ただ、揺蕩うように(3)
頬をおさえながら、大きく目を見開くアーク殿。
なぜにビンタされたのか、という顔だ。
なんか、それすら、かわいい。
なんか、思わず、ニヤけてしまう。
いや、それよりもやってしまった。
今までは鈴屋に譲る気持ちが強かったから、こんなつまらないことでヤキモチなんて妬かなかったのに。
とりあえず今の私の情緒は、竜巻よりも激しくグルグルとまわっている。
「あーにぃ、お疲れー」
「お……おぅ。さっきは有難うな、助かった」
「ん〜、まぁそういうのは? 私の? お仕事ですから?」
どこから見ていたのか最近つきまとってくる妖霊が、パタパタと飛んできて得意げに鼻を鳴らす。
そういえばこの妖霊、ちょっと彼に馴れ馴れしい気がする。
急に現れたわりに、最初から好感度マックスでベタベタとしている。
「さすがスーズー。マイハニー様さまだぜ」
「はいはい、そうですねー。あとココでその呼び方、冗談でも駄目だからね?」
「う、そうですよね。すいません……」
……。
…………。
……これ、鈴屋だ。
これほどそのままなのに、気づけなかったなんて。
ということは、あのあと二人は外の世界に無事還れたのですね。
……えっと。
じゃあ、二人はそのまま付き合ってしまったということ?
たしか師匠の話によると、色々難しい問題があって簡単には再会できないとかナントカ……まぁでもこの二人ことだし、きっとなんとかしたのだろう。
とにかく、この再会が嬉しくて仕方ない。
油断をすれば、涙が溢れ出そうなほどだ。
「ねぇ、あーにぃ?」
「うん?」
「なんで刀華さんは、あーにぃと腕を組んでいるのかな?」
えっ……と、アーク殿が視線を向けてくる。
けっこう痛めつけられていたから、私が腕を組んでいることに気づかなかったのだろう。
こうして、アーク殿の顔を斜め下から見上げる感じ。
この角度のアーク殿。
ハチ子的に、とてもお気に入りなのですよ。
「怪我をしているから、支えているだけだ。秋景殿は、よく頑張ったからな」
なんとか口調を、“刀華モード”に戻す。
「ふーん。そんなの、私が治しちゃうし」
「それはありがたいが、今日は某が労をねぎらいたい。できれば師匠と弟子の二人だけで、祝杯をあげたいのだ」
「はぁ?」
明らかに怒り顔のスーズー。
変わってないですね、鈴屋は。
相変わらず、不機嫌になりやすい。
「おぉい。拙者も一応は、貢献したのだぞ。ちょっとだが」
「あぁ、白露殿にも感謝せねばな。これまで有難う。達者でな」
「え……おい、嬢ちゃん。これでお役御免って、そりゃあんまりじゃ?」
「なにを言う。最初から、そういう契約であっただろう。これから先は、某と秋景殿の二人旅だ。誰もついては来させぬぞ」
口をぱくぱくとさせる、長月白露。
もともと解雇しやすい傭兵を探していたのだから、この扱いは当然というもの。
というか、私はアーク殿と二人きりになりたいのです。
こんなチャンス、レーナでも中々なかったんだから。
「ちょ、なにを言ってるのかな!」
「そもそも、そなたは何なのだ。なぜついてくるのだ?」
「そ、それは……」
ごにょごにょと口籠る、スーズー。
鈴屋にしては、設定が甘いですね。
何か事情があって、急遽来てるって感じですか?
「まぁまぁ二人とも。まずは刀華の、“第一の目的”を達成したんだ。道場再建に関わることだしな。祝杯くらい師匠と弟子だけで、ってぇのはわかるぜ。もちろん今後のことは、ちゃんとみんなで話し合おうぜ」
「まぁ旦那が、そう言うなら……」
「私は、納得いってないけどね!」
抗議の声を上げる二人を無視し、私はアーク殿の横顔を存分に堪能していたのだった。
1の正ヒロインは鈴屋さんで、タイトル通りに鈴屋=彩羽の物語です
常につきまとう罪悪感と、いつか終わる仮想空間での楽しい時間と、それら現実から目を背けてしまう、妹のように可愛かった幼なじみの苦悩を描いた物語です
一方、2の正ヒロインはハチ子です
ご存知の通りハチ子は、1の時からアーク/秋景と独自の物語を育んでいます
それに対する彩羽&ラフレシアの関わり方、それぞれの立ち位置、考え方やラブコメ部分の結末が、2の主な見どころです
(アークは全編通してモブ主人公です)
作者的には1でタイトルは回収済、2はファンディスク感覚なのですが、なんかしっかり長い話になってきましたし、わちゃわちゃ楽しいラブコメを書ききりたいですね
ちなみに作者の個人的なイチオシは、ラフレシアなんですけどね笑




