鈴屋さんとワイバーン!〈1〉
ワイバーン戦の前編になります。
なかなか日常編が書けませんが、ワイバーン編の次辺りにと考えています。
連休の暇つぶしに、さらっと読み流してください。
楽しんでいただければ幸いです。
レーナの町から2日ほど離れた山道に、俺たちの姿があった。
俺達とは、俺、鈴屋さん、ハチ子、シメオネ、ラスターの5人だ。
南無さんは残念ながら、まだ帰ってきていないようだった。
ワイバーンについてギルドで確認したところ、いまだに討伐はされていないようで、俺と鈴屋さんはそのまま依頼を受けて、ワイバーンが飛び去ったとされる山に向かったわけだ。
ワイバーンは、街道や遺跡で人に襲いかかっては決まって同じ山に逃げ込んでいる。
山頂付近に何度も降り立つ姿を確認されているため、そこまで行けば何らかの手がかりはあるはずだ。
とにかく今は、山頂目指して登るのみである。
「遠いにゃぁ……途中に小さい宿があるって聞いてるんにゃけど……」
うんざりした表情で、シメオネがぼやく。
脳筋のくせに、根性がないやつだ。
「あぁ……中腹に“竜の爪痕”とかいう宿があるらしい。とりあえず、今日はそこまで行こうぜ」
汗を拭いながら鈴屋さんの方に目をやる。
……なぜだろう。
息ひとつきれていない、いつもどおり涼しい顔だ。
ラスターもクールを装っているが、汗をかいてる。
ハチ子はかわいい……じゃなくて、例の黒いキュロットスカートとタンクトップ姿で、軽快な足取りで登っている。
「……鈴屋さん、思ったより体力あるんだね」
「ん? 私は、ノームさんの力を借りながら登ってるだけだよ?」
「な、なにそれ……?」
「あんまり足に負担が、かからないようにしてくれるの。疲れたら、そのまま運んでもらってるし」
気づかなかった?と、笑顔の鈴屋さんに、そんな余裕なかったですとは言えない。
だいたい、そのまま運ぶってなんだ。ぜひ、見せてほしいぜ。
細かいところで、そういった応用を効かせるのは流石だ。
「うにゃぁ〜疲れたにゃぁ〜」
「シメオネ……少し黙って登ってほしいね。兄として少し恥ずかしい」
シメオネが冷たく窘められ、口をへの字にする。
この男は、もう少し優しく言えないのだろうか。
「らすたぁ兄様は、冷たいねぇ?」
「……君には関係ないだろ」
「まぁ人んちのことに、とやかく首を突っ込む気はないけどさ……もうちょっと、言い方ってもんがあるんじゃねぇの?」
「アークさま、シメオネは平気にゃ。兄様も大姉様もとても賢くて強いから、私がもっとがんばらにゃきゃいけないにゃ」
本人にそう言われると、首を突っ込めなくなる。
どうにも澄ましたラスターの表情が気に入らなくて、黙ってられない。
「アーク殿、よければ私が先行して、山頂まで偵察に行きますが……」
「い、いやいやいや。それは危ないし……なんか悪いよ」
「それ……なら……シメオネが、いく……にゃ……」
ヘロヘロの猫娘が何を言う。
「君が行けばいいんじゃないかな? 君には便利な道具があるのだろう?」
……むっ。そうだけど……お前に言われるとなんか腹立たしいぞ。
「それならば、やはりハチ子がお供をします。この中で、一番足が速いのは私です」
「ん〜。テレポートは、抱きかかえれば、もう1人連れてけるからな。そうだな。ハチ子さんと鈴屋さんは、ラスターと一緒に中腹の宿で休んでてよ。俺とシメオネで、偵察に行ってくるからさ」
「んにゃん?」
「えー、なんで? 私があー君と行くよ!」
……その主張、とっても嬉しいんですけど……
俺と鈴屋さんが行くと、ハチ子が残ることになってしまう。
ラスターと、その背後にいるであろうフェリシモの存在を考えると、ハチ子を一人で置いて行きたくないってのが心情だ。
もちろんハチ子を連れて行って、鈴屋さんを置いていくなんてことは、もってのほかだ。
だからと言って、俺がラスターを抱きかかえて連続トリガーするのも気持ち悪すぎる。
そうなると、シメオネを連れて行くのが最も妥当だろう、という考えに至ったわけだ。
シメオネは軽装備だし、戦闘能力も高いんだから文句なしである。
「……そういうことですか。わかりました、アーク殿」
「察しが良いね。うん、それが一番安心かな」
さすが、ハチ子である。
本当に察しが良い。
「……納得いかなぃ……」
「そんなムスッとしないで。かわいいんだから、もう」
思わず声に出してしまい、鈴屋さんが真っ赤になっていく。
鈴屋さんには、あとでちゃんと説明をしとこう。
「それでかまわないか、ラスター?」
「……兄としては複雑な心境だが……正直山頂まで行きたくないから、任せよう」
「よし、決まりだ。じゃぁ行くか、シメオネ」
「んにゃぁ? あーく様はぁ~、シメオネ……が……いいのかにゃ?」
『が?』
シメオネの言葉に、鈴屋さんとハチ子がハモリで反応する。
なかなかどうして、シメオネも挑発が得意なようだ。
「合理的に考えただけだって。いいから、失礼するよ」
右手でダガーを抜き、左手でシメオネの腰から抱える。
武闘派だからゴリゴリの筋肉系だと思っていたのに、意外に軽い。
なんなら柔らかいし、さすがは猫だ。
「んにゃぁぁんっ!?」
「ちょ、変な声出すなよ!」
「あ、あーくさみゃぁ……大胆だにゃぁ」
「必要以上に、くねくねすんなっ!」
シメオネは、いわゆる変身型の獣人と違って、人間の部分が色濃く残っている。
というか、尻尾と猫耳以外は普通の女の子なもんだから、ビジュアル的に始末が悪い。
これでは鈴屋さんに……
「……あー君?」
「はいぃぃ、行ってきます!」
俺はマフラーを口元まで上げると、逃げるように山頂へ向けて連続トリガーを開始した。
それから十分後……
もう何度したかわからないほどの連続トリガーを行い、さすがに俺も疲れて休憩を申し入れた。
途中で宿らしき小さな建物も確認できたし、山頂まであと2〜3分ほどトリガーを続ければ着くだろう。
さすがの移動速度だが、慣れないシメオネには少々きついようだった。
「め……目が回ったにゃ……」
シメオネの目が、ぐるぐると揺れている。
これが漫画なら、渦巻きラインで表現されているはずだ。
たしかに連続トリガーは、極端に景色の流れが激しくて酔いやすい。
俺も最初はそうだったから、今はかなり慣れてしまっているんだろう。
「大丈夫か?」
俺がすっと水袋を差し出すと、シメオネが躊躇することなく口をつけて、ごくごくと大きな音を立てて飲み込んでいった。
なんか、餌付けしている気分である。
「……んにゃぁ。それにしても、すごい武器だにゃぁ」
「だろ? シメオネやラスターが使ったら、相当すごい戦い方が出来ると思うぜ?」
頭の中で、有名な漫画を思い起こす。
最初は冒険活劇だったのに、後半はテレポートとか使い始めて、収拾がつかない格闘漫画になってったなぁ。
あの漫画みたいな距離無制限のテレポートに比べれば制約はあるけど、これだって十分チート武器だよな。
「私と兄様が使ったら……それは違うにゃ、アークさみゃ」
「ん?」
「大姉様ならともかく、私や兄様じゃアークさみゃほどうまく使えないにゃ」
「……なんでさ?」
「その武器、とんでもない反射神経と、判断速度が必要にゃ。しかも、常に次の手を考えながらにゃ。普通は、そんなことできないにゃ」
「……なんか褒められてるみたいで、照れるな」
「褒めてるにゃ!」
なぜか自慢げに腕を組んで、鼻をふんっと鳴らす。
なんだ、おい、かわいいじゃないか。
「いつかまた、真剣勝負をしたいにゃ!」
「まぁ、シメオネならいいけど。じゃあ……今度、練気のやり方を教えてくれよ」
「お……アークさみゃ、気闘法に興味があるのかにゃ?」
「あぁ、習得してみたいな。ダガーの戦闘に限界を感じるし。シメオネの体術は、俺の戦い方に活かせそうだ」
んふぅ〜と、シメオネがにんまり笑う。
なぜか、すこぶる嬉しいようだ。
「そうにゃ、そうにゃ。こう見えて、シメオネは攻撃力だけなら最強にゃ!」
それは、火力馬鹿ってやつだ。
たしかに、俺やフェリシモみたいなタイプは火力も低いし、ミスリルゴーレムやドラゴンみたいな相手だと効果的なダメージは与えられない。
シメオネの方が、よほど効果的なダメージを与えられるだろう。
しかし……だからと言って、フェリシモやラスターに勝てるわけでもない。
火力と強さは、必ずしも比例するもんじゃないってことだ。
……にしても……このネコ娘の、家庭環境が気になって仕方がない。
「シメオネ。お前さ、家で大変じゃないの? あの兄と、あの姉にはさまれて」
「ん〜〜。兄様も大姉様も、家だと優しいにゃ。でも……アークさみゃは、もっと優しい……にゃ」
なぜにそこで、モジモジするのだ。
俺がときめいたら、どうしてくれるんだ。
獣人系に萌えるとか……そんな新たな趣味、俺は開拓したくないのだ。
「どうしたにゃ、アークさみゃ」
「あ……あぁ。いや、大丈夫ならいいんだけどさ」
「アークさみゃは、優しいにゃぁ」
この娘はいい子なんだけどなぁ……やっぱりフェリシモのことを考えると、あまり関わり合いたくない。
どうやら俺は、しっかりと恐怖を植え付けられているようだ。
「アークさみゃ、シメオネはもう回復したにゃ」
「そうか。じゃあ、そろそろ行こうかね」
俺は、愛嬌あふれる表情でこちらを見上げてくるシメオネの頭を撫でると、山頂に向けて再びトリガーを開始した。
次回に続きます。
【今回の注釈】
・最初は冒険活劇だったのに、後半はテレポートとかし始めて〜……ドラゴンボールですごめんなさい。やっぱりフリーザまでですよね
・火力馬鹿……当たらなければどうということはない…のですが、いないと困るダメージソース。やたら硬い敵や大きすぎるモンスターには火力が物をいいます。というかダガーでミスリルゴーレムに傷を負わせることなんて出来ないと思われ…
・太ももが見え過ぎ……そろそろお気づきの方もいられると思いますが、あー君は太ももフェチです




