ただ、揺蕩うように(2)
「おい、本当に大丈夫か? なんか、ぼっとしてるみたいだが」
そう言って、彼がペチペチと私の頬をたたいてくる。
途端に自分の頬が、カァッと熱を帯びてしまった。
「ひゃぁ!」
思わず両頬を押さえ、飛び退いてしまう。
「な、なんだよ。そんなに嫌がらなくても……」
「いえ、そうではなくて!」
ダメだ。
アーク殿だとわかってしまうと、刀華を演じられない。
きっとここでも、月の目とやらに観測されているはずなのだ。
アーク殿側の状況を聞かないことには、自分がハチ子であることも明かせない。
「あー、あー、あー」
「あぁ?」
「秋景殿……」
「なんだよ、さっきから。マジで大丈夫か?」
ダメだ。
どう切り出せばいいのだ。
どうすれば、気づいてもらえるというのだ。
「とにかくこれで、試験も合格。道場再建への道も一歩すすんだな」
「あぁ……えぇ、はい」
もはや道場とか、どうでもいい。
どうにかして気づいてほしい。
気づいて、そして、抱きしめて……
抱きしめて。
……抱きしめて?
いや、今のままだと“刀華”が抱きしめられるだけで、それって全然ダメなのでは!
いやでも、頭のひとつも撫でてほしい。
……って、やっぱりダメダメ、それはダメ。
撫でるなら“刀華”じゃなく、ハチ子を撫でてほしい。
「あとは『幻影剣の綾女』を探すだけだぜ」
「そ、それそれ! ソレです!」
「なにそのテンション……なんか、やっぱ変だぜ、刀華」
訝しむ彼に対し、そんなことはないと首を横にふる。
しかしこのまま『刀華 in ハチ子』と遭遇し、勢い余ってあんなことやこんなことをアーク殿がしてしまったら、中身の刀華も可哀想だし、私もいたたまれない気持ちになってしまう。
なんとかして気づいてもらいたのだけど……
「可愛いなぁ、刀華は」
カカカと笑う彼に対し、言いようのない感情が芽生えてしまい……
「可愛い……刀華が? 可愛いって何ですか! そうやって、すぐまた、あなたは!」
思わず頬を叩いてしまったのだ。




