな。妖霊まで、おるではないか」
「外にいた戦力も、十月紅影流ってことかえ?」
「まぁ、まとめて十月紅影流の一団ってことでいいんだろうがな」
「さて、皆の衆。どう割り振るね?」
部屋の両脇に座っていた六人の剣士が、一斉に喋り始める。
情報量が多すぎて、まとめるのが大変だ。
雑にコテゴリー分けをすると、二十〜三十代の剣士が三人、四十代の初老の剣士が一人、紅一点のおねぇさま剣士が一人、そして七十代ぐらいの爺さん剣士が一人って感じである。
「あぁ、すまんのぅ。儂が代表して説明しようかねぇ」
爺さん剣士が立ち上がると、部屋の真ん中まで歩を進める。
体は小さいが、歴戦の強者だと圧だけで読み取れる。
「我々が妖魔軍討伐隊の侍大将、俗に言う『七支刀』じゃ」
おぉ……いきなり出てきたか。
ってぇことは、これが味方側の主戦力ってことだ。
確かに、どいつもこいつも他とは違う雰囲気を出している。
「まずは妖魔軍討伐隊への入隊、おめでとう……と言っておこうかのぅ。まぁ、腰を下ろして楽にせい。お主らには既に、いくつかの選択肢を考えてあるのじゃ」
「選択肢?」
刀華が、ちょこんと正座をして聞き返す。
俺は刀華と並んで胡座をかくと、白露と凛も後ろで座り始めた。
スーズーは俺の肩にとまって、周りの様子を窺っている。
「見れば、お主らは変わった集団のようじゃ。そこの男は、一心十鉄流ゆかりの者。そちらのお嬢ちゃんは……たしか負けたはずの、水影流の当主じゃったな。貴公も、十月紅影流ではあるまい?」
「まぁそうだな。一応、俺は弟子だがな……みなは、バラバラだ」
というか、この中で純粋な十月紅影流は、刀華しかいない。
試験主催者側としても、かなり異例の状況なのだろう。
「通常であれば流派に合わせた師を当てがい、奥義を授け、最前線に向かってもらうのじゃがな。先の試合を見たところ、お主らは独自の判断で、自由に動いた方が良さそうじゃ。俗に言う、自由剣士と呼ばれる者じゃな」
爺さん剣士が、値踏みするかのように視線を這わせてくる。
「まずは一心十鉄流。お主、奥義を習得したいか?」
「拙者か? 貰えるモノは、貰う主義だ」
「ふむ、決まりじゃ。雷の奥義は、七支刀の竜閃より教わるがよい」
流派の属性ごとに、奥義をもらえるって感じか。
後ろの剣士たちが無反応すぎて、誰が竜閃なのか見当がつかない。
そもそも七支刀なのに六人しかいないのは、突っ込んでいいところなのだろうか。
「次に水影流当主。お主はどうじゃ?」
「うぅん、妾は既に強いからのぅ。あまり興味はないのじゃが……まぁ、どんな技か見てからかのぅ?」
「そうか。では水の奥義、七支刀の流麗から教わるがよい」
「なんだい。結局わっちは、ジャリの世話かえ」
あのおねぇさま剣士が、水属性の七支刀か。
絶対に凛とは、馬が合わないと思う。
謎に確信が持てるぞ。
「十月紅影流当主、お主には……」
「いらぬ」
爺さん剣士の言葉を制して、キッパリと言い放つ刀華。
「いらぬ?」
「いらぬ。某の目的は妖魔軍討伐隊『七支刀』に入ることだ。それにより得られる道場再建のきっかけと、妖魔軍との戦闘こそが目的。故に奥義など興味がない」
「いや、しかしのぅ……」
「いやだ、秋影殿とは離れぬ」
おそらく、この場に居合わせた全員が目を丸くしたことだろう。
もはや、俺も言葉が出ない。
「貴公らは、そういう……」
「いやいやいや、待て待て、誤解だ。弟子と離れることが……つぅか刀華は、自分の弟子を取られると勘違いしてるんだ」
「なにを言っている、秋影殿」
俺が弁明を始めると、真剣な眼差しで邪魔をしようとする刀華。
まじでどうした、この娘。
「いいか、刀華。白露じゃないが、貰えるもんは貰っとけ。今後の旅で、役に立つだろ?」
「それはそうだが……」
むぅ、と考え込む刀華。
やがて納得してくれたのか、しぶしぶと頷いた。
「変な奴らじゃの。では焔の奥義は、七支刀の豪双より教わるがよい」
やはり無反応で、どれが豪双なのかは分からない。
むしろ誰に刀華を預けるのか、俺のほうが気になる。
「さて、問題は……」
爺さん剣士が、俺に視線を向けてくる。
「お主じゃよ」




